慣らし運転の必要性や意味
慣らし運転とは、新車や新品の部品を装着した際に、初期の摩耗を促し、部品同士の摩擦面をスムーズに「馴染ませる」ための特別な運転方法です。適切に慣らし運転を行うことで、エンジンの調子を長く保ち、不具合の発生を抑え、長期的に車両の性能を維持することに繋がります。
そこで、慣らし運転の意味、新車と新品タイヤにおける慣らし運転の目的の違い、必要性、メーカーの見解、および具体的な方法についてご紹介します。
慣らし運転とは、エンジン・駆動系・足回りの初期摩耗を完了させる準備期間

慣らし運転は、新車を購入した際などに推奨される運転方法で、主にオドメーターで1,000kmから3,000km程度の走行距離の間に行われます。この期間は、エンジン内部やトランスミッション、ブレーキなどの新品部品に過度な負荷をかけず、段階的に負荷を上げていく運転の仕方を指します。
新車のエンジンや足回りの部品は、製造直後はまだ完璧には馴染んでいない状態です。人間が準備運動なしに全力疾走すると負担がかかるのと同様に、車もいきなり高負荷(急発進、急加速、急ブレーキなど)をかけると、部品に過度な負担がかかり、将来的な性能低下や不具合の原因となる可能性があります。
慣らし運転を行うことで、部品同士の摩擦面が円滑に馴染み(「アタリがつく」とも呼ばれます)、車両本来の性能を安定して発揮できるようになります。この過程は、車にとって非常に重要な「準備期間」と言えます。
新車の慣らし運転:メーカーの見解と推奨される運転方法

現代の車は部品の製造精度が向上したため、以前ほど厳密な慣らし運転は必須ではないとするメーカーもありますが、多くのメーカーは初期走行における急激な運転操作を避けるよう推奨しています。慣らし運転は、車両の性能を最大限に引き出し、長持ちさせるために行うのがおすすめです。
新車における慣らし運転は、納車直後からいきなりエンジンをレッドゾーンまで回すのではなく、エンジン回転数を抑え、緩やかな発進・加速を意識しながら運転することです。一般的には、走行距離が伸びるにつれて、段階的にエンジン回転数の上限を上げていきます。
多くのメーカーが推奨する慣らし運転の考え方は以下の通りです。
トヨタ
慣らし運転の必要はありません。ごく一般的な安全運転に心がけていただければ、各部品のなじみは自然と出てきます。
お客様が新しい車に慣れられるための期間を慣らし運転の期間と考えてください。(注1)
ホンダ
現在の車は、エンジンやその他の部品精度が向上しているため、慣らし運転を行う必要はありません。ただし、機械の性能保持と寿命を延ばす為には以下の期間はエンジンや駆動系の保護の為に、急激なアクセル操作や急発進を出来るだけ避けて下さい。(注2)
・取扱説明書に慣らし運転期間の記載がある場合→その期間
・取扱説明書に慣らし運転期間の記載が無い場合→1000km走行までを慣らし運転の期間
日産
エンジン本体、駆動系などこの車両の持っている性能を十分に引き出すためには、ならし運転が必要です。
走行距離約1,600kmまでは適度な車速、エンジン回転数で運転してください。(注3)
メーカーによって見解が異なりますので、お乗りの車種の取扱説明書に「慣らし運転について」の記述がある場合は、その内容に従うようにしてください。
新品タイヤの慣らし運転(慣らし走行)は性能発揮のためにメーカーが推奨
新車のエンジンだけでなく、新品タイヤにも慣らし運転(慣らし走行)は必須です。これは一般的に「タイヤの皮むき」と呼ばれ、タイヤの表面に付着している離型剤(製造時に使用される薬剤)を走行によって取り除き、タイヤ本来のグリップ性能を発揮させるために行います。
ダンロップ
新品タイヤは使用初期、過酷な条件で使うとトラブルを誘発する恐れがあります。また、寸法成長による発熱もしやすいです。
新しいタイヤに交換した際は、タイヤ本来が持つ性能を十分に発揮させるために、慣らし走行を励行しましょう。具体的な走行方法は、乗用車・軽トラックが走行速度80km/h以下/走行距離100km以上、小型トラックが走行速度60km/h以下/走行距離200km以上で実践するのが目安です。
また、慣らし走行中は“急”のつく行動や路肩へのラフな侵入などは避けるように心がけてください。(注4)
ブリヂストン
新品タイヤは使用初期、寸法成長し発熱もしやすいので過酷な使用は避けることが重要です。
リムとのなじみ、フィット性を確保(注5)
ゆるやかな寸法成長及びリムとのなじみ⇒故障耐久性が向上
新品タイヤは表面がツルツル⇒本来のグリップ発揮のための皮むき
交換前のタイヤとの性能差に慣れる⇒安全走行を確保
夏タイヤは80km/h以下で100km以上
冬タイヤは60km/h以下で200km以上
タイヤメーカー各社は、新品タイヤに交換した直後の走行速度と走行距離の目安を定めています。新品タイヤに交換した際は、これらの推奨事項に従い、無理のない速度と操作で慣らし走行を必ず行ってください。
慣らし運転のやり方:走行距離に応じた段階的な負荷
慣らし運転は、単にエンジン回転数を抑えるだけでなく、トランスミッション、ブレーキ、サスペンションなど、すべての駆動系・足回りの部品を総合的に馴染ませる目的で行います。スムーズに各部品が馴染むことを「アタリがつく」と表現します。
慣らし運転の基本的な方法は、「走行距離に応じて徐々に負荷を上げる」ことです。
新車慣らし運転の一般的な目安
- 1,000kmまで:エンジン回転数を低く抑え(例:2,000~3,000rpm以下)、緩やかな加減速で運転します。
- 1,000km~3,000km:エンジン回転数の上限を徐々に上げ(例:3,000~4,000rpmまで)、段階的に走行の負荷を高めていきます。
- 共通事項:急加速、急ブレーキ、急ハンドルなど、「急」のつく操作や長時間同じ速度での走行は避けてください。
この段階的な負荷の上昇は、人間が運動を始める前の準備運動、または新品の靴を履き始めた際に、いきなり長距離を走らず徐々に足に馴染ませる行為とイメージすると分かりやすいです。車が本来の性能を発揮できる状態に整えるだけでなく、ドライバー自身が新しい車の挙動や感覚に慣れるための期間でもあります。
特に、車種や排気量が大きく変わる乗り換えの場合、アクセルの踏み込み量に対する加速度や、ハンドルを切った際の車両の動きなどが大きく異なります。「思った以上に動いた(加速した)」といった誤認による事故を防ぐためにも、新車購入時の慣らし運転は非常に重要であると考えられます。
慣らし運転後は初期摩耗粉を除去するためのエンジンオイル交換を

新車のエンジン内部は、部品同士が馴染むまでの初期摩耗によって、微細な金属粉(摩耗粉)が発生し、エンジンオイルの中に混じっていることが多くあります。これらの金属粉は、エンジンの部品を傷つける原因となるため、適切な時期にオイル交換を行い除去する必要があります。
新車購入後の1ヶ月点検や、走行距離1,000kmといった適切なオイル交換時期は、ディーラーや車両ごとに定められていますので、必ずそれに従ってオイル交換を実施してください。
新車時に慣らし運転でエンジンのアタリをつけたとしても、その後のエンジンオイルやオイルエレメントの交換などのメンテナンスを怠れば、エンジンの調子は次第に悪化してしまいます。適切な時期に定期的なメンテナンスを行い、良好な状態を保つことが大切です。
慣らし運転期間は「急」のつく操作を避け、安全運転を心がけてください
慣らし運転期間は、エンジンのアタリ付けだけでなく、サスペンションやブレーキなどの足回り部品が馴染む期間でもあります。そのため、急加速・急発進だけでなく、急ブレーキや急ハンドルといった「急」のつく操作は避け、車両の動きに慣れながら緩やかな運転を心がけてください。
特に最初の3,000km程度までは、新しい車の挙動に慣れ、部品の馴染みを促すためにも、落ち着いたエコ運転を実践するよう心掛けてください。
参考文献
- 注1:慣らし運転はした方がよいですか?|トヨタ自動車
- 注2:クルマの慣らし運転は必要ですか。|ホンダ自動車
- 注3:車のためにならし運転を|日産自動車
- 注4:タイヤの慣らし走行について|ダンロップ
- 注5:新品タイヤのならし走行|ブリヂストン





























