フォルクスワーゲン「ID.シリーズ」~モデル別の発売目安時期と車種別特徴の違い
ID. シリーズは、これまでフォルクスワーゲンを支えてきた代表的な車種であるビートルやゴルフシリーズに続いて、世界市場に一大ブームを引き起こす可能性を秘めているEV(電気自動車)です。
化石燃料を燃焼させた際に発生する排気ガスの影響による環境被害を引き起こさないEVは、未来の車社会の主役となります。
ここでは、フォルクスワーゲンが新開発したEV用プラットフォーム・MEBを導入するID.シリーズの各モデルの発売目安時期と、車種別の特徴の違いなどについて紹介します。
ID.シリーズの車種別特徴の違いと発売目安時期
このセクションでは、2020年に発売を予定するハッチバックスタイルのEVである「Neo(仮称)」やラグジュアリーセダンタイプの「ID.VIZZION」、市販化される可能性は低いものの世界各地のヒルクライムコースで新記録を樹立するEVスポーツカー「ID.R Pikes Peak」などの、フォルクスワーゲンID.シリーズの車種別特徴を紹介します。
「ID.SPACE VIZZION」は7番目のEVコンセプトモデル 航続距離は590kmに到達
フォルクスワーゲンは2019年11月19日に行われたロサンゼルスモーターショー2019のプレビューイベントで、4ドアセダンEVのコンセプトカー「ID.スペース ビジョン(ID. SPACE VIZZION)」を発表しました。
EV用プラットフォーム「MEB」を採用したID.スペース ビジョンは、一度の充電で航続距離590kmに到達。容量82kWhのバッテリーをフロア下部に搭載します。
車内にはフルデジタルコックピットを完備し、15インチの大型タッチスクリーンをインパネのセンターに設置。クリーンなイメージのシートには人工レザー「AppleSkin」を採用しています。
なお、ID.スペース ビジョンの量産モデルは2021年後半に登場すると予想されます。
2020年発売の「ID.」はガソリン・ディーゼル車からの乗り換え需要を掘り起こす第一のラインナップ
2016年9月に開催されたパリモーターショーで初披露されたコンセプトカー「ID.」は、フォルクスワーゲンを代表する車種であるゴルフをイメージさせるボディに、ラジエーターを設置しない、フロントグリルに開口部を持たせないなどのEVの特徴を組み合わせて、スタイリッシュなエクステリアを完成させます。
フォルクスワーゲンの電気自動車である「ID.」シリーズは、単にガソリン車が搭載していたシャシーに改良を加えるのではなくて、ゼロベースで設計されたEV専用のシャシーを採用して「ELECTRIC FOR ALL(すべての人々のために電気自動車)」の理念を実現させます。
2020年の発売を予定する「Neo(仮称)」は、空気抵抗の要因であるドアミラーはなくして、後部エリアの安全確認はモニターに表示される映像で確認して行うなどの機能性を備えます。
IDシリーズ第一のラインナップとなる「Neo」は、液体冷却システム等を備えるバッテリーを搭載して、30分の充電で約400kmの距離を走行可能とさせます。ガソリン・ディーゼル車から、EVへの乗り換え需要を誘発させる役割を果たす同車のエントリーモデルの販売価格は約270万円となる見込みです。
全長 | 4,100mm |
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全幅 | 1,800mm |
全高 | 1,530mm |
ホイールベース | 2,750mm |
バッテリー容量 | 111kWh |
システム最高出力 | 170PS |
0‐100km/h加速 | 8.0秒 |
航続距離(EPA) | 約467km |
最高速度 | 約160km/h |
販売価格 | 約270~約355万円 |
フォルクスワーゲン「ID.シリーズ」の充電法は、急速充電を可能とする有線接続と車を置いておくだけで電気が貯まる非接触型の2タイプ
フォルクスワーゲンの「ID.シリーズ」は、急速充電を可能とする有線接続と、特定の場所に車を停めておくだけで電気が貯まる非接触型の2タイプの充電法を採用します。
シリーズ第一のラインナップとなる「Neo」は液体冷却システム等を備えた高性能バッテリーを搭載して、30分以内にバッテリー容量の80%程度の充電を可能として実用性を向上させます。
2022年発売予定の「ID.CROZZ 2」はSUVの無骨さに4ドアクーペのスタイリッシュさを加えるクロスオーバー
フランクフルトモーターショー2017で初披露された「ID.CROZZ 2(ID.クロス2 )」は、フォルクスワーゲンが完成を目指すクロスオーバーSUVタイプのコンセプトカーです。同車は上海モーターショー2017に出展された「ID.CROZZ」の改良モデルにあたります。
ID.クロス2のエクステリアの特徴は、Bピラーを設置していない、ワイドボンネットやブラックルーフを採用していることです。「オープンスペース」とも表現される室内空間では、多彩なシートアレンジによって室内スペースを有効活用します。
ボイスコマンドによってドアを開閉して、ID.パイロットと呼ばれる自動運転モードをON・OFFできる機能や、新開発のクリーンエアシステムとネーミングされた空調装備などを備えている事も同車の魅力です。
ID.クロス2は、フロントとリヤに配置する2基のモーターと、4MOTION(4輪駆動システム)等で構成されるEVパワートレインによって、最高速度180km/h・最大出力225kW・航続距離は500km(NEDC:新欧州ドライビングサイクル)のスペックを実現させます。
フォルクスワーゲンID.シリーズは新開発のEV用プラットフォーム「MEB」を導入
ID.クロス2等のフォルクスワーゲンID.シリーズには、EV用に独自開発された新プラットフォーム「MEB(モジュラーエレクトリック ドライブ キット)」が導入されます。
EVが、動力源とするモーターをギアボックスも含めてリアアクスルに組み込んで、バッテリーと他のコンポーネントを一緒に車両フロア下に搭載可能とする同プラットフォームを採用すれば、モーター出力を効率良く伝達できるだけではなく、内外装のデザインの自由度が広げられます。
ID.クロス2の市販化モデルは、MEBを採用する事で、Bピラーを設置しないなどの自由度の高いボディを実現させる見込みです。
ワーゲンバスの新型モデル「ID.BUZZ」は2022年発売予定~ツートンカラーにLEDポジショニングランプ等の先進装備を組み合わせる
2022年発売を発表した「ID. BUZZ(ID.バス)」は、日本でも人気の高いワーゲンバスの新型モデルという事もあって注目を集めています。同車のエクステリアの特徴は、ガソリン車モデル時代から支持されるツートンカラーに、LEDポジションランプ等の先進装備を組み合わせている事です。
ID.バスのインテリアは白を基調としながらも、ポップなイエローカラーによって各パーツにアクセントを加えてオシャレ度をアップさせています。スクエアタイプのステアリングホイールは自動運転モード時にはパネル内に格納されます。
フロントとリヤにモーターを配置して、最大容量110kWhのバッテリー等を組み合わせてパワートレインを完成させる「ID.BUZZ」は、最高速度は160km/h、航続距離は430kmの達成を目指します。
全長 | 4,942mm |
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全幅 | 1,976mm |
全高 | 1,963mm |
ホイールベース | 3,300mm |
乗車定員 | 8名 |
バッテリー容量 | 110kWh |
フロントモーター | 1基 |
リアモーター | 1基 |
システム最高出力 | 375PS |
0‐100km/h加速 | 5.0秒 |
航続距離(NEDC) | 約430km |
最高速度 | 約160km/h |
「ID.VIZZION」はマルチメディア移動オフィスとしても利用可能な未来社会の高級サルーン
2018 年3月に開催されたジュネーブモーターショーで世界初公開された「ID.VIZZION(ID.ヴィジオン)」は、フォルクスワーゲンが2022年の発売を目指すピユアEVのラグジュアリーサルーンのコンセプトカーにあたります。
同車の市販化モデルは、自動運転レベル5をクリアして、フォルクスワーゲンの車としては、初めてステアリングやペダルを取り外します。
ID.ヴィジオンは、AR(拡張現実)の技術を応用させて、ジェスチャーやボイスコントロールによるエンターテインメントシステムの操作や、車内の温度調整等を可能とします。
同車は、前後の状況確認を行えるレーダーセンサーや、360度ビューカメラなどの高性能センサーに、未知の状況に対しても推測可能な能力を備えるAI(人工知能)を組み合わせて、自動運転レベル5をクリアします。
実用化されれば1,000万円以上の販売価格となる可能性の高い「ID.ヴィジオン」の市販化モデルは、最大容量111kWhのリチウムイオンバッテリーと2基のモーターによって、665kmの航続距離を目指します。
全長 | 5,163mm |
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全幅 | 1,947mm |
全高 | 1,506mm |
ホイールベース | 3,100mm |
バッテリー容量 | 111kWh |
フロントモーター | 1基 |
リアモーター | 1基 |
システム最高出力 | 225kW |
0‐100km/h加速 | 6.3秒 |
航続距離(NEDC) | 665km |
最高速度 | 180km/h |
「ID.R Pikes Peak」は世界一過酷とも言われるヒルクライムコースで新記録を樹立したEVスポーツカー
フォルクスワーゲンのモータースポーツチームが中心となって開発する「ID.R Pikes Peak(ID. R パイクスピーク)」は、アメリカ・コロラド州で開催される「パイクスピーク・インタナショナル・ヒルクライム」に参戦して、EVモデルだけではない全クラスを含む総合部門においてのコースレコードを樹立したスポーツカーです。
2018年6月下旬にイギリスで開催されたグッドウッド・フェスティバルのヒルクライムでEVの新記録を達成した「ID.R パイクスピーク」。足元にはブリヂストンが開発したタイヤを装着します。
フランクフルトモーターショー2019では、ID. Rパイクスピークをさらに進化させた最新モデル「ID. R」が登場。ID. Rはニュルブルクリンク北コースでラップタイム6分05秒336を計測し、ライバルであるNIOのEVスーパーカー「NIO EP9」の記録を打ち破りました。
2020年発売予定の「ID.3」はゴルフに近い使い勝手の良いコンパクトEV
ID.3はフォルクスワーゲンID.ファミリーの中でも最初に生産されるコンパクトEVで、フランクフルトモーターショー2019で世界初公開されました。フォルクスワーゲン・ゴルフのような取り回しのよいボディサイズで、Cセグメントに分類されます。
フォルクスワーゲンは2019年11月よりID.3の製造をドイツ・ツヴィッカウ工場で開始し、その後「ID. CROZZ」や「ID. BUZZ」などのID.シリーズを順次導入していきます。納車時期は2020年夏となる見込みです。
ID.3シリーズはバッテリー容量を3種類から選択可能。これら標準仕様のほか、ナビゲーションシステムとボイスコントロールを標準装備する発売記念車「1STスペシャルエディション」を発売します。1STスペシャルエディションはボディカラーを4種類から選択可能で、先行予約したユーザーには初年度に最大2000kWh相当の無料充電サービスを導入します。
ID.3のエントリーモデルの価格は3万ユーロ(日本円で約350万円)、1STスペシャル エディションはおよそ470万円で、ゴルフのディーゼル車と同程度の価格帯となる見込みです。
また、フォルクスワーゲンはシーリアルテクノロジー社に出資し、ID.3から次世代ARヘッドアップディスプレイを採用。ヘッドアップディスプレイはハイエンドモデルの「ID.3 1ST Max」に標準装備されます。
次世代のヘッドアップディスプレイは仮想スイッチとタッチ式3Dディスプレイによって操作可能で、ドライバーだけでなく全ての乗員が多彩な情報を把握することができます。
全長 | 4261 mm |
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全幅 | 1809 mm |
全高 | 1552 mm |
ホイールベース | 2765 mm |
バッテリー容量 | 111kWh |
システム最高出力 | 204ps |
航続距離(NEDC) | 550km |
最高速度 | 160km/h |
開発中だったID.3のプロトタイプ画像3枚
スマートフォンのような自動車を目指す「ID.シリーズ」はインターネットに常時接続して搭載するソフトウェアを自動更新して進化を続けていく
フォルクスワーゲンは2019年2月13日にドイツ国内で開催した次世代EV「ID.」の販売関係者向け内覧会で、ID.はスマートフォンのような自動車になるとの公式発表をしました。
ID.シリーズを購入する全てのユーザーは、スマートフォン利用時と同様にユーザーの個人情報等を登録する必要があります。事前登録された個人情報は、搭載するソフトウェアを定期的にアップデートする際や、室内環境を整える際などに有効活用されます。
インターネットに常時接続されているID.シリーズは、スマートフォンと同じように最新のアプリケーションを追加設定して、新たに開発された多種多様なサービスを利用可能とする車両です。
フォルクスワーゲン「ID.」シリーズは搭載する運転支援技術を段階的に引き上げていって完全自動運転を実現
フォルクスワーゲンがID.シリーズが搭載する運転支援技術「ID.パイロット」は、2025年を目標期間と定めて、人がハンドル操作などの運転に関与しない完全自動運転レベル5の実現を目指します。
そのタイミングの前に販売されるID.シリーズの車両には、完全自動運転を可能とする運転代行技術は搭載されないものの、ソフトウェアはネット環境を利用して自動更新されるため、運転サポート技術は段階的に引き上げられます。
「ID.シリーズ」は再生エネルギーを用いて車両を製造するなどして二酸化炭素排出量を年間100万トン以上削減
フォルクスワーゲンはID.シリーズの部品調達の段階も含めて、製造、廃車となってからリサイクルされるまでの全過程において、カーボン・ニュートラル計画を実施して、年間100万トン以上の二酸化炭素の排出削減を目指します。
ID.シリーズは、独自プラットフォームであるMEBを導入して作業効率を上げて、生産拠点であるドイツ・ツヴァイッカウの工場では、100%再生可能エネルギーを利用して、環境意識の高い企業やプロジェクト等に出資するなどして、二酸化炭素の排出量を大幅に減らします。
フォルクスワーゲン「ID.シリーズ」はこれからの電動車時代をリードしていく
フォルクスワーゲンは2025年にID.シリーズを年間150万台以上生産する体制を確立して、EVのマーケットリーダーを目指します。2023年終わりには100万台生産に到達する見込みです。
その第一のラインナップとなる「Neo(仮称)」の予約注文はすでに行われています。オンライン上で、自分が希望するグレード・航続距離オプション・ボディカラー等を選べる専用サイトはすでに用意されています。
2019年4月に開催される上海モーターショーには、7人乗りフラッグシップSUV「ID.ラウンジ」が出展される予定です。フォルクスワーゲンは、ユーザーの好みに合わせたSUVや高級サルーンなどのID.シリーズのラインナップを充実させて、電動車時代をリードしていきます。