サイドブレーキ(パーキングブレーキ)の種類や仕組み、故障の原因等
サイドブレーキという呼び名の正式名称は、パーキングブレーキです。運転席の横にレバーが設置されるスタイルが長らく標準であったため、パーキングブレーキではなくサイドブレーキという名称が定着しました。パーキングブレーキは、駐車状態を保持する目的で設置されています。
パーキングブレーキが正常に作動することで、傾斜のある坂道であっても車を安全に駐車し続けることが可能になります。今回は、車を停める時に利用するパーキングブレーキ(サイドブレーキ)の種類やその仕組み、故障の原因などについてご紹介します。
パーキングブレーキによって坂道であっても車を停止させ続けることができます
車にパーキングブレーキを設けることで、坂道であっても車を停止状態に保つことが可能となります。車は、坂道に停車する際、シフト操作を適切に行い、パーキングブレーキも併用することで、傾斜角に対しタイヤを回転させずに停止状態を維持できるようなシミュレーションのもとで開発されています。
道路運送車両法では、パーキングブレーキの保安基準の適用条件として、乗用車では20%勾配(角度約$11.3$度の坂道)の坂道でパーキングブレーキを作動させた際に、車が動かないことと定めています。
パーキングブレーキは、レバーを引く、足で踏み込むなどの操作を加えることで、ワイヤーが引っ張られ、その力が後輪(または一部車種では前輪)に制動力として伝わり、車を停止状態に保持します。
AT車でもパーキングブレーキをかける必要があります
MT車を運転されている方は、駐車するときにギアをロー(1速)またはリバース(R)に入れてから、パーキングブレーキをしっかりと引くという一連の動作が習慣づいています。
AT車を運転されている方の一部には、駐車時はシフトレバーを「P」(パーキング)に入れさえすれば十分であると思っている方もいます。平坦な場所に停車させる場合は問題ないかもしれませんが、少しでも傾斜のある場所に車を停める際には、AT車であってもパーキングブレーキは必ずかけるべきです。
AT車が採用するオートマチックトランスミッション機構では、シフトレバーを「P」に入れると、内部パーツの爪状の棒(パーキングロックポール)がパーキングロックギアの歯車部に引っ掛かることで車を停止状態にします。しかし、傾斜角のある坂道では、この引っ掛かりの力だけで車を停止させるには不十分であるため、パーキングブレーキによるアシストが必要になります。
パーキングロックギアやポールは金属製で耐性はありますが、坂道などに駐車するときにパーキングブレーキによるサポート力が働かなければ、車が重力にしたがって坂道を下ろうとする力のダメージは、パーキングロック機構部に集中してかかり続けるため、破損や摩耗のリスクが高まります。
また、パーキングブレーキをかけ忘れてしまうことは、傾斜角の度合いや路面状況(濡れているなど)の諸条件が加わることで、無人状態での車の移動を招きやすくなります。運転操作が行えない車の移動は非常に危険です。ハンドルで方向転換を行えない、フットブレーキを踏めない状態の車が人身事故や物損事故を起こす可能性は極めて高いです。
フットブレーキとパーキングブレーキの違い
車のブレーキ系統には、フットブレーキとパーキングブレーキの2種類があります。
車のスピードを落とすために用いるフットブレーキは、通常4輪全てに制動力が加わるブレーキシステムです。一方の車の停止状態を保持するために用いるパーキングブレーキは、一般的に左右の後輪・2輪のみに制動力が加わるブレーキシステムです(一部の車種では前輪にかかるものもあります)。
フットブレーキとパーキングブレーキの違いには、制動力を伝達する動力源が異なります。フットブレーキは、走行中の車を減速・停止させる性質上、小さな力で大きな制動力を得られる油圧式を採用します。一方パーキングブレーキは、停止状態を保持するために、一般的にレバー操作をワイヤーで伝える機械式(ワイヤー式)を採用します。ただし、電動パーキングブレーキなど、より複雑な方式を採用するものもあります。
パーキングブレーキの種類
車の停止状態を保持するために必要な力を生み出すパーキングブレーキには、いくつかの種類があります。
レバー式パーキングブレーキ
レバー式パーキングブレーキはMT車や、古いタイプのAT車、比較的安価な車種などで採用されています。
レバー式パーキングブレーキは運転席と助手席の間に設置され、ドライバーが手で操作を行うためハンドブレーキと呼ばれることもあります。
ブレーキを効かせる際には、レバー先端部にあるボタン(リリースボタン)を押しながら引き上げます。ブレーキを解除する時には、リリースボタンを押しながらレバーを下げていきます。
足ふみ式パーキングブレーキ
最近のAT車では、デザイン性や収納力を高めるために、従来のレバー式パーキングブレーキがあった場所にウォークスルースペースを設けているケースがあります。その場合、パーキングブレーキはフットブレーキの横などに設置する足ふみ式(フットリリース式)を採用します。
足ふみ式パーキングブレーキでは、ペダルを踏み込めばブレーキが作動し、解除する際には、ペダルをさらに少し奥側に踏み込むか、または解除専用のレバーを手で引いて操作を行います。
電動パーキングブレーキ(EPB)
電動パーキングブレーキ(Electric Parking Brake: EPB)は、ヨーロッパメーカーの輸入車や国産の高級車などで採用が増えている方式です。
操作法は簡単で、「P」が刻印されたスイッチを操作(引くまたは押す)すれば、ブレーキの作動・解除が自動で行われます。パーキングブレーキが作動している状態でも、シートベルトを着用し、ブレーキペダルを踏んでアクセルを踏み込むと、自動的にパーキングブレーキが解除できる等のシステムを組み込んでいる車種が多くあります。
電動パーキングブレーキは、エンジンのON/OFFやアクセル操作に応じて自動的に機能する車種もあるため、パーキングブレーキを引いたまま走行するケースを防いでくれます。
手動式に比べれば、電動パーキングブレーキのコストは高いですが、今後の自動運転技術の前提条件とも言える技術力であるため、搭載する車は着実に増えています。
パーキングブレーキを解除しないままの運転が続けば車にダメージが加わります
運転していて何だか違和感があると思っていたら、パーキングブレーキを解除していなかったという経験をしたことのあるドライバーは少なくありません。パーキングブレーキが作動している状態で運転した際にどのような事が想定されるのかをご紹介します。
- 速度が出にくい
- 焦げ臭い匂いがする(ブレーキパッド・ライニングの摩擦熱による)
- ブレーキの効きが悪くなる(フェード現象など)
- ワイヤーや機構部の破損・変形
もしも、パーキングブレーキを引いた状態で運転が長く続き、ブレーキの効きが悪くなっている場合には注意が必要です。その原因として、パーキングブレーキを解除しないために発生した高熱が、ブレーキ部品(ブレーキシュー、ブレーキパッド、ドラム、ローターなど)に影響を与え、正常な作動に支障をきたしていることが考えられます。
これらのパーツに問題が生じていれば、そのままの状態で運転し続けることは危険であるため、ディーラーや整備工場などで確認してもらい、問題があれば交換してください。
パーキングブレーキを効かせる際に違和感があったらメンテナンスチェックをしましょう
パーキングブレーキを効かせる際、レバー操作や足で踏み込む動作時に、いつもと違う違和感があったら、ディーラーや整備工場などでのメンテナンスチェックをお勧めします。
その原因として考えられるのは、制動力を調整するワイヤーが伸びきっていることや、可動部に錆が発生していることなどです。パーキングブレーキの不具合の放置は、車の故障や駐車時の事故につながります。違和感があったらすぐに点検してもらいましょう。
パーキングブレーキ故障の主な原因はワイヤーの破損や錆び
パーキングブレーキを「効かせよう!」「解除しよう!」と思っても上手くいかなくなってしまうこともあります。パーキングブレーキ故障の主な原因は、ワイヤーの破損、錆び、または内部機構の固着などです。
パーキングブレーキが故障した状態が続けば、運転に支障が出るだけではなく、安全な駐車ができなくなり、思わぬトラブルを招いてしまいます。
パーキングブレーキの故障は、自分で対処するにはハードルが高いため、パーキングブレーキに違和感があったら、整備工場のスタッフなど車の専門家に任せることをお勧めします。
パーキングブレーキは強く引く(踏む)ほどにブレーキが強くなるわけではありません
パーキングブレーキは、レバーを強く引く(足踏み式の場合は強く踏み込む)ほどに、制動力が増すわけではありません。レバー式の場合、一定のノッチ数(ラチェットの噛み込み音)に達するまでしっかり引き上げる、または踏み込めば、それ以上力を加えても制動力は変わりません。
レバー式の場合、男性がレバーを力いっぱい引き上げた後、女性がレバーを下ろすために苦労することがありますが、これは規定のノッチ数を超えて必要以上に強く引き上げている可能性が高いです。
ですが、「一定以上」「しっかり引く・押す」という感覚には個人差があるので、調整が難しいのも事実です。
パーキングブレーキは、車種によって適切なノッチ数(ラチェットを噛み込む「カチカチ」という音で測定可能)が定められており、取扱説明書や整備書に記載されています。気になる場合は、一度確認してみることをお勧めします。
寒冷地ではパーキングブレーキの凍結を想定し輪止めが必要です
冬の時期に厳しい寒さに見舞われる寒冷地では、底冷えする日にパーキングブレーキのワイヤーなどが凍結し、解除できなくなってしまうこともあります。パーキングブレーキが効いている状態で運転を続ければ、車へ加わるダメージが大きくなり故障のリスクが高まります。
そのため、寒冷地では冬にパーキングブレーキを利用せず、輪止め(タイヤストッパー)を前後輪にかけて車を停めることもあります。もし、パーキングブレーキをかけたまま凍結した場合、レッカー車などで車を暖かい場所に移動させて解除を行います。
転勤などで初めて寒冷地で冬を迎えるドライバーは「輪止め」の必要性を覚えておきましょう。
パーキングブレーキはフットブレーキが効かない際の緊急ブレーキとしても有効です
あまり想像したくないことですが、もし走行中にフットブレーキが効かなくなったときは、パーキングブレーキが緊急ブレーキとして重要な役割を担います。
レバー式や足ふみ式のパーキングブレーキの場合、AT車であれば「D」レンジから「3」「2」「1」と順番にシフトダウンを行いエンジンブレーキで減速し、その後パーキングブレーキをレバー式なら少しずつ引き上げる、足踏み式なら少しずつ踏み込むのが正しい停止方法です。一気に引き上げたり、強く踏み込んだりすると、後輪がロックされてスピンなどの危険があるので、徐々に操作してください。
電動パーキングブレーキ(EPB)の場合、操作レバーを引き続けると緊急停止装置が作動するタイプの製品もあります。操作レバーが運転席右側にあれば助手席からでも操作できるため、運転手が意識を失った際にも有効な緊急停止の方法と考えられています。
パーキングブレーキ(サイドブレーキ)の存在は自動運転時代がやってくるまで忘れずに
今後は、自動運転時代の流れに乗り電動パーキングブレーキを搭載する車が増えていきます。そして、手動式パーキングブレーキを懐かしむ時代がやって来るかもしれません。電動パーキングブレーキを利用中のドライバーは、既にその利便性を感じつつも、手動式を懐かしく思っているかもしれません。
手動式のパーキングブレーキを利用中のドライバーは、平坦な場所に車を停めているから安心とは思わず、車を停車する際には習慣として、意識しなくともパーキングブレーキをかけることができるように心がけましょう。また、運転する際にはパーキングブレーキを解除しているか、確認することも大切です。