雪道の自動運転

自動運転は雪道でも可能?実現に向けて取り組む各企業・各団体の研究内容と今後の展望

自動運転は雪道でも可能?走行車線が見えない、路面が滑りやすい、搭載するセンサーの反応が鈍るなどの悪条件が重なる中で、実現に向けて取り組むフォードや三菱電機など各企業の研究内容や、寒冷過疎地で移動・輸送手段を確保するために北海道の大樹町で実施された検証実験の成果も紹介。

自動運転は雪道でも可能?実現に向けて取り組む各企業・各団体の研究内容と今後の展望

雪道の自動運転の可能性について考察 今後の展望

自動運転を実現するには、雪道でも人に代わってシステム側がステアリング操作やブレーキ操作等の運転操作を行う必要がある。降雪によって視界が遮られて、路面が滑りやすい雪道を運転する際に人はいつも以上に神経を使う。

雪の高速道路雪の高速道路は緊張の連続

車線が見えていない、道路が滑りやすい、路肩に雪が堆積していて道幅が狭い、降雪の影響で搭載するセンサーの反応が鈍ってしまう雪道では、自動運転のハードルが上がります。

世界の主要な自動車市場であるアジアや北米、ヨーロッパでは多くのドライバーが雪道を運転しています。それら巨大市場でビジネスを行うためには、自動運転車は走行車線が見えない、路面が滑りやすい状況下であっても、システム側が運転を代行できる技術を確立していなければなりません。

ここでは、雪道での自動運転を実現させるため取り組む各企業や各団体の研究内容を話題の中心としながら、今後の展望についても紹介。

自動運転はシステム側が「認知」「判断」「操作」に関与する度合いを高めていって最終的には人のサポートをなくしていく

自動運転は、人が車を運転する際に行う「認知」「判断」「操作」の各過程を、人工知能等の先端技術を用いる事でシステム側に代行させて、最終的にはあらゆる場所で人のサポートがなくとも自律して運転を行えるようなシステムの構築を目指しています。

人は車を運転する際に必要となる「周辺に歩行者がいるか?」「信号は青であるか?」「対向車はいないか?」などの周囲の状況を、主に視覚情報によって認知します。自動運転車は、LiDARやカメラなどの機器によって周囲の状況を認知します。

認知された情報は、人であれば脳で、自動運転であれば人工知能(AI)に伝達されて、「自車のスピードは緩めるべきか?」「対象物との衝突の恐れはないのか?」など次の運転行動が判断されます。

人の脳が「このままのスピードで直進すれば、衝突の恐れが高い」と判断すれば、手や足の筋肉を動かす命令が下されて、ステアリング操作やブレーキ操作が行われます。AIが対象物と衝突する可能性が高いと判断した場合には、動作系統に信号が送られて、ブレーキやステアリング制御が自動的に行われます。

雪道での自動運転を実現するには走行可能エリア限定なしのレベル5をクリアする必要がある

自動運転は、システム側が「認知」「判断」「操作」に関与する度合いや、技術到達度、走行可能エリアの限定度合いによって、レベル0からレベル5に6段階に区分けされます。

雪道での自動運転の実現を目指す車は、走行可能エリア限定なしのレベル5を技術的にクリアする必要があります。完全運転自動化を実現するには、道路交通法を改正するなど社会的なインフラも整備しなければなりません。

米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)の自動運転のレベル定義
レベル 名称 操作 走行可能エリア
0 運転自動化なし 全て人
1 運転支援 限定的
2 部分自動運転化 限定的
3 条件付き運転自動化 両方 限定的
4 高度運転自動化 限定的
5 完全運転自動化 限定なし

雪道で自動運転のハードルが上がるのは「認知」や「判断」機能に悪天候や周辺の環境の変化が影響を与えるから

猛吹雪の雪道雪道では突然の吹雪で視界が遮られることも少なくない

数多くのドライバーが、視界や路面が制限されてしまう雪道運転を苦手とするように、雪道は自動運転を行おうとする車にとっても、搭載するセンサー等の認知機能の低下を招いたりするために、そのハードルが上がってしまいます。

ここでは、降雪や路面が雪で覆われている際に、自動運転が難しくなる理由を紹介します。

雪の影響で搭載するカメラが走行車線を認識できなくなる

車が走行車線からはみ出しそうな時にステアリングアシストを行うレーン・キープ・アシストは、搭載する車載カメラによって、走行車線の白線を目印として認識させる事によって実現する運転サポートシステムです。

その応用技術は、自動運転に活用されています。自動運転車が同一車線を走行する際には、走行車線の白線や黄線を目印とします。降雪の影響を受けて、搭載する車載カメラの認識能力が低下している、あるいは路面が雪に覆われていて、白線が見えない場合には、車載カメラから送られる情報だけでは自動運転を継続させるのは困難になります。

周辺にある対象物との距離や位置を測定するLiDARは雪の影響を受けやすいため自動運転の安全性が低下

照射されたレーダー光線が周囲の物体に反射して返ってくるまでの時間を測定して、対象物との距離や位置を測定するLiDAR(ライダー)は、歩行者や先行車、障害物を認識するために役立つセンサーです。自動運転する車の安全性に関わるLiDARは、雨や雪の影響を受けやすいため、雪道では対象物の認知機能が低下してしまいます。

雪道ではデータ登録されている3次元空間のマッピング情報との間での違いが大きくなるためスムーズな自動運転が行えない

現在主流となっている自動運転技術は、3次元空間のマッピング情報を大量に活用しています。通常時であれば自車の位置を推定して、スムーズな自動運転のサポートを行うマッピング情報は、道路脇に雪山が形成されている、道路標識が見えないなどして、データ登録されている位置情報との間で違いが大きくなれば、判断機能に混乱を招いてしまうため、スムーズな自動運転が行えなくなってしまいます。

自動運転を雪道でも可能とするために各企業・各団体が取り組んでいる研究内容と今後の展望

雪道では、レーダーやカメラ等の各種センサーの認知機能が低下してしまう、道路脇に堆積する雪などが判断機能を惑わしてしまうために、自動運転のハードルは上がってしまいます。

しかし、雪道での自動運転を実現すれば、北米やアジア、ヨーロッパなどの巨大市場でのビジネスチャンスが広がるなど、多くのメリットがあります。そのため、フォードなどの各企業は巨額の研究費を投じて開発を行っています。国内外の企業や団体や取り組んでいる研究内容と今後の展望を紹介します。

フォードは3Dマッピング技術と高精度のLiDARを組み合わせて雪道での自動運転の実現を目指す

フォードは、本社を構えるミシガン州が豪雪地帯という事もあって、雪道での自動運転に関する研究に積極的です。

フォードは2016年1月にミシガン大学のエンジニアたちと、積雪の影響を受けて、道路標識や車線が判別しにくくなる雪道での自動運転車の走行実験を開始しました。

実験コースとして選ばれたのは、ミシガン大学の敷地内に作られた、自動運転車専用の大規模実験施設「Mシティ」です。Mシティでは、建物や道路だけではなくて、標識なども含めて市街地が忠実に再現されています。

フォードのエンジニアなどで構成される研究チームは、積雪の影響を受けて車載カメラやセンサーで路面標示を読み取れない状況下に対しては、解像度の高い3Dマッピング技術と、200m先にある対象物も捉えることの出来る高精度のLiDARを組み合わせる事で、対処する方針です。

高精度LiDARによって得られたデジタルデータは雪道を自動運転する際に活かされる

実験車両には、あらかじめ雪が積もっていない状況下の同一コースを自動運転仕様の「フュージョン・ハイブリッド」で走行させます。その際に、車載LiDARで街並みをスキャンさせて、センチメートル単位で忠実な3Dマップを作製します。

走行エリアの道路標識、車線、路面標示、建物、地形などの詳細なデータは地図上に埋め込まれて、路面が見えない雪道で自動運転する際に有効活用されて、コンピューターが周囲の状況を把握するために利用します。

フォードは、雪道など滑りやすい路面下で横滑りを防ぐ効果を発揮するESCや、エンジン出力を調整するトラクションコントロールシステムを、自動運転のソフトウェアと連動させる事で雪道での安全性を更に高めます。

大樹町では測位情報や道路に埋めた磁気マーカーを利用して運行する車両の検証実験が行われた

北海道の大樹町で2017年12月11日から16日までの期間中に、宇宙から送られる測位情報や道路に埋設した磁気マーカーを利用して、雪道での自動運転の実現を目指す車両の検証実験が行われました。

同実験は、高齢化が進む地域住民の移動手段や物流を確保するために、自動運転サービスの実現を目指して、国土交通省が主催となって全国各地で実施している取り組みの一つであり、北海道の自治体では大樹町が唯一選ばれました。

大樹町で行われた自動運転の検証実験は、冬の凍結路面で実施されるという事もあって地元メディア以外からの注目も集めました。

自動運転の検証実験では大樹町の地元住民も一般モニターとなって町内に設置された11の停留所を回った

自動運転サービスの検証実験の期間中は、道の駅「コスモール大樹」を拠点として、町内に設置される11の停留所を20人乗りのマイクロバスが回りました。マイクロバスは、全地球測位システム(GPS)から送られる信号や、道路に埋めた磁気マーカーを目印として自車の位置と走行ルートを把握して、レーザーで障害物を検知して雪道での自動運転の実現を目指します

地元住民も一般モニターとなって行われた自動運転サービスの検証実験では、約8kmの道のりを走行する際に、路肩に雪山が形成されていて道幅が狭まっている箇所では、他の車をよけるために、運転手がハンドル操作を行う必要があるなどの課題も指摘されました。

三菱電機は準天頂衛星「みちびき」から送られる高精度な位置情報によって雪道での自動運転の実現を目指す

三菱電機は、同社が設計・製造に携わった準天頂衛星システム「みちびき」から送られる高精度な位置情報と、車に搭載するロケーターによって、雪道での自動運転の実現を目指します。

GPSから受信した位置情報の誤差を補正して車に送信する準天頂衛星である「みちびき」を用いる事で、GPS単独では、数mほどある測位情報の誤差は、数センチメートル単位にまで縮小されます。

「みちびき」から送られる情報は、高性能ロケーターによって受信されて、3次元地図データの情報と組み合わせる事によって、より詳細で正確な車両位置を特定する為などに用いられます。

三菱電機は実験車両「xAUTO」を用いて雪道での自動運転の走行テストを実施した

三菱電機の自動運転実証実験車「xAUTO」のエクステリア三菱電機の自動運転実証実験車「xAUTO」のエクステリア

三菱電機は2018年2月7日に、北海道第2の都市である旭川市内をまたがる道央自動車道にて、実験車両「xAUTO(エックスオート)」を用いて、雪道での自動運転の走行テストを実施しました。

xAUTOは、積雪の影響を受けて道路の白線が全く見えないという状況下あっても、「みちびき」から送られる高精度な位置情報を利用する事で、ゴールとして設定したパーキングエリアまでたどり着く事ができました。

なお、xAUTOは2019年10月開催の東京モーターショーにも出展。雪道での自動運転のほか、無人での自動駐車や未整備の一般道での走行にも対応します。

三菱電機はカメラやセンサー等の自律型技術と「みちびき」を利用したインフラ型の走行技術を進化させて一般道での自動運転の実現を目指す

三菱電機は、道央自動車で実施した走行テストで、雪道で「みちびき」から送られる高精度な位置情報を用いた自動運転の有効性を確かめました。

エックスオートは車載カメラで白線を捉える事が出来なくなっても、「みちびき」から送られる高精度な情報を基にして、3D地図情報と組み合わせる事によって、自車が走行すべきルートを自動算出させます。

三菱電機は、カメラやセンサー等の自律型技術と、「みちびき」を利用したインフラ型の走行技術も進化させて、走行実験を繰り返す事で、2020年以降に一般道での自動運転の実用化を目指します。

北海道大学の研究者などで構成されるプロジェクトチームは積雪寒冷地での走りに特化した自動運転車の開発を目指す

北海道大学や名古屋市のソフトウェア開発会社ヴィッツなど産学連携7団体で構成されるプロジェクトチームは、2018年1月18日に、積雪寒冷地での走りに特化した自動運転技術を搭載する車の開発を目指す事を発表しました。

プロジェクトチームは、参加団体の一つであるヤマハ発動機のオフロード車を改造して実験を行います。苫小牧市の工業団地の一部エリアが走行テストの場所として選ばれました。

プロジェクトチームは熱源感知センサーなどによって構成させる走行システム「Snow‐SLAM」を構築して雪道での自動運転の実現を目指す

プロジェクトチームは、車体ルーフ部と前方下部に搭載する熱源感知センサーや、LiDAR、GPS、ステレオカメラ、慣性計測装置などによって構成させる走行システム「Snow-SLAM」を構築して、雪道での自動運転の実現を目指します。

プロジェクトチームが完成を目指す走行システム「Snow-SLAM」は、車に取り付けた多数のカメラやレーダーなどによって自車の位置を推定しながら、周辺情報を把握して、走行可能なルートを判断します。走行実験では、単調なコース設定と、時速40km以下とゆるやかなスピードではありましたが、雪道を自動運転する際の同システムの有効性が確かめられました。

VTTフィンランド技術研究センターは実験車両「Martti」で雪道上での自動運転で世界最高速度を達成した

VVTフィンランド技術研究センターは2017年12月15日に、同センターが開発を進める自動運転車「Martti」が、非公式ではあるが雪道上での自動運転で約40km/hの世界最高速度を達成した事を発表しました。

走行実験に用いられた車両「Martti」は、雪道での自動運転の実現を目指して開発が進められる車で、フォルクスワーゲンのSUV「Touareg」をベース車とします。同車は、対象物を認識する赤外線カメラ、周囲の状況を把握するステレオカメラなど搭載し、GPSや受信機によって、自車の現在地をリアルタイムに把握しながら自動運転を行います。

VTTフィンランド技術研究センターは制御システムのソフトウェアを改良してレーダーの解像度を向上させて凍結して滑りやすい路面での自動運転の実現も目指す

非公式ながら、雪道上での自動運転の世界最高速を実現したVTTフィンランド技術研究センターの次なる目標は、凍結して滑りやすい路面下での自動運転の実現です。

VTTフィンランド技術研究センターは、凍結路面での自動運転を「Martti」で実現させるために、同車の制御システムのソフトウェアを改良させて、搭載するレーダーの解像度を向上させるなどして取り組んでいくという、今後の方針を示しています。

日立AMSは走行レーンが見えなくなったら事前に蓄積していた情報とGPS機能を利用して自車の位置を推定して雪道での自動運転の実現を目指す

日立オートモーティブシステムズ(日立AMS)は、降雪などの影響を受けて自動運転中にカメラが走行レーンを認識できなくなったとしても、直前までに保存していた周辺情報と、GPS機能を利用して、自車の位置を推測させることで雪道での自動運転の実現を目指します。

日立AMSは、自動走行中にステレオカメラと4つの車載カメラによって集められた周辺情報をデータ保存するシステムを構築します。降雪や濃霧などの影響を受けて、搭載するセンサーで走行レーンを判断できなくなった場合には、直前までに蓄積されていた周辺情報とGPS機能を活用する事で、自動運転を継続させます。

同社とその子会社グループは、対象物を複数の異なる方向から同時に撮影できる最先端のステレオカメラを車の足回りに設置して、ガードレールや雪壁を白線の代わりの目印として認知させる路端検知技術を構築することで、より早いタイミングで雪道での自動運転の実現を目指します。

雪道での自動運転が実現すれば寒冷自治体の生活の足となるだけではなくて、冬の交通事故が激減

路肩に雪山が形成されていて、道幅が狭くなっている対向2車線を走行する際、人が運転する場合であれば、お互いの車は進まずに互いに譲り合って、タイミングを計って相手の車や自分の車を先に進ませるのが暗黙の了解です。

「センターラインを超えてはならない」など与えられたルールを人間以上に徹底的に守る機械に、コンピュータープログラムで例外事項や、人間同士ならば暗黙の了解で済む事を記述するのは難しいと言われています。そういった、フレーム問題は雪道では数多く絡んできます。

しかし、自動運転が雪道でも実現すれば、大樹町のような高齢化が進む寒冷地の自治体においては、住民が買い物や通院する際の便利な交通手段となります。また、人為的な操作ミスによって起こる冬の交通事故を大幅に減らす事ができます。

雪道と言っても、アスファルトが濡れているだけに見えて、実は凍結しているブラックアイスバーンや、スタックしやすいシャーベット路面など多種多用で、あらゆる雪道で自動運転を可能とするためには、それらの雪質を「認知」「判断」して、適切な運転操作を実行しなければなりません。

雪道での自動運転を安全に行うためには、ソフト面の充実だけではなくて、スタッドレスタイヤをきちんと装着する、あるいは滑りやすい地域ではチェーンを装着するなどの下準備も大切となります。
将来的に雪道での自動運転が可能となれば、冬の生活はもっと快適になるでしょう。