ボクサーエンジンの特徴

ボクサーエンジン(水平対向エンジン)の特徴やメリット・スバルが導入する理由

ボクサーエンジンでは、シリンダーを水平に置いてピストンを左右に振動させて車を動かす仕組みを採用。メリットや特徴について、創業以来こだわり続けて自社の車にボクサーエンジンを搭載しているスバルの歴史について。

ボクサーエンジン(水平対向エンジン)の特徴やメリット・スバルが導入する理由

ボクサーエンジンの特徴やメリットはスバリスト以外でも楽しめる

現在販売されている国産車のほとんどに採用されているエンジンは、直列4気筒あるいはV型6気筒タイプです。そんな中、スバルは創業以来ブレることなくボクサーエンジン(水平対向エンジン)を自社の車に搭載し続けています。

スバルがこだわり抜いて搭載し続けるボクサーエンジンの特徴やメリット、スバル以外でもボクサーエンジンを導入している車や自動車メーカーについて紹介します。

以前でしたら、その特徴的なエンジン音を聞くだけでもボクサーエンジンを搭載している車かどうかを判別できました。最近では開発の技術力が向上し、エンジンの静粛性が増したため、コアなスバリスト以外では判別しにくくなっています。これからも進化を遂げる、ボクサーエンジンにはスバリスト以外の方達も楽しめる魅力がたくさん詰まっています。水平対向エンジンに興味がある車好きの方はぜひ詳細をご覧ください。

ボクサーエンジンは水平方向にピストン運動を発生させて車を動かす

スバルのボクサーエンジン

意外かもしれませんが、ボクサーエンジンを発明したのは、世界的に有名なラグジュアリーブランドであるベンツの創業者である、カール・ベンツです。

ボクサーエンジンでは、缶ビールのような形状をしていて内部でガソリンを燃焼させるエンジンパーツであるシリンダー(気筒)を水平方向に向かい合うように配置させ、ピストンを左右方向に動かします。ピストンが左右に振動する様子が、ボクシングの試合で選手がパンチを打ち合うように見えるので、ボクサーエンジンと呼ばれるようになりました。 この水平対向エンジンの構造が、低重心や振動抑制といったメリットを生み出します。

ボクサーエンジンの仕組み

その他のエンジンについても軽く説明すると、日本で販売されている車の中では主流となっている、ピストンを上向きに配置している直列エンジン、ホンダのNSXやフェラーリ、ランボルギーニなどのスーパーカーなどが導入している、シリンダーの配置パターンがアルファベットのVのように見えるV型エンジンがあります。それぞれのエンジンの構造によって、車の乗り心地や性能に特徴があります。

スバルがボクサーエンジンを開発し続ける訳~技術者スピリッツが受け継がれているから!

ボクサーエンジンの実物

日本のボクサーエンジンの歴史はスバルとともにあります。スバルはボクサーエンジンに同社が初めて開発を行った量産型自動車である「スバル1000」へ搭載してから一貫してこだわり続けています。その後世界各地に、ボクサーエンジンを搭載したスバル車種が送りだされ、累計販売台数は2,000万台近くにも達しています。

「スバル1000」の開発は百瀬氏がリーダーとして携わりました。百瀬氏は飛行機の開発に長年携わっていた人物です。百瀬氏の飛行機の開発で培った経験、より性能のよい車に乗ってもらいたいという情熱の結果たどり着いたのが、シリンダーを水平に設置してピストン運動を起こさせるボクサーエンジンです。

多額の開発費用を投じたのにもかかわらず「スバル1000」は売上的には成功しませんでした。他のメーカーがボクサーエンジンを採用しなかったのは、採算性を考慮して優位性が乏しいと判断したからとも言われています。

スバルでは「スバル1000」以後の車にも百瀬氏のリーダーシップのもと、ボクサーエンジンを搭載し続けました。ボクサーエンジンを搭載した車の乗り心地は評判となり、スバリストと呼ばれるコアなファンも増えていきました。この熱狂的な支持が、スバルが水平対向エンジンにこだわり続ける大きな理由の一つです。

百瀬氏から始まるスバルの技術者達の熱いスピリットが代々受け継がれているため、スバルはボクサーエンジンの開発・導入にこだわり続けています。この技術者魂が、スバルの車に独自の魅力を与えています。

ボクサーエンジンは独特のサウンドが魅力!その他にもメリットがもりだくさん

ボクサーエンジンと言えばボクサーがパンチするような「ドンッ、ドンッ」と響く独特のサウンドが魅力です。また、衝突安全性能も高くなるなどメリットは多々あります。スバリストを虜にするボクサーエンジン(水平対向エンジン)のメリットを詳しく紹介します。

1.加速しても左右のシリンダーが振動を抑えるため爽快感がある

直列エンジンやV型エンジンでは上下方向にピストンを動かします。それに対してボクサーエンジンでは、左右の方向にピストンを動かします。ピストンを左右に動かす方式を採用することで、右方向と左方向のシリンダーで発生した力を互いで打ち消し合う事ができるため、発生する振動を抑制することが可能です。そのため、加速しても振動が発生しにくいので気持ちの良い運転を堪能することができます。

2.低重心化により左右がブレ難くなり安定走行が実現

ボクサーエンジンはピストンを水平方向に振動させるという構造上、縦のサイズは控えめで横のサイズはたっぷりめに取ります。

細長い棒よりも、横に幅のある棒の方が重心は低くなり安定しやすいように、直列エンジンよりもボクサーエンジンの方が重心は低くなります。エンジンが低重心化すると、土台のしっかり感が強まり車は左右にブレにくくなり、走行中の安定感が高まります。これはスポーツカーにとって大きなメリットです。

3.衝突をしてもエンジンがフロア下に潜り込むため大きな怪我にはつながりにくい

ボクサーエンジンの縦サイズはそれほどありません。その構造的な特徴は、対象物と正面衝突してしまった際にも活かします。衝突時にはエンジンがフロア下に潜り込みやすいため、車内に侵入してしまうというケースが少なくなります。そのため、万が一事故が起こってしまった際には、車内にいる人のダメージを軽減することができます。衝突安全性能の高さは、スバル車が支持される理由の一つです。

ボクサーエンジンを搭載することにより発生するデメリット

世界中のスバリストが魅了されるスバルこだわりの水平対向パワートレイン「ボクサーエンジン」にはデメリットもあります。日々進化しているボクサーエンジンですが、どのようなことが不満点に挙げられるのか紹介します。

エンジンのパーツが増え生産コストが増加することにより車の販売価格が高くなる

ボクサーエンジンはエンジン自体、その周りの系統においても使用するパーツの種類が多くなります。具体的には、シリンダーが水平に配置されるため、排気系や吸気系の取り回しが複雑になりやすく、専用部品の点数が増加します。そのため、生産コストが高くなり、車の販売価格も必然的に高くなります。

ボクサーエンジンの構造上車幅が広くなるため小回りが利きにくい

ボクサーエンジンは、ピストンを水平方向に往来させる方式を採用するため、エンジンの構造的な特徴として横幅がワイドになってしまいます。そのため、エンジンの周りのスペースが場所を取られてしまいます。その影響を受けて、タイヤを左右に動かせる幅が少なくなるため、車の小回りが利きにくくなってしまいます。ただし、最新のスバル車では設計の工夫により、このデメリットを解消しようと努力しています。

スバル車といえばアイサイトではなく、やはりボクサーエンジン!

スバル車は1966年の「スバル1000」を発売して以降、半世紀以上にも渡ってボクサーエンジンにこだわり続けています。最近では車載カメラを搭載し、ケースに応じて自動でブレーキが発動する先進の安全支援技術アイサイトのイメージも浸透してきましたが、他の自動車メーカーも同様の安全支援システムを導入しています。ボクサーエンジンにこだわり続けているのは、国内ではスバルだけだということを考えると、やはりスバル車といえばボクサーエンジンです!

ボクサーエンジンを積んでいるレガシィB4

スバルの看板車種であるレガシィB4には、「燃費」「出力」「静粛性」など全ての面でグレードアップした2.5L新世代ボクサーエンジンが搭載されています。新たなエンジンによってボクサーエンジンでは、ハードルが高いと言われていたロングストローク化を実現できました。ボクサーエンジンは今後もスバルの技術力で進化を続けていきます。e-BOXERの登場も、その進化の証です。

スバル以外でボクサーエンジンを採用している車やメーカー

ボクサーエンジンを搭載する車種はスバルだけではありません。国内ではトヨタにもボクサーエンジンを搭載した車種がラインナップされています。どのような車種なのか確認しましょう。

スバルとトヨタが共同開発した名スポーツカー「トヨタ86」もボクサーサウンドを楽しめる

ボクサーエンジンのトヨタ86

トヨタとスバルが共同で開発したスポーツカーである「86」にもボクサーエンジンが搭載されています。

トヨタブランドで販売されている「86」に搭載されているエンジンは、スバルのFB20型をベースとして、トヨタの直噴技術であるD-4Sを組みあわせる事で実現した、新世代ボクサーエンジンである2.0L水平対向4気筒エンジン(FA20型)です。水平対向エンジンを採用することで、低重心による優れた走行性能を実現しました。

スバルブランドで販売されている「BRZ」は86とは兄弟関係にあります。どちらの車もコストパフォーマンスの高いスポーツカーとしての高い知名度と人気を誇ります。両車種は、ボクサーエンジンの魅力を広く伝える役割も担っています。

スバル以外でボクサーエンジン(水平対向エンジン)を搭載するのはポルシェのみ

ボクサーエンジンのポルシェの車

海外の自動車メーカーでは、ポルシェがボクサーエンジンにこだわり続けています。ポルシェのボクサーエンジンは、高性能スポーツカーの代名詞の一つです。

ポルシェがボクサーエンジンを積極的に導入するのは、40年以上も歴史を持つ人気シリーズである911シリーズを始めとして、車高の低い車を数多くラインナップしているからです。

縦サイズに比べて横サイズが広いボクサーエンジンを搭載することで、車高を低くすることが可能ですし、加速しても振動を抑える事ができるという利点があります。ポルシェでは、この水平対向エンジンの特性を最大限に活かし、高性能と安定性を両立させています。

ボクサーエンジンQ&A

ボクサーエンジンにまつわる素朴な疑問を集めました。整備に関する問題も含んでいますので、スバル車などボクサーエンジン搭載車の購入を検討している方は参考にしてください。

ボクサーエンジンはオイル漏れしやすい?

ボクサーエンジンはV型や直列エンジンに比べてオイル漏れが起こりやすいと言われます。これはボクサーエンジンの構造を考えると、致し方ない部分でもあります。

ボクサーエンジンは、「水平対向エンジン」の別名の通り、シリンダーやヘッドが地面に対して水平に配置されています。V型エンジンが縦向きのペットボトルだとしたら、ボクサーエンジンは横向きです。キャップがしっかり締まっているときは問題ありませんが、緩んできたときに、よりこぼれやすいのは横向きに配置されている方でしょう。

ただし、オイル漏れの頻度に関して明確なデータがあるわけではなく、あくまで傾向の話です。スバルなどはそうした弱点を重々承知しており、技術は進歩していますから、ボクサーエンジン搭載車が必ずしもオイル漏れする訳ではありません。最近のモデルではパッキンやシールの素材や設計が改良され、対策が進んでいます。

ボクサーエンジンはターボ化しにくい?ハイブリッドも不向き?

水平対向エンジンだから、ターボ化しにくいという事実はありません。例えばスバルでは、ステーションワゴン・レヴォーグやスポーセダンWRX STIなど多くの車種でターボエンジンを搭載しています。ターボチャージャーを搭載することで、ボクサーエンジンの魅力である低重心を保ちながら高い出力を実現しています。

また、ボクサーエンジンを採用しているスバルとポルシェは「低燃費」を積極的にPRするメーカーではありませんが、ボクサーエンジンとハイブリッドシステムを組み合わせることも当然可能です。スバルは、水平対向エンジンと電動パワーユニットを組み合わせた「e-BOXER(イーボクサー)」を開発し、人気を集めています。これは燃費と走行性能の両立を目指した進化です。

ボクサーエンジンにディーゼルはないのか?

ボクサーエンジンを開発しているのはスバルとポルシェの2社のみ、そんななか唯一市販化されたボクサーディーゼルは、スバルのEE20型です。2008年に発表され、欧州モデルのレガシィやインプレッサ、フォレスターに搭載しました。

残念ながら、EE20型ボクサーディーゼルは国内車種への採用はなく、欧州での環境規制の強化もあり、2020年には製造・販売を中止しています。しかし、水平対向という独特のレイアウトでディーゼルの課題である振動を抑え込んだ技術は評価されています。

ボクサーエンジン搭載車の整備はディーラー以外でも可能?

ボクサーエンジン搭載車、例えばスバルの車を他メーカーを取り扱う整備工場などに持ち込み、点検・修理を行うことは可能です。しかし、やはりスバルディーラーやスバル車専門の整備工場に任せるのが一番安心です。

日本でボクサーエンジンを搭載しているのはスバルだけですので、国産車を総合的に取り扱っているような工場の場合、整備士もスバル車を担当する機会が少なく、経験値が不足しやすい傾向にあります。水平対向エンジンは構造が特殊なため、経験と専用工具が必要になるケースが多いです。

スバリストが懐かしむボクサーサウンドとは?

かつてのスバル車は、ボクサーサウンドと呼ばれる独特の排気音を響かせていました。ドロドロ音、ドコドコ音などと表現しますが、これはエキゾーストマニホールドが不等長なことによって起こる排気干渉、要するにノイズで、性能的にも本来は「ない方が望ましいもの」です。

2000年以降、スバルは等長エキゾーストマニホールドを採用し、排気音は非常に静かになりました。しかし、1990年代のレガシィやインプレッサなどの人気車がこうした音を響かせていたため、ボクサーサウンドを好むスバリストが多いのも事実です。

なお、海外でも「ボクサーサウンド」という表現はありますが、この場合はポルシェのレーシーな甲高い音を指すことが多いです。ポルシェは、ボクサーサウンドを残すため、あえて不等長エキゾーストマニホールドを採用している車種もあります。

社外マフラーに交換すればボクサーサウンドはまた聴ける?

エンジンから排出されたガスは、エキゾーストマニホールド→触媒→エキゾーストパイプ→マフラー(サイレンサー)の順に通過します。ボクサーサウンドは、エキゾーストマニホールド(エキマニ)が不等長なために発生する音ですから、マフラー(サイレンサー)を変えただけでは、本物のボクサーサウンドを出すことはできません。

ただし、サウンドチューニングによって、ボクサーサウンドに似た音を再現できる可能性はあるでしょう。実際にスバル車用の社外マフラーの中には、そうした独特の排気音を売りにしているものもあります。

また、大掛かりなカスタムにはなりますが、HKSなどの大手マフラーメーカーからは、昔のボクサーサウンドをよみがえらせるBRZ用のエキマニが販売されています。本物の音を求めるなら、エキゾーストマニホールドの交換を検討してください。

ボクサーエンジンを搭載しているスバルの車に一度は乗ってみよう

ボクサーエンジンを搭載する車

世界に数ある自動車メーカーの中でも積極的にボクサーエンジンを自社の車に搭載し続けているのは、スバルとポルシェだけです。水平対向エンジンは、その構造の特殊性から、採用するメーカーが限られています。

ポルシェの車はどのラインナップも高額で、セレブ層でなければなかなか購入することができない高価格帯です。車好きなら普段乗っている直列エンジンとの違いを味わうため、ボクサーエンジンを搭載している車には乗ってみたいものです。その思いを実現してくれるのがスバルの車です。スバルは創業当初から、ボクサーエンジンにこだわり続けてきました。そんなスバルの車に一度は乗ってみましょう。低重心による安定した走りを体験できます。