マツダ ビジョンクーペは市販化されず デザインは次代へ
マツダが2017年の東京モーターショーで世界初公開した「VISION COUPE(ビジョンクーペ)」は、「引き算の美学」を体現した流麗な4ドアクーペとして大きな注目を集め、翌2018年には欧州で「最も美しいコンセプトカー(コンセプトカー・オブ・ザ・イヤー)」にも選ばれました。直列6気筒・後輪駆動(FR)の次期MAZDA6につながる一台とも期待されましたが、結論から言えば、ビジョンクーペがそのまま市販化されることはありませんでした。マツダ自身も、このコンセプトの市販化を公式に明言したことは一度もありません。それでも、ここで示された方向性は、その後のマツダ車へ確かに引き継がれています。
直6・FRは「SUV」へ MAZDA6も生産終了
ビジョンクーペが予感させた縦置き直列6気筒+FRという新世代の「ラージアーキテクチャー」は、実際に市販化されました。ただし、その受け皿となったのはクーペやセダンではなく、2022年発売のCX-60を皮切りとするSUV群(CX-80、北米向けのCX-90/CX-70)でした。3.3L直6ディーゼルや3.0L直6ガソリン、直4のPHEVなどを積むこれらのモデルにより、直6・FR戦略自体は形になったものの、ビジョンクーペのようなセダン/クーペは商品化に至っていません。
フラッグシップセダンだったMAZDA6(旧名アテンザ)については、マツダが2024年1月に国内向けの生産終了を発表し、同年春に生産を終えました。しかも、直接の後継モデルは計画がないとされています。中国の合弁から生まれたEVセダン「EZ-6(欧州名Mazda6e)」は登場したものの、これはビジョンクーペが示した直6・FRとはまったく別系統のモデルです。
「直6クーペ」の予想はどうなった VISION X-COUPEへの継承
当時ささやかれていた「ビジョンクーペをベースに、3.0L直6 SKYACTIV-Xで350ps級のFRクーペが登場する」という予想は、結果として実現していません。マツダのラージ商品群がSUV中心に舵を切ったこと、そして期待された直6 SKYACTIV-X自体が市場で苦戦し、マツダが新エンジン「SKYACTIV-Z」(2027年投入予定)へ軸足を移していることも、その背景にあります。上級クーペ/セダンの計画は、事実上棚上げされた状態と言えます。
とはいえ、ビジョンクーペのデザイン哲学が途絶えたわけではありません。2025年10月のジャパンモビリティショー2025で、マツダは「MAZDA VISION X-COUPE」を世界初公開しました。これはビジョンクーペの系譜を継ぐ流麗なクーペで、2ローター・ロータリーターボエンジンにモーターとバッテリーを組み合わせたPHEVを搭載。最高出力510PS、EV走行160km、総航続800kmを掲げ、微細藻類由来のカーボンニュートラル燃料やCO2回収技術「Mazda Mobile Carbon Capture」まで盛り込んだ意欲作です。皮肉にも、かつてのビジョンクーペが「ロータリー非搭載」を強調していたのに対し、その後継的デザインは新時代のロータリーをまとって登場したかたちです。あくまで将来のデザイン方向を示す「ビジョンモデル」で市販化は未定ですが、引き算の美学は確かに次代へ受け継がれています。
マツダ ビジョンクーペが東京モーターショー2017で世界初公開
ここからは、ビジョンクーペがどのようなモデルだったのかを振り返ります。マツダは2017年10月25日に開幕した東京モーターショー2017で、「マツダ 魁 CONCEPT(カイ・コンセプト)」と「MAZDA VISION COUPE(ビジョンクーペ)」の2台のコンセプトカーを世界初公開しました。
魁コンセプトは、次世代を担うコンパクトハッチバックで、次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」や深化した魂動デザインを採用したモデルでした(のちの2019年登場のMAZDA3の原型です)。一方のビジョンクーペは、圧倒的に美しいエクステリアが魅力の4ドアスポーツクーペで、走る歓びも追求した一台でした。その魅力を解説していきます。
マツダのFRクーペが登場するという噂と、その後
当時は、ビジョンクーペをベースとしたマツダの新型FRクーペが「2026年以降に登場するのでは」という情報もありました。
最高出力350psの3.0L直列6気筒SKYACTIV-X(SPCCI+マイルドハイブリッド)を積み、ボディサイズは全長4,750mm・全幅1,890mm・全高1,350mm程度、価格帯は500〜600万円——といった見立てです。しかし前述のとおり、こうしたFRクーペは実現しないまま、直6・FRはSUVへと展開されました。予想の中でも「直6・FR化」という骨格は当たったものの、「クーペとして市販される」という部分は外れた、というのが答え合わせになります。
ビジョンクーペに直6 SKYACTIV-Xを搭載し2020年に市販化する?(当時の噂)
2019年5月、マツダは中期経営方針の中で直列6気筒SKYACTIV-Xの開発を明言しました。
当時、この直6エンジンはMAZDA6(旧名アテンザ)への搭載が有力視される一方、もう一つの搭載先として、ビジョンクーペをもとにしたFRクーペが噂されていました。
アテンザは2018年5月にマイナーチェンジを受け、2019年8月に車名を「MAZDA6」へ変更しています。
「次期MAZDA6が直6・FR化し、ビジョンクーペのデザインをまとうのでは」との見方もありましたが、結果的にMAZDA6は次期型へ移行することなく2024年に生産を終えました。直6・FRの新世代は、セダンやクーペではなくSUVで結実したのです。
なお、ビジョンクーペにはロータリーエンジン搭載の噂もありましたが、マツダは発表時から「VISION COUPEは2015年発表のRX-VISIONの進化系ではない」「ロータリー搭載の予定はない」と明確に説明していました。
ビジョンクーペのエクステリアには日本の美意識の本質が詰まっています

ビジョンクーペは4ドアタイプのスポーツカーです。独自のデザイン哲学を持ちつつ普遍性を探るマツダ車のエクステリアは、世界的にも高く評価されています。
ビジョンクーペは、デザインで日本の美意識の本質を突き詰めることをテーマに掲げました。スポーツカーらしい美しさを追求した末にたどり着いたのが「引き算の美学」であり、クーペとしての魅力を最大限に高めるため、あえてシンプルさを狙い、疾走感の際立つワンモーションフォルムを採用しています。
無駄を徹底的に削ぎ落としたボディラインには、絶対的な美しさとリズミカルな躍動感がありました。

フロントグリルを中心としたフロントマスクにも、魂動デザインがさらなる深みに達したかのようなエレガンスがありました。ボディパーツの光沢感にも、人を惹きつける魅力が宿っています。

ホイールは、社外品でカスタマイズする必要がないほど完成された造形でした。等間隔に配置されながらも1本1本が個性的で存在感のあるスポークが、全体として規律的に組み合わされる造形美には、和を尊ぶ日本古来のニュアンスすら感じられます。
ビジョンクーペのインテリアには窮屈感がありません

スポーツカーの室内は、走りの臨場感を高めるために多少の窮屈感を伴いがちです。しかしビジョンクーペでは、室内空間に立体的な奥行きと前後方向の軸を取り入れることで、その窮屈感を解き放つことに成功していました。

インテリアにも和のテイストが取り入れられていました。シフトレバー周辺などを木目調で大胆に表現しています。
室内空間のグランドデザインには、日本の伝統建築に見られる「間(ま)」の考え方が採り入れられていました。インストルメントパネルとドアリムなど、空間を構成するパーツ同士に「間」を持たせることで、心地よい空間を演出。これも窮屈感が解消される理由の一つでした。
ビジョンクーペが示した「走る歓び」は、いまも生きている

マツダは、これからのクルマづくりの目標として、環境に十分配慮しながらもクルマ本来の「走る歓び」を追求し、ドライバーの心を元気にし、ユーザーの人生を豊かにしていくことを掲げてきました。ビジョンクーペは、その理想を体現するために生まれた一台でした。
結果として、このコンセプトそのものが市販化されることはありませんでした。しかし、その「引き算の美学」と流麗なフォルムは、現行マツダ車のデザインへ、そして2025年に公開されたVISION X-COUPEへと確かに受け継がれています。走る歓びと美しさを両立させるというマツダの信念は、電動化・カーボンニュートラルの時代にあっても揺らいでいません。ビジョンクーペがまいた種が、これからどんな市販車へと実を結ぶのか、引き続き見守りたいところです。






























