車の運動性能に関わるホイールベースとは?
ホイールベースの長短は四輪自動車だけではなくて、バイクや自転車といった前後に車輪がついている乗り物の運動性能を考える上では大切な情報です。
日本語に訳すと「最遠軸離」であるホイールベースの数値は車の主要諸元表に記載されていて、最近はロングサイズ化する傾向があります。
ホイールベースが長くなることのメリットやデメリット、その車がロングホイールベースの車であるかを客観的に判断できる数値であるトレッド比の求め方も紹介します。
ホイールベースのサイズにより車の特徴は変わってきますので、ホイールベースに詳しくなれば、車の特徴を自分でも確認する事ができます。
ホイールベースは前輪軸と後輪軸間の距離
車の主要諸元表にも記載されているホイールベースは、前輪の軸~後輪の軸までの距離をさし単位にはmmやインチが用いられています。
ホイールベースの長短は運転性能や走行中の安定感などに直結するため、具体的な数値を把握することは車の特徴を捉えるために大切です。
3mを超えるサイズともなれば、ロングホイールベースと呼ばれるようになります。ロングホイールベースは、ロールスロイスやベンツなどのショーファーカー(運転は専用の運転手に任せるような超高級車)に導入されていて、後席で快適に過ごせるよう、広くラグジュアリーに設計しています。
ホイールベースは近年の車の流行で世界的にロングサイズ化
最近の車は、モデルチェンジを行う度に「室内スペースの快適性」「操縦の安定性」を求めてホイールベースのロングサイズ化を行う傾向があります。
- トヨタ・カムリは先代に比べ50mmアップ
- トヨタ・パッソは先代モデルよりもホイールベースを50mm長く設計
- 新型スバル・インプレッサは先代モデルと比べてホイールベース+25mm
- BMWの2代目MINIクロスオーバーはホイールベースを75mm延長
など、モデルチェンジを機にホイールベースをロングサイズ化するケースは増えています。ホイールベースがロングサイズ化する理由には、車のボディ構造が進化し、安全性が高まった事も影響を与えています。
ボディ構造が進化する前までは、オーバーハング(前輪の軸からフロント先端部までの距離、後輪の軸からリヤ先端部までの距離)のサイズに余裕を持たせることで、衝突時のダメージはそのエリアに吸収させて室内空間を守ろうという考え方でした。
しかし、衝突の際に巧く潰れて力を分散させるクラッシャブルゾーンの導入などで安全面が以前より向上したため、オーバーハングをロング化する必要性は薄まりました。
そういった状況も影響を与え、ホイールベースはロングサイズ化しています。
ホイールベースをロングサイズ化することのメリット
慣性の法則によりロングホイールベースの車は直進安定性が増す
ホイールベースが長ければ、走行中の車の直進安定性が増します。直進安定性とは、気象条件などが加わったとしても、車が直線走行を安定的に維持できる能力を示します。
ホイールベースの長い車ほど、車の全長が長くなり質量が増す傾向にあります。物体には同一の運動をし続けようとする慣性の法則が働きます。その力は車の質量が大きくなるほど強く働くため、ホイールベースの長い車ほど直進し続けようとする力が強まるため、直進安定性は増します。
上下に激しく振動しないためロングホイールベースの車は安定走行になる
ホイールベースの長い車ほど、走行中は上下に振動しにくくなります。極端なケースでその理由を説明すれば、段差に乗り上げてしまったとき、ホイールベースが長いほど、前輪が段差に乗り上げてから後輪が乗り上げるまでにタイムラグが生まれて、段差に対して長さの分だけゆるやかに対応できるため、激しく振動することはありません。
平坦に見える道路であっても多少の起伏はあったりしますので、走行中はホイールベースの長い車ほど、上下振動を抑制した安定走行が可能となります。
ロングホイールベースの車は室内空間が広くなる
ホイールベースをロングサイズにすれば、そのほぼ真上にある室内スペースも拡張する事も出来ます。ボディの剛性と強度がネックであった軽自動車は、ボディ構造の安全性が技術の進化により飛躍したため、ホイールベースを規格のギリギリまで延長させ、室内スペースの充実化を図っています。
ラグジュアリーカーでは、自分で車を運転しないオーナーを意識して、ホイールベースをさらにロングサイズ化させて、室内空間の快適性とゴージャス感を高めています。
ロングホイールベースのデメリット
最小回転半径が拡大することで小回りが利かなくなる
車の小回りの利きやすさを表す数値である最小回転半径には「ハンドルの切れ角度」「トレッド幅(タイヤの左右幅)」だけではなくて、ホイールベースの長い・短いも関わってきます。
ホイールベースが短くなるにしたがい、最小回転半径は縮小されていきます。そのため、ホイールベースの長い車は小回りが利きにくくなるので、方向転換する時に内側のタイヤ軌道と外側のタイヤ軌道の差である「内輪差」や「外輪差」を意識して運転しなければなりません。
ショートホイールベースの車の特徴はロングホイールベースの車と真逆
ホイールベースのサイズが短い車は、ショートホイールベースとも呼ばれます。ショートホイールベースの車の特徴は、ロングホイールベースの真逆となります。
- 直進の安定性が低下
- 最小回転半径が短いため小回りが利く
- 後席の室内空間が狭まる
- 走行中に上下振動を受けやすい
トレッド比でロングホイールベースの車かどうかを判断
トレッド比は、その車がロングホイールベースの車であるか、ショートホイールベースの車であるかを客観的に判断できる数値です。
トレッド比(W/T)は、ホイールベースの数値をトレッド幅の数値で割ることで求める事ができます。例えば、ホイールベースが3,000mmでトレッド幅が1,500mmの車のトレッド比は2です。
ホイールベースが短くなるほど、その数値は小さくなっていき「1」に近い数値であればショートホイールベースの車として判断できます。
ホイールベースは長くなるほど、その数値は大きくなっていき「2」に近い数値であればロングホイールベースの車であると判断できます。
車のホイールベースQ&A
ロングホイールベースとショートホイールベースそれぞれの特徴のおさらいも兼ねて、ホイールベースについてよくある疑問や質問をまとめてみました。
乗り心地の良いクルマを求めるなら、ロングホイールベースが絶対条件?
車のホイールベースが長いことのメリットとして、よく挙げられる直進安定性の良さや上下振動の少なさ。リムジンなどの高級車を筆頭に、ホイールベースの長い車は乗り心地が良い傾向にあるのは間違いありません。開発するメーカーも、より高い快適性や居住性を求めて、ホイールベースをロング化しているのが現在の潮流です。
しかし、確かにホイールベースは直進安定性などに深く関わっていますが、車の乗り心地を左右する要素はそれだけにとどまりません。ボディ剛性やエンジン搭載位置、重心の高低、足回りのセッティングなど、多岐の要素のバランスや総合力で決まります。
乗り心地の良いクルマに乗りたいからと言って、カタログを見比べて、ホイールベースを比較してもほとんど意味はありません。
ショートホイールベースだと雪道の運転は危険?
雪道を走行する際、ロングホイールベースだと安全、ショートホイールベースだと危険ということはありません。雪国では、2WDか4WDかといった駆動方式は気にしますが、乗用車のホイールベースの長さを気にして車を購入することは稀です。
ただし、理論的には、ショートホイールベースだとロングホイールベースの車よりスピンしやすいので、凍結路でスリップしたときのことを考えると、安定感あるロングホイールベースが良いというのは理解できます。
また、ホイールベースが短いと、轍などがある雪道では揺れを感じやすいということはあり得ます。
ホイールベースは長いほうがドリフトしやすい?
足回りトータルで考える必要があるのは大前提として、一般的にドリフトしやすいのは「FRかつホイールベースが長めの車」と言われています。ホイールベースが長いと、リヤの滑り出しがゆっくりのため、扱いやすいのです。反対にホイールベースが短い車は、挙動がクリックで、コントロールがシビアになりがちです。
もちろんドリフトは、許可されているサーキットで、ルールとマナーを守って楽しむのが大前提です。
ホイールベースのサイズが車の特性を決める
ホイールベースの長短により、車の特性は決まります。ホイールベースがロングサイズであれば「直進安定性が増す」「車体が揺れにくい」「室内空間が広くなる」というメリットが生まれます。ショートサイズとなれば、小回りが利いた操作性の優れた車となります。どちらを好むかは、ユーザーにより異なります。
ホイールベースに詳しくなると、新型モデルが登場した時は先代モデルよりホイールベースが長くなっているか短くなっているかが気になりますし、自分でトレッド比を求めたくなってしまいます。そして、ホイールベースを通じてその車の特性を自分の力で確認する事も出来ます。