コネクテッドカーが変える車社会の流れ
クルマの利便性をさらに高めるために登場したのがコネクテッドカーです。物流や交通手段の中心である車をインターネットの世界に繋ぐことで、事故時に自動的に警察や消防に通報するなどのシステムの構築が可能となりました。
あるシンクタンクの調査によれば、2020年時点の世界のコネクテッドカーの累計販売台数は、2億台を超えています。これは、コネクテッドカー市場が急速に拡大していることを示しています。
今後予想される市場規模の拡大を見据えて、トヨタはマイクロソフトと共同でアメリカに合弁会社「TC(トヨタ・コネクティッド)」を創設しました。さらに、社内にもコネクテッドカーの開発を進めるための部署「コネクテッドカンパニー」を設置するなど、技術開発の勢いを加速させています。コネクテッドカーの発達により、車社会の流れがどのように変化していくのかについて紹介します。
コネクテッドカーとは「クルマ」と「インターネット」をつなげる事でユーザーの満足度を高める仕組み

コネクテッドカーとは、車に搭載したインターネット通信機能を活用し、将来的に車を単なる乗り物としてではなく、動く情報端末機器としての可能性を探ることで、ユーザーの満足度や生活の質の向上を目指す車の仕組みを指します。車載通信機(DCM:Data Communication Module)などがその中心的な役割を果たします。
すでに市場に投入されているコネクテッドカーでは、車に搭載しているカメラやセンサーなどのデータを活用して安全支援システムの充実を図っています。また、アプリ機能によって、車内でのエンターテインメントやインフォテインメントの拡充が進められています。インターネットに繋がることによって、車の機能やサービスが飛躍的に向上しています。
自動車メーカー以外もコネクテッドカー市場に積極的に参入
コネクテッドカー市場は、今後さらに拡大する巨大市場です。そのため、自動車メーカー以外のIT業界からの参入も目立ちます。特に、GoogleやAppleといった巨大IT企業が、コネクテッドカーの分野で技術開発を積極的に進めています。
Googleは、車載OSである「アンドロイドオート(Android Auto)」を自動車メーカーに提供しつつも、完全自動運転を目指したコネクテッドカーを自社で開発しています。これは、車のソフトウェア分野における主導権を握るための重要な戦略です。
スマートフォンのOSでもGoogleと熾烈なシェア争いを繰り広げているAppleは、各自動車メーカーに「アップルカープレイ(Apple CarPlay)」を提供しています。将来的にはApple Carの販売も噂されており、コネクテッドカーの分野でも大きな影響力を持つことが予想されます。
マイクロソフトも、トヨタとコネクテッドカー関連技術のライセンス契約を結んでいます。さらに、コネクテッドカーのコンセプトムービーを公開するなど、IT企業として積極的にコネクテッドカー市場への関与を深めています。
IBMでは、コネクテッドカーから提供されるビッグデータを有効活用するシステムを構築しています。このデータを利用してドライバーに最適な走行プランを提案したり、変化していく天候の変化に合わせて安全運転をサポートできるような情報を届けるシステムの構築を目指しています。ビッグデータの活用は、コネクテッドカーの安全性能や利便性を高める鍵となります。
蓄積したデータは交通事故を減らすために活かす

コネクテッドカー市場は今後も拡大を続け、2035年までに販売される新車の90%がコネクテッドカーであると推定されています。このような時代が近づけば、交通事故が起こることは遠い昔の話になっているかもしれません。
コネクテッドカーから届けられるデータにより、車の安全支援システムが強化されるだけでなく、ドライバーの運転中の癖を詳細に見極めることが可能になります。ドライバーの運転中の癖が事故につながる恐れがあると判断すれば、事故を防ぐための運転支援システムも発動します。コネクテッドカーは、データを通じて交通事故を未然に防ぐ重要な役割を担います。
コネクテッドカーが届けてくれるサービス
未来の形として提案されている、人と車とを繋ぐ「コネクテッドカー」ですが、実際にはどのようなサービスが想定されているのでしょうか。万が一の事故が起きた場合の緊急通報サービスや、運転状況から保険金額を算定するテレマティクス保険など、主要なサービスを紹介します。
緊急通報サービスは事故が起これば自動で警察や消防に連絡
コネクテッドカーが届けるサービスによって、事故時などの対応をスムーズに行います。事故や運転中に不測の事態が起こってしまったら、自動的に警察や消防に連絡を入れる緊急通報システムは、レクサスやトヨタの新型車の一部車種に導入されています。
ヨーロッパ諸国では、日本よりも車の緊急通報サービスの普及に積極的です。すでに2018年4月から、新たに販売する新車に緊急通報システムである「eCall」の搭載を義務化しています。このeCallの義務化は、コネクテッドカーの安全性能を世界的に高める大きなきっかけとなりました。
テレマティクス保険はドライバーの運転中の運転履歴によって保険料が変化

テレマティクス保険では、保険料を契約者の運転履歴(急ブレーキの回数、アクセルの踏み込み方、運転をよくする時間帯など)や運転中の行動を、車に搭載しているセンサーを利用して集め、事故が発生するリスクをドライバーごとに分析して算定します。つまり、安全運転をしているドライバーほど、保険料が安くなる仕組みです。
欧米諸国で盛んなテレマティクス保険は、日本でもすでにトヨタと連携している保険会社が実施しています。コネクテッドカー市場が拡大する中、車から取得できるデータが豊富になるため、今後その流れは日本でも加速すると予測されます。これは、ドライバー一人ひとりの運転特性に合わせた、より公平な保険サービスの提供を可能にします。
盗難車両追跡システムは車に何かがあったら警備員を現場に派遣するサービス

車が盗難の被害にあった場合の盗難車両追跡システムは以前からありましたが、コネクテッドカーが登場するまでは、十分なサービスとは言えないのが現状でした。このサービスは、車のセキュリティを高める上で非常に重要です。
トヨタがコネクテッドカーで提案する盗難車両追跡システムである「マイカーSecurity」では、車に専用の通信機器を搭載しています。車上荒らしや盗難の被害にあった場合に自動的にアラームが作動し、携帯電話に連絡が入ります。オペレーターとのやり取りで依頼すれば、GPS機能を利用して現場まで警備員を派遣します。これは、コネクテッドカーならではの高度なセキュリティサービスです。
つながるタクシーは将来的にはビッグデータを利用することでタクシー代が安くなる!
KDDIとトヨタ、東京のタクシー会社は、ビッグデータを活用した「つながるタクシー」の実現を目指して、実証実験をスタートさせました。これは、コネクテッドカー技術を交通インフラに応用した画期的な取り組みです。
ビッグデータを利用することで、将来的にはタクシーの効率的な配車や、渋滞を避ける最適なルート走行を可能にします。これにより、タクシー代を安くすることが期待されています。コネクテッドカーは、個人の車だけでなく、公共交通機関の利便性も向上させる可能性を秘めています。
5G時代に移行するにつれて車内でオンラインゲームや映画を楽しめるようになる
2020年3月現在、コネクテッドカーが提供するインフォテインメントサービスでは、スマホアプリやナビシステムとの連携によって実現される、走行エリアの観光情報や音楽ストリーミングなどの提供がメインでした。これは、当時の通信速度と容量の制約を受けていたためです。
2020年春以降に順次導入されていく大容量の高速通信を可能とする5G時代へと移行していけば、車内での通信環境が劇的に向上します。これにより、同乗者向けの動画配信サービスや、オンラインゲームを車内でも楽しめる新サービスの提供をコネクテッドカーが行えるようになります。5Gの普及は、コネクテッドカーのエンターテインメント性能を大きく進化させます。
コネクテッドカーの問題点はセキュリティリスク
コネクテッドカーの1番の問題点といえば、やはりハッキングの脅威でしょう。車がインターネットに常時接続されることで、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃のリスクが生まれます。2015年には、サイバーセキュリティの専門家2人が実際にジープ・チェロキーをネットワーク経由でハッキングし、遠隔操作する実験に成功しました。これにより、当時のセキュリティの脆弱性が明らかになり、140万台のリコールに発展しました。
運転中にハッキングに遭い、車両をコントロールできなくなるというのはまさに最悪の事態です。ユーザーの個人情報を保護するだけに留まらず、コネクテッドカーにはより高度なハッキング対策と、極めて高い安全性が求められています。自動車メーカーやIT企業は、セキュリティの確保を最優先課題としています。
コネクテッドカーの技術力の進化が将来的に自動運転の開発につながっていく

自動車メーカーやIT企業がコネクテッドカーに積極的に取り組むのは、コネクテッドカーの技術力の進化が、今後さらなる巨大市場となり得る自動運転車の開発に直結するからです。コネクテッドカーは、自動運転を実現するための基盤技術です。
現在販売されているコネクテッドカーに搭載する車載カメラやセンサーの精度が上がれば、衝突回避システムも現在よりも大きく進化します。また、走行中の車から送られるデータがインターネットの世界に蓄積していくことは、人工知能(AI)の進化のスピードを早めます。
今後、コネクテッドカーに新たなサービスが追加されていくことは、実は自動運転ができる車の開発に近づいたことでもあります。近い将来、自動運転できる車を初めて市場に投入するのは自動車メーカーなのか、あるいはIT企業になるのか、その競争に注目が集まります。





















