近い将来に現実となる空飛ぶクルマ eVTOLの今と次の一手

空飛ぶクルマは、もはやSFの世界だけの話ではありません。電動垂直離着陸機(eVTOL)と呼ばれるこの乗り物は、滑走路なしに都市のど真ん中から飛び立ち、ヘリコプターよりはるかに静かに、かつ排出ガスゼロで移動できる次世代モビリティです。
国土交通省と経済産業省が共同運営する「空の移動革命に向けた官民協議会」は、2026年3月にロードマップを改訂し、日本における商用運航の開始時期を2027〜2028年と明記しました。2025年に開催された大阪・関西万博では、国産機体がデモフライトを実施し、「未来」は着実に近づいています。
一方で、開発競争の激しさゆえに資金難で破綻する企業も相次いでいます。このページでは、先行事例として語られてきた各社の現状を整理しながら、日本が注目すべき実用化の最前線を解説します。
空飛ぶクルマ(eVTOL)の開発競争——先行事例の現在地
開発競争が始まった2017年前後には、世界中のスタートアップが「数年以内に実用化」を宣言していました。しかし実際には、航空機として要求される型式証明(TC)の取得がどこも想定以上に時間を要し、資金が先に尽きた企業から脱落が始まっています。各社の現在の状況を正確に押さえておくことが、この市場を読む第一歩です。
Kitty Hawk Flyer(キティホーク・フライヤー)——2022年に事業終了

2017年に発表されたKitty Hawk Flyer(キティホーク・フライヤー)は、ビデオゲームのコントローラーのような操作で水辺を飛行できる個人向けeVTOLとして注目を集めました。グーグルの共同創業者ラリー・ペイジ氏が出資したことでも話題を呼びました。
しかし、同社は2020年にFlyer開発を中止し、別機体「Heaviside」へ資源を集中。その後も事業立て直しがうまくいかず、2022年9月に会社として事業終了をLinkedInで公表しました。eVTOL市場の淘汰圧を早くに体現した事例として、業界内でよく引き合いに出されます。
| 製品名 | Kitty Hawk Flyer(キティホーク・フライヤー) |
|---|---|
| 発表年 | 2017年 |
| 操作方法 | ゲームコントローラーに近い操作系で水上飛行が可能 |
| 主な出資者 | グーグル共同創業者ラリー・ペイジ氏 |
| 現状 | 2022年9月に会社事業終了(解散) |
AeroMobil(エアロモービル)・スカイカー——地上走行と飛行を両立する機体

スロバキア発のAeroMobil(エアロモービル)社が開発したスカイカーは、地上では翼を折り畳んで通常の車のように走行し、数分以内に翼を展開して飛行モードへ移行できるという独自のコンセプトを持ちます。2017年のモナコ「トップ・マークス」展示会で先行予約を受け付けるなど、早期から購入できる機体として注目を集めました。
全幅が飛行モード時に8,800mmまで広がる点は圧巻ですが、その分だけ路上走行時のサイズ感(全長約6m)は普通乗用車の枠をはるかに超えます。実際の運用では、離陸のために既存の小飛行場などの滑走路が必要な点も現実的な制約となっています。
| エンジン | 水平対向4気筒ターボ |
|---|---|
| 総排気量 | 2.0L |
| 最高出力 | 224kW |
| 駆動方式 | 前輪駆動 |
| 燃料タンク容量 | 90L |
| 使用燃料 | ガソリン |
| 全長 | 5,998mm |
| 全幅 | 2,248mm/8,800mm(飛行モード時) |
| 車両重量 | 960kg |
| 乗車定員 | 2名 |
Lilium Jet(リリウム・ジェット)——先進技術を持ちながらも経営破綻

ドイツ・ミュンヘン発のLilium(リリウム)社は、翼に内蔵した多数の電動ジェットノズルで推力を生み出す独自の固定翼型eVTOLを開発し、2017年の2人乗りプロトタイプ初飛行以来、業界屈指の注目株でした。エアタクシーとして1回の充電で最大300km飛行できるとされた航続距離は競合を大きく上回るスペックです。

しかし、高度な技術は資金消費も激しく、ドイツ連邦政府からの融資保証を議会が却下したことで資金が底をつき、2024年10月に破産申請。その後、投資家連合による事業引き継ぎが試みられましたが、最終的な資金調達が実現せず、後継会社Lilium Aerospaceも2025年5月に再び破産申請し、事業停止となりました。型式証明の取得に「想定以上のコストと時間」がかかるeVTOL開発の難しさを象徴する事例です。
| 製品名 | Lilium Jet(リリウム・ジェット) |
|---|---|
| 開発企業 | ドイツ・Lilium社(ミュンヘン) |
| 飛行方式 | 翼内蔵型電動ジェットノズルによる垂直離着陸+固定翼巡航 |
| 初飛行 | 2017年4月(2人乗りプロトタイプ) |
| 最大航続距離(計画値) | 約300km |
| 現状 | 2024年10月破産申請、2025年5月に後継会社も事業停止 |
三井住友海上が提携していたVolocopter(ボロコプター)社も経営破綻
かつて三井住友海上火災保険株式会社が業務提携に合意し、欧州航空安全庁(EASA)の型式証明審査を75%まで完了していたと報じられたドイツのVolocopter社も、2024年12月に資金枯渇を理由に破産申請しました。Lilium社に続く欧州勢の相次ぐ破綻は、eVTOL業界に「技術力だけでは生き残れない」という厳しいメッセージを突きつけています。
| 企業名 | 三井住友海上火災保険株式会社、Volocopter GmbH(ボロコプター社) |
|---|---|
| 提携内容 | 「空飛ぶクルマ」事業に関する業務提携(提携合意当時) |
| ボロコプター社の特徴 | 垂直離着陸機の開発、EASA型式証明審査を進めていた |
| 現状 | 2024年12月に資金枯渇を理由に破産申請 |
Pop.Up——エアバスとイタルデザインが描いたモジュール型コンセプト

2017年のジュネーブ・モーターショーで、航空機メーカーAIRBUS(エアバス)と自動車デザイン会社イタルデザインが共同公開したコンセプトカー「Pop.Up」は、その発想の斬新さで大きな注目を集めました。

Pop.Upは、乗客が乗るカプセル部分を、4基のドローンを備える「エアモジュール」と地上走行用の「グランドモジュール」に付け替えることで、陸と空を使い分けるシステムです。AI搭載によって地上走行・飛行のどちらでも最短ルートを自動算出します。現時点ではコンセプトモデルにとどまっていますが、「乗客カプセルが共通プラットフォーム」というモジュール発想は、その後のAAM(先進航空モビリティ)設計思想に影響を与えています。
| 製品名 | Pop.Up(ポップアップ) |
|---|---|
| 開発企業 | AIRBUS(エアバス)、イタルデザイン |
| 公開時期 | 2017年ジュネーブ・モーターショー |
| 構成 | カプセル(客室)+エアモジュール(飛行用)+グランドモジュール(地上走行用)の3ユニット構成 |
| 特徴 | AI搭載で地上・空中ともに最短ルートを自動選択。現在はコンセプトモデル |
トヨタが出資するJoby Aviation——ドバイで商用サービスを目指す本命格
2020年1月、トヨタ自動車は米カリフォルニア州のJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)に3億9,400万ドル(約430億円)を出資し、空飛ぶ車事業へ本格参入を発表しました。その後も追加出資を重ね、トヨタはJobyの主要株主の一角を担っています。
Joby S4は最大航続距離約160kmの固定翼型eVTOLで、短距離・多頻度運航を想定したエアタクシー市場の有力候補。UAEのドバイ道路交通局と6年間の独占契約を締結しており、2026年のドバイ商用サービス開始を目標に4か所のバーティポート(離着陸場)を建設中です。型式証明(TC)の取得については、米連邦航空局(FAA)から2026〜2027年頃の取得が見込まれています。日本では全日空(ANA)と連携し、将来的なエアタクシー事業の展開を検討しています。
| 企業名 | トヨタ自動車、Joby Aviation(ジョビー・アビエーション) |
|---|---|
| 出資額 | 3億9,400万ドル(約430億円)+追加出資 |
| 機体特性 | 最大航続距離約160km、固定翼型eVTOL、短距離多頻度運航向け |
| 商用化の最前線 | ドバイで2026年商用運航開始目標、4か所のバーティポートを建設中 |
| 日本での展開 | ANAと連携し、日本でのエアタクシー事業展開を検討中 |
ポルシェとボーイングの共同開発——「2025年実用化」目標は未達、開発は継続
ポルシェとボーイングは、垂直離着陸が可能な空飛ぶEV車を共同開発するプロジェクトを発表しました。ポルシェコンサルティングが2018年に行ったリサーチでは「2025年以降の実用化」が見込まれるとされていましたが、この目標時期はすでに過ぎており、現時点では商用機の実現には至っていません。ただし、両社の航空宇宙・自動車分野の知見を掛け合わせた開発自体は継続されています。
| 企業名 | ポルシェ、ボーイング |
|---|---|
| 開発対象 | 垂直離着陸可能な空飛ぶEV車のプロトタイプ |
| 当初の実用化目標 | 2025年以降(ポルシェコンサルティング調査、2018年) |
| 現状 | 商用機の実現には至らず。開発は継続中 |
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