ヴィジヴ パフォーマンスが描いた未来はどこへ着地したのか
2017年の東京モーターショーで世界初公開された「SUBARU VIZIV PERFORMANCE CONCEPT(ヴィジヴ パフォーマンス)」は、当時「次期WRX STIの姿ではないか」と大きな期待を集めました。結論から言えば、このコンセプトがそのまま市販車になることはなく、WRX STIも一度は途絶えています。ただし高性能スバルの物語が終わったわけではありません。あの一台が投げかけた問いが、いまどこへ届いているのかを先に整理します。
2025年、スバルはPerformance-B/E STIコンセプトを公開
スバルは2025年10月開幕のジャパンモビリティショー2025で、「Performance-E STIコンセプト」と「Performance-B STIコンセプト」の2台を世界初公開しました。前者はバッテリーを床下に敷き詰めた低重心パッケージを提案するBEVのスポーツモデル。後者は内燃機関を積む5ドアハッチバックで、水平対向エンジン+シンメトリカルAWD、そして6速MTという、往年のインプレッサWRX STIを想起させる構成が与えられました。
その後もスバルは布石を打ち続けています。2026年3月12日には新車両「SUBARU HIGH PERFORMANCE X VersionII」でスーパー耐久シリーズ2026の開幕戦から参戦することを発表。北米ではラリーマシン「WRX ARA25」の公道仕様を思わせるレンダリングが公開され、次期型と目される特許図面の流出もささやかれています。いずれも公式に「次期WRX STI」と明言されたものではありませんが、高性能モデルが準備されているという見方は強まっています。当媒体としても、内燃機関を積む高性能モデルが何らかのかたちで復活する可能性は高いと見ています。スバル自身が「既存のアセットを組み合わせ、もっと気軽に愉しめるクルマをつくる」という方針をICE系商品の開発方針として公式に掲げていること、そしてスーパー耐久での実戦投入が続いていることが根拠です。
ヴィジヴ パフォーマンスは「アイサイトを核とした高度運転支援技術を、運転を積極的に愉しみたくなるスポーツセダンに載せる」という提案でした。対して2025年のスバルが見せたのは、BEVで理想を追う道と、既存資産を磨き込む道の2本立て。2017年に示された未来像とは、少し違う場所へ着地しつつあると言えます。
現行WRXは2021年に登場 ヴィジヴの意匠はどこまで残ったか
2代目となる新型WRX(VB型)は2021年9月に世界初公開され、日本では同年11月に「WRX S4」として発売されました。搭載エンジンは2.4L水平対向4気筒直噴ターボ(275ps/375Nm)で、組み合わされるのは「スバル・パフォーマンス・トランスミッション」と呼ばれるCVT。当初、日本仕様に6速MTは用意されませんでした。
デザイン面では、ヴィジヴ パフォーマンスが見せたワイドなブリスターフェンダーや低く構えたフロントマスクの気配が、確かに市販型へ受け継がれています。ただし、あの張り出したフェンダーは市販車では黒い樹脂クラッディングとして翻訳され、賛否を呼びました。コンセプトの色気がそのまま量産へ届いたとは言い難いというのが、率直な評価です。
「次期WRX STI」の予想はなぜ外れたのか
最大の答え合わせがここです。先代のWRX STI(VA型)は、EJ20型エンジンの生産終了にともない2019年12月に受注を終了(限定555台の「EJ20ファイナルエディション」が最後の花道でした)。そして2022年3月、スバル・オブ・アメリカは「新型WRXのプラットフォームをベースとする、内燃機関の次世代WRX STIは生産しない」と公式に表明しています。電動化を含む可能性を探る、という含みは残されたものの、ヴィジヴ パフォーマンスに重ねられた「次期WRX STI」という期待は、当時のかたちでは実現しませんでした。
理由は明快で、環境規制です。GHG(温室効果ガス)、ZEV、CAFEといった規制の締め付けが2017年当時の想定を超える速度で強まり、高出力ターボの4ドアセダンを新規に開発・認証する事業性が失われました。ヴィジヴ パフォーマンスの予想が外れたのは、デザインや技術の問題ではなく、クルマを取り巻くルールのほうが先に変わってしまったからだと総括できます。
ヴィジヴの系譜は2019年のアドレナリンで幕を閉じた
ヴィジヴ パフォーマンスには続編がありました。2018年1月の東京オートサロン2018で公開された「SUBARU VIZIV PERFORMANCE STI CONCEPT」です。専用フロントバンパー、サイドシルスポイラー、大型のトランクスポイラーを備えたこの一台は、当時「STIがすでにエアロを開発しているのだから、次期WRX STIは近い」という熱を大いに高めました。結果としてそれが幻に終わったことは、前述のとおりです。
そしてヴィジヴを名乗るコンセプトカーは、2019年3月のジュネーブモーターショーで公開された「VIZIV ADRENALINE CONCEPT」が最後となりました。以降、スバルはこの名称を新たなコンセプトカーに用いていません。ヴィジヴ パフォーマンスを迎えた東京モーターショーそのものも、2023年から「ジャパンモビリティショー」へと改称されています。「ヴィジヴ」も「東京モーターショー」も、いまや歴史上の名前になったというのが、2026年時点の現実です。
ヴィジヴ パフォーマンスは2017年の東京モーターショーで世界初公開された
ここからは、当時のヴィジヴ パフォーマンスがどのような提案だったのかを振り返ります。スバルは、2017年10月25日から11月5日まで(一般公開は10月28日から)開催された東京モーターショー2017で、「SUBARU VIZIV PERFORMANCE CONCEPT」を世界初公開しました。
2017年4月に富士重工業からスバルへと社名を変えてから、初めて迎えた東京モーターショーです。当時のテーマは「New SUBARU STORY~モノをつくる会社から、笑顔をつくる会社へ~」でした。スバルブースには、ヴィジヴ パフォーマンス以外にも、WRX STIをベースとする450台限定・抽選販売の「S208」や、100台限定の「SUBARU BRZ STI Sport(クールグレーカーキEdition)」、IMPREZA FUTURE SPORT CONCEPTなどが並びました。
以下では、2017年9月25日に公開されたティーザー画像から読み取れたエクステリアの特徴と、ヴィジヴというネーミングの由来、そしてこのコンセプトが背負っていた思想を整理します。
ヴィジヴ パフォーマンスコンセプトのエクステリア

2017年9月25日、スバルは東京ビッグサイトで開催される東京モーターショーへの出展概要を公式に発表しました。「SUBARU BRZ STI Sport」「レガシィ アウトバック Limited Smart Edition」
「SUBARU XV FUN ADVENTURE CONCEPT」といった車両画像が居並ぶなか、ひときわ目を引いたのがヴィジヴ パフォーマンスです。
全体像をあえて陰に沈めることで想像力をかき立てるティーザー画像の手法が効いていたこともありますが、スバル共通のデザインフィロソフィーである「DYNAMIC×SOLID」の思想が、ブリスターフェンダーの躍動感から確かに伝わってきました。
ヴィジヴ パフォーマンスはスポーツセダンタイプのコンセプトカーです。ボディサイズは全長4,630×全幅1,950×全高1,430mm、ホイールベース2,730mm、タイヤは245/40R20、乗車定員5名。空気抵抗の低減を意識した滑らかなボディラインが印象的でした。
フロントまわりでは、ブリスターフェンダーの膨らみを活かすためにワイドタイプのヘッドライトを採用。フロントグリルのエッジが光を帯び、ドアミラーの造形も独特でした。
ティーザー画像がかき立てた「次期WRX STI」への想像
ティーザー段階ゆえに全貌はベールに包まれており、「これはどんなクルマなのか」と想像を膨らませる楽しみがありました。いま振り返れば、その想像の大半は次期WRX STIへと向けられていたわけです。スバル側も当時、次期WRX STIがヴィジヴ パフォーマンスに似る可能性を否定しなかったため、期待はいっそう膨らみました。
ヴィジヴ パフォーマンスは運転を愉しみたくなるクルマ

ヴィジヴは「Vision for Innovation(革新のための未来像)」を語源とする造語です。ヴィジヴを名乗るコンセプトカーは、ヴィジヴ パフォーマンスが初めてではありませんでした。
スバルがヴィジヴという名のコンセプトカーを初めて出展したのは、2013年のジュネーブモーターショーです。以降、スバルは主要なモーターショーに合わせて、スタイルとテーマを変えたヴィジヴ系のコンセプトカーを送り出してきました。ヴィジヴ ツアラー コンセプト(2018年ジュネーブ)は後の2代目レヴォーグを、ヴィジヴ アドレナリン コンセプト(2019年ジュネーブ)は後のクロストレックへ連なる方向性を示唆したと受け止められています。
東京モーターショー2017に出展されたヴィジヴ パフォーマンスは、SUBARU独自の運転支援システム・アイサイトを核に据え、さらに進化させた高度運転支援技術を搭載。運転を積極的に愉しみたくなるクルマの将来像を提示しました。当時スバルは2020年をめどにレベル2相当の運転支援を実用化すると表明しており、この提案はその延長線上にあったものです。その約束は、2020年発売の2代目レヴォーグで実用化された「アイサイトX」として、きちんと果たされています。
ヴィジヴ パフォーマンスは自動運転時代でも走る愉しさを問いかけた一台だった

東京モーターショー2017のスバルブースにおける目玉が、ヴィジヴ パフォーマンスであったことは間違いありません。「革新のための未来像」というヴィジヴの車名は、自動運転が進み、人に代わって人工知能(AI)がクルマを走らせることが当たり前になる時代に向けて、深い意味合いを持つ言葉でした。
クルマを運転する喜び・愉しみをユーザーに体感してもらうことをコンセプトに掲げるスバルにとって、自動運転化の到来は決して手放しで喜べるものではありません。だからこそ、アイサイトという安心の技術と、運転したくなるスポーツセダンという愉しさを、一台の上で両立させて見せる必要があったのだと思います。
そして9年近くが経ちました。ヴィジヴ パフォーマンスは市販されず、WRX STIも一度は途絶えました。それでもスバルは、水平対向エンジンとシンメトリカルAWD、そして自分でギアを選ぶ愉しさを手放していません。かたちを変えながらも、あのコンセプトカーが投げかけた問いに、スバルはいまもきちんと答え続けていると言ってよいでしょう。





























