AUDI eトロン(e‐tron)シリーズ

アウディ初のEV e-tronのその後~2022年Q8 e-tronへ改名し2025年生産終了、幻に終わったPB18とGT/Q4/Q6への展開

アウディ初のEV「e-tron」はどうなった?SUVとして2018年に登場し、2022年にQ8 e-tronへ改名、2025年2月に生産終了。実質的な後継Q6 e-tronやe-tron GT、Q4 e-tronへと続くシリーズの流れと、市販化されなかったPB18 e-tronの顛末を、当時の予想の答え合わせとともに解説します。

アウディ初のEV「e-tron(eトロン)」はSUVとして2018年に登場 2022年にQ8 e-tronへ改名し2025年に生産終了

アウディは、2018年3月の「ジュネーブ・モーターショー2018」で、同社初の電気自動車となるe-tronのプロトタイプを世界初公開し、同年9月にはアメリカで生産版を発表しました。ラグジュアリーSUVタイプのEVとして欧州・北米・日本で発売され、日本でも2019年に導入が決まっています。

その後、この初代e-tron(SUV)は2022年11月にフェイスリフトとともに「Q8 e-tron」へと改名され、2025年2月にはベルギー・ブリュッセル工場での生産を終えてモデルを終了しました。一方で「e-tron」という呼び名は、GTやQ4、Q6といったアウディのEVシリーズを示す名称として定着しています。
ここでは、アウディ初のEVとして登場した初代e-tron(SUV)を主役に、その歩みと現在地、あわせて2018年に公開されたスーパーカー「PB 18 e-tron」の結末までを、現在の視点で解説します。

また2018年に米ペブルビーチで公開されたスーパーカー「PB 18 e-tron」もあわせて紹介します。アウディが電動化を宣言したこの時期は、電気自動車競争が本格化する号砲でもありました。

初代e-tron(SUV)のその後 ― 発売から2022年Q8 e-tronへの改名、2025年の生産終了まで

初代e-tronは、2018年9月17日に米サンフランシスコで生産版が世界初公開されました。95kWh級のバッテリーを積むミドルサイズのSUV型EVで、WLTP基準の航続距離はおよそ400km、最大150kWの急速充電に対応します。日本には2019年に導入が決まり、e-tronおよび後述のe-tronスポーツバックは、おおむね1,105万円から1,346万円ほどの価格帯で販売されました。記事後半で「1,200万円台」と予想していた点は、大きくは外していなかったことになります。

ラインナップも順次広がりました。2020年にはクーペ風のフォルムを持つ「e-tronスポーツバック」、71kWhバッテリーで航続約316kmの廉価版「e-tron 50 quattro」、そして3基のモーターを積む高性能版「e-tron S/e-tron S スポーツバック」が加わっています。さらに2021年には、ポルシェ・タイカンと基盤を共有する「e-tron GT/RS e-tron GT」や、コンパクトな「Q4 e-tron/Q4 Sportback e-tron」が登場し、e-tronは一気にシリーズ化していきました。

そして2022年11月9日、初代e-tron(SUV)はフェイスリフトを機に「Q8 e-tron」へと改名されました(高性能版は「SQ8 e-tron」)。バッテリーは114kWh級へと拡大され、航続距離も伸びています。改名の狙いは、増えすぎた「e-tron」を車種名ではなくEVシリーズの呼称として整理し、ラインナップ内の位置づけを分かりやすくすることにありました。改名後のQ8 e-tronの詳細は、そのモデルの解説にゆずります。

そのQ8 e-tron/Q8 Sportback e-tronも、需要の鈍化を背景に2025年2月28日をもって生産を終了し、初代から続いたこのSUVの歴史に幕が下りました。実質的な後継格は、新しいPPEプラットフォームを採用する「Q6 e-tron」(2024年登場)といえます。まとめると、アウディ初のEVである初代e-tron(SUV)は、2018年に登場・2019年発売、2022年にQ8 e-tronへ改名、2025年に生産終了。『e-tron』はいまやアウディのEVシリーズを示す名称として残っています。

アウディのスーパーカー「PB 18 e-tron」は50台限定生産の構想も市販化されず

アウディは完全電気自動車を「e-tron」と名付けてシリーズ化しています。その一員として2018年8月のペブルビーチで世界初公開されたのが、スーパーカーの「PB 18 e-tron」です。

PBはペブルビーチの略、18は2018年を指し、アウディのル・マン用レーシングカー「R18 e-tron クワトロ」の意思を引き継ぐ形で「PB 18 e-tron」と名付けられました。

3つのモーターを組み合わせたクワトロシステム(4WD)は最大出力500kW(ブースト時570kW)、最大トルク830Nmを発生し、0-100km/h加速は2秒程度を掲げていました。
この加速性能は、日産GT-Rの2.7秒やブガッティ・シロンの2.5秒に肩を並べる水準で、名だたるスーパーカーにも引けを取らないEVであることがうかがえます。

アウディeトロンシリーズ「PB 18 e-tron」のスペック
全長 4,530mm
全幅 2,000mm
全高 1,150mm
ホイールベース 2,700mm
車両重量 約1,550kg
乗車定員 1人/2人
最高出力 500kW(F:150kW/R:350kW)/ブースト時570kW
最大トルク 830Nm
0-100km/h加速 2秒程度
  • 3台並んで展示されたPB 18 e-tron
  • フロントバンパーにはe-tronがデザインされている
  • スーパーカーのイメージに近い流線形デザイン
  • 重なるようなヘッドライトデザインが斬新
  • PB 18 e-tronもアウディのアイデンティティ「シングルフレームグリル」を継承
  • PB 18 e-tronのスタイルはサーキットに良く似合う
  • PB 18 e-tronのリヤはブラックアウトされコンビネーションランプが目立つ
  • サイドから見るとPB 18 e-tronの低い姿勢がわかる
  • PB 18 e-tronのコクピットは未来から来た車のように見える
  • PB 18 e-tronのシートはホールド感の良いフルバケット式

PB 18 e-tronは、2019年初頭には「50台限定で生産する」という当時の経営幹部の発言も伝えられ、市販化に期待が高まりました。しかし、中央シートやドライブバイワイヤ、全固体電池といった構想が量産のハードルとなり、結局この計画は実現せず、PB 18 e-tronはコンセプトのまま立ち消えになりました。もっとも、そのデザインはのちのe-tron GTなどに影響を与えており、シリーズにとって重要な布石だったといえます。

初代e-tron(SUV)のエクステリアは「シングルフレームグリル」が際立つ

初代e-tronのシングルフレームグリル アウディらしさを保ちつつEVらしく処理

e-tronのプロトタイプでは、アウディの象徴である「シングルフレームグリル」の造形がより緻密になり、ボディ全体をバランスよく強調する仕上がりでした。空力に配慮し、グリル中央のみを開口として上下を閉じるなど、EVらしい工夫も見られます。ヘッドライトはラグジュアリーSUVにふさわしい存在感で、力強さと品を兼ね備えます。

直進安定性を意識した長めのホイールベース

ホイールベースは長めに設計され、直進安定性を高めつつ居住スペースを確保します。ラグジュアリーさと走行性能を両立するうえで、ホイールベースの比率は重要です。
サイドビューには、シャークアンテナやルーフスポイラーなどのエアロパーツも見られます。

ボリュームのあるリヤビュー ホイールはスポークタイプを採用

ホイールはSUVと相性のよいスポークタイプを採用。フェンダーアーチモールが足回りとサイドビューに迫力を与えます。実際に発売された市販モデルでは、こうしたデザインがさらに磨かれました。

初代e-tron(SUV)のインテリアは快適性と実用性を備える

e-tronクアトロコンセプトのインパネ 先進的なフラットデザインを採用

アウディはプレスリリースで、市販EVにも同社ラグジュアリーモデルと同等のスペースと快適性を持たせ、5人乗車時に多くの荷物を積める設計とすることを掲げていました。

その方針のもと、e-tronはドライバーの気持ちを刺激するデジタルメーターやインフォテインメントシステムを採用します。

ステアリングホイールやアクセルペダルなど運転に直接関わるパーツは、操作性だけでなく、ラグジュアリーな室内空間になじむデザインとされました。

e-tronクアトロコンセプトのインフォテインメントシステム 空調などもタッチパネルで操作

e-tronクアトロコンセプトは、多彩な情報を表示するデジタルメーターと、ディスプレイ下に空調などを操作するタッチパネルを備えていました。市販版e-tronにも、こうした快適装備が受け継がれています。

初代e-tron(SUV)は30分の急速充電でロングドライブに対応

アウディは、市販版e-tronについて、最大150kWの急速充電を使えば、約30分の充電でロングドライブに出かけられるEVであると発表しました。

以下は、ジュネーブ・モーターショー2018に出展されたプロトタイプ「e-tronクワトロ」のスペックです。前1基・後2基のモーターを積み、スポーツカー並みの動力性能をうたっていました。

e-tronクワトロ(2018年プロトタイプ)のスペック
最高出力 435ps/503ps(ブーストモード時)
最大トルク 81.6kgm
駆動方式 4WD
0-100km/h加速 4.6秒
最高速度 210km/h
バッテリー容量 95kwh
航続距離 400km~

なお、実際に発売された量産版「e-tron 55 quattro」は、ブースト時で約300kW(408PS相当)、WLTP航続距離はおよそ400kmと、プロトタイプの数値より現実的な内容に落ち着きました。のちに廉価版のe-tron 50や、3モーターで500PS超を発生するe-tron Sも加わり、選択肢が広がっています。

初代e-tronのプロトタイプは苛酷な走行実証テストをクリアした

e-tronのプロトタイプは、4大陸で課された苛酷な走行実証テストをクリアしました。のべ250台が走ったのは、極寒のスカンジナビア半島、灼熱のアフリカ大陸、アジアの山岳地帯、中国の大都市の渋滞、アメリカのハイウェイです。

テストでは、-20℃から+50℃の温度域でも各種の充電方法が問題なく使えるかなどを検証し、多くの実証データを集めました。

250台の走行距離は合計500万km以上に達し、これは地球125周分にあたります。

初代e-tronの日本発売と価格 ― 予想の答え合わせ

本記事はもともと、e-tronの日本発売を「2019年春ごろ」、価格を「テスラ モデルXの1,115万円(75D)を上回る1,200万円台」と予想していました。

実際には、e-tronは2019年に日本導入が決まり、e-tronおよびe-tronスポーツバックが概ね1,105万円から1,346万円ほどの価格帯で販売されました。エントリーの「50 quattro」はより手頃で、上級の「55 quattro」は予想に近い水準です。時期・価格とも、当時の予想はおおむね妥当だったといえます。ドイツでの当初価格が約80,000ユーロだった点も、日本価格の目安として大きくは外れていませんでした。

e-tron登場を号砲にEV競争は本格化した ― その後の展開

2018年末に欧州でe-tronが登場して以降、プレミアムEVの競争は一気に本格化しました。メルセデスのEQシリーズ、BMWのiシリーズ、そしてテスラとの争いは、いまも各社の主戦場となっています。

アウディがe-tron発表当時に掲げていたEV戦略は、次のようなものでした。

  • アウディ初の電気自動車を、未来へ向けた重要なマイルストーンと位置づける
  • 2020年ごろまでに複数タイプの電気自動車を投入する
  • 2025年までに、あらゆるセグメントで多数のEV・プラグインハイブリッドをそろえる

これらの目標は、その後のe-tronスポーツバック、e-tron GT、Q4 e-tron、そしてPPE世代のQ6 e-tronやA6 e-tronの投入によって、おおむね現実のものとなりました。一方で、これらの宣言を主導した当時のCEOルパート・シュタットラー氏は、ディーゼル不正問題を受けて2018年にアウディを離れており、経営体制はその後マルクス・ドゥスマン氏を経て、2023年にゲルノート・デレナー氏へと引き継がれています。

アウディはその後も電動化の方針を強める一方、市場やインフラの動向に合わせて計画を柔軟に見直しています。いずれにせよ、初代e-tronがEV普及の号砲を鳴らした一台であったことは間違いなく、その名は現在もアウディのEVシリーズとして受け継がれています。