パワーステアリング(パワステ)が故障するとハンドルが重くなる仕組みと修理・交換の必要性
運転している時にハンドルがいつもよりも重いと感じたら、まずはガソリンスタンドや整備工場に立ち寄ってタイヤの空気圧チェックを依頼しましょう。
タイヤの空気圧が不足すると、路面との抵抗が増し、ハンドルが重くなります。空気圧が十分であるにもかかわらず、ハンドル操作に重みが残る場合には、パワーステアリング(パワステ)の故障が疑われます。
モーターの力や油圧の力でハンドル操作をサポートするパワーステアリング。略してパワステに不調があると、ハンドル操作が著しく重くなってしまいます。
油圧式パワステや電動式パワステなどの種類別特徴や故障の原因、故障にいち早く気づくために役立つ異音の種類、修理や交換が必要となった場合にかかる費用の目安についてもご紹介します。
パワステはハンドル操作をサポートする装置〜現代の車で必要な理由

パワステは、ハンドル操作をアシストし、運転手の負担を軽減するための装置です。昔の車は細いタイヤが多く、路面との摩擦力が比較的小さかったため、車両重量の重い高級車や大型車にパワステが装備されることが一般的でした。
しかし、現代の車はタイヤのグリップ力が向上し、タイヤ幅も太くなり、さらにフロント部に重量が集中するFF駆動方式の採用が増えたことで、据え切り(停止した状態でハンドルを切る操作)や低速走行時のハンドリングに必要な力が大きくなりました。そのため、車両重量のさほどない軽自動車においても、パワステによるハンドリングサポートが不可欠になっています。
なお、ハンドル操作をする際に最も重いと感じる運転シーンは駐車時や据え切り時です。これらの操作を行う時には、車を停止させることもあり、タイヤと地面との摩擦力(抵抗)が最大値に達することなどが影響を与え、ハンドリングが重く感じてしまいます。
パワステの種類と特徴・仕組み

パワステには、主に「油圧式(HPS)」と「電動式(EPS)」、そして両者の利点を組み合わせた「電動油圧式(EHPS)」の3種類があります。歴史的に古いのは、パワステフルード(作動油)による圧力を利用してステアリングをサポートする油圧式です。2000年以降では電動式パワステを採用する車が標準になっています。
油圧式パワステは、エンジンから動力を得てポンプを動かし油圧をつくりだし、ハンドル操作をサポートします。油圧式は、自然で滑らかなステアリング操作感を味わえますが、エンジンの力を常時利用するため燃費が悪くなってしまうというデメリットがあります。
一方の電動式パワステは、電気モーターが作り出した力を利用してハンドル操作のサポートを行う仕組みを採用します。電動式パワステは、エンジンの力を直接利用するわけではないため低燃費につながりますが、油圧式に比べて操舵感(フィーリング)が劣ると言われていました。
最近は、油圧式と電動式のメリットを組み合わせた、電気モーターによる力で油圧を制御する「電動油圧パワーステアリングシステム(EHPS)」が誕生し、車の低燃費性と、より優れた操舵感覚の両立に貢献しています。
電動式パワステ(EPS)の不調や故障原因

インパネに表示されるPS警告灯のアイコンが点灯または点滅している場合には、まずはパワステの故障を疑いましょう。
電動式パワステの不調の原因は、主に電気系統やシステム面の故障によるものです。高度な電子制御が関わるため、自分で修理を行うハードルは非常に高く、ディーラーや専門の整備工場に修理を依頼することをお勧めします。
PS警告灯が一度でも点灯すれば、履歴がパワーステアリングECU(コンピューター)に残るため、整備工場やディーラーに依頼することでスムーズな診断が可能となります。
電動モーター
電動モーターはハンドルをサポートする力を発生させる装置です。電動モーターが故障していれば、そのサポート力は弱まってしまいます。
電動モーターには「コラム式」「ピニオン式」「ラック式」の3タイプの制御方式があります。モーターが故障した場合には、どの制御方式を採用しているかによって、その交換の費用の相場は変わってきます。ケースによっては、20万円以上の交換費用が必要となることもあります。
パワーステアリングECU(EPS-ECU)
動くコンピューターとも言われる最近の車は、パワステに限らず多くのユニットがコンピューター制御されています。電動式パワステの制御を専門に行うコンピューターは、パワーステアリングECU(EPS-ECU)と呼ばれます。
EPS-ECUはパワステへの命令系統を担っているため、システムに不具合が生じていればハンドルへのサポートはスムーズに行われなくなり、ハンドルは重くなってしまいます。
もしもEPS-ECUの交換が必要となれば、その費用は車種にもよりますが5万円以上となります。
トルクセンサー
トルクセンサーは、ハンドルをどれくらい右または左に回しているか、またどれくらいの力で回しているかを計測して、そのデータをECUに送る装置です。
トルクセンサーが故障していれば、正しいデータをECUに送信できなくなるため、連動する電動モーターの動きにも影響を与えてしまいます。
油圧式パワステ(HPS)の不調や故障原因
油圧式パワステは、パワーステアリングフルード(パワステオイル)による油圧でハンドル操作のサポートを行う仕組みを採用しています。
パワステフルードの劣化や不足
パワステフルードは、ハンドル操作時に発生する熱やポンプの負荷などが原因で経年劣化が起こります。その影響で、フルードの潤滑性能が低下し、ハンドルが重くなるなどの不具合が発生します。劣化は、フルードの詰まりやシール部の損傷による漏れと結びつきやすいため、劣化が起きていれば早い時期の交換が望まれます。
パワステフルードの交換時期の目安は、一般的に走行距離2万kmあるいは2年に1回のタイミングです。それ以前であっても、運転中に普段とは違ったハンドル感覚が多くなればフルードの劣化や不足を疑いましょう。また、車内で油分が焼けたような焦げた匂いを感じた際にも、フルードの漏れや過熱を疑うことができます。
フルードの不足も油圧式パワステ不調の大きな原因の一つです。運転中に「ウォーン」「ウーン」といった異音が発生した際には、パワステフルードの不足やポンプの吸い込み不良を疑いましょう!
パワステポンプ
油圧式パワステは、油圧を利用してステアリングのサポートを行います。その油圧を作りだすのがパワステポンプで、フルード漏れ等が起きていなければ油圧を高めることができます。
もしも、パワステポンプや配管でフルード漏れが起きていれば、油圧が弱まり、その影響を受けてステアリングのサポート力も弱まります。
ハンドルをきった時に「ジィー」という異音が聞こえたら、パワステポンプやギアボックスでフルード漏れや内部の不具合が起きている可能性が高いです。
フルード漏れがおきている場合は、パワステポンプそのものを交換する必要があって、交換費用は平均すると5万円ほどと費用がかさむことがあります。
パワステポンプを駆動するベルトの劣化や破損
油圧式パワステのパワステポンプは、エンジンの力で駆動するファンベルト(VベルトやVリブドベルト)によって動かされています。ゴム製のこのベルトは、経年劣化すると細かなひび割れが発生し、それが大きくなると破損するリスクを抱えます。
このベルトが緩んだり劣化したりすると、滑りを生じさせ、「キュルキュル」という異音が発生したときが、調整または交換の適切な時期となります。ベルトの交換費用は、部品代と工賃込みで、一般的に10,000円前後となります。
パワステの技術は自動運転時代の安全性にも貢献します!

パワステの故障はケースによっては修理代が高くつくため、そのタイミングで車を乗り換える人もいます。一般的に、年式のある車や走行距離が長くなるほど故障のリスクが高まります。
パワステのサポートによって、片方の手でハンドル操作を行いながらもう一方の手でシフト操作などの別な操作を楽に行うことができます。コーナリングの際にハンドリングもサポートしてくれるパワステが正常に作動するおかげで、運転中の腕は疲れにくくなります。
運転中に「ウォーン」などの異音が突然しだしたら、またはハンドルを動かす際に違和感があったらパワステの故障だと思って、ディーラーや自動車工場に点検してもらうことで、車に安心して乗り続けることが可能となります。
パワステの技術力は、車の自動運転にもつながっています。現在、多くの車に搭載されている安全技術であるレーンキープアシスト機能や自動駐車機能には、パワステの高度なハンドル制御技術が活かされています。パワステは、これからの自動運転時代の安全性を高める上でも欠かすことのできない大切な車のパーツです!






























