トヨタ スポーツ800(ヨタハチ)

トヨタ スポーツ800はヨタハチの愛称がある名車!軽さを追求したスポーツカーの原点

トヨタ スポーツ800はトヨタが初めて販売したライトウェイトスポーツカーでヨタハチの愛称で知られている。自動車博物館にレプリカが展示されるほど60年代を代表する名車で、復活を望む声も多い人気の車ヨタハチ。当時のエンジンなどのスペックや販売価格、現在の中古車価格を紹介。

トヨタ スポーツ800はヨタハチの愛称がある名車!軽さを追求したスポーツカーの原点

トヨタ スポーツ800は「ヨタハチ」の愛称も有名な1960年代の名スポーツカー!

トヨタ スポーツ800は、「ヨタハチ」の愛称で親しまれる小型スポーツカーの名車であり、トヨタ初のスポーツカーです。1960年代の日本のライトウェイトスポーツカー聡明期に誕生したヨタハチは、丸みを帯びた愛嬌のあるルックスとは裏腹に、国内レースでも数多くの輝かしい戦績を上げました。

ヨタハチの搭載エンジンは当時としても決して高性能なものではなく、ベースとなったのは大衆車パブリカです。しかし、徹底して軽量化し空気抵抗を減らした結果、最高速度155km/hを実現。まさに発想の転換の勝利といえるスポーツカーなのです。

今なおファンが多く、語り継がれることの多いスポーツ800(ヨタハチ)のスペックや特徴、レースでの結果、現在の中古車価格などを解説します!

スポーツ800(ヨタハチ)のスペックは?特筆すべきはエンジンではなく軽さ!

ヨタハチ(スポーツ800)UP15型 1965年式のフロントビューパブリカベースのヨタハチは4年間で3131台が生産された

スポーツ800(以下ヨタハチ)が販売されたのは1965(昭和40)~1969(昭和44)年とわずか4年間。後継は存在せず、製造台数は3131台。車体型式はUP15型のみです。

ヨタハチのベースとなったのは、1961年に市販化された大衆車パブリカで、関東自動車工業が開発を進めていました。当初は「パブリカ・スポーツ」の名前で販売予定だったとされています。

トヨタ スポーツ800 UP15型諸元表
車両型式 UP15型
全長 3,580mm
全幅 1,465mm
全高 1,175mm
ホイールベース 2,000mm
車両重量 580kg
エンジン型式 U
エンジン種類 空冷2気筒水平対向式ツイン・キャブ
総排気量 790cc
最高出力 45PS

ヨタハチはライトウェイトスポーツカーの中でも総重量がとても軽い車で、現代販売されている軽自動車よりも軽量です。同時期のライトウェイトスポーツカーであるホンダS600の重量が695kg、日野コンテッサ900は750kgですので、500キロ台後半というのは特筆すべき数字といえるでしょう。
これほどの軽さを実現したからこそ、たった45馬力でもスポーツカーとしての走行が可能だったのです。

スポーツ800の特徴は?ヨタハチはここがすごい!

パワーはないが、小型で操縦性が高い。燃費がよく、タイや摩擦が少ないため、結果として経済的。スポーツ800はそんな評価をされる車です。特徴を詳しく見ていきましょう。

エンジン性能は並みだが空気抵抗の少なさでカバー!空気力学的設計を自動車にも適応

ヨタハチ(スポーツ800)UP15型 1965年式の左サイドビュー空気抵抗を徹底的に低減したボディライン

スポーツ800はパブリカと同じ水平対向2気筒のエンジンを搭載。ツインキャブにチューニングすることで45馬力を実現していますが、これも決してパワーのあるといえる数字ではありません。しかし、それでも最高速度155km/hを実現できたのは、やはりモノコック構造で重量が軽いからでしょう。

スポーツ800の開発主査は後に初代カローラ主査にもなる長谷川龍雄氏で、トヨタ入社前は戦闘機の設計をしていた人物です。実は長谷川氏に限らずトヨタなどの自動車会社は、航空エンジニアとして活躍していた人材の戦後の主な転職先でした。

こうした航空エンジニアたちの空気力学的な知識やスキルを注ぎ込み、空気抵抗を最大限に軽減したのがヨタハチのすごさの秘訣といえるでしょう。

内装もとにかく軽量化!独特の着脱式トップはポルシェ911に先駆けて採用

ヨタハチ(スポーツ800)UP15型 1965年式のリアビュータルガトップの先駆けともいうべき着脱式ルーフトップ

とにかく軽量化にこだわり、空気力学的発想を用いて作られたスポーツ800。試作車の段階では、飛行機などの乗降に用いられるスライド式のドア(キャノピー)を使っていたところからも、そうした背景が伺えます。

さすがに市販化の際にはキャノピーは廃止されましたが、内装は内張もなく、ごくシンプルでベンチレーター(空気抜き)を完備。ルーフパネルはビス6本で外れるのですが、リヤクォータ・パネルが残り、ボディ剛性を確保しています。

後にポルシェ・911が「タルガトップ」という名前で世界的に有名になりますが、それ以前からトヨタはこの仕組みを採用していたのです。

元祖エコカー!500キロ耐久レースで1度もピットインしない燃費のよさ

軽量かつ空気抵抗の少ないスポーツ800は大変燃費の良いクルマです。当時のカタログでは1リットル31キロと記載されており、現代の測定方法で再計算しても23~25キロという数値です。
所有しているオーナーに話を聞いても「1リットル10キロ後半程度は走っている」と言いますから、まさに元祖エコカーです。

1966年の鈴鹿サーキットでの500キロ耐久レースでは1度もピットインせず、1着でゴールイン。あまりに常識外れの展開に不正を疑われるも、3割近い燃料を残していたという逸話があります。ピットイン回数が少ないため、ヨタハチはとにかく長距離レースに強かったことが知られています。

スポーツ800のライバルといえばホンダS600!ヨタハチVSエスロク・エスハチの関係

トヨタ スポーツ800を語るうえでは、ホンダS500、S600,S800など60年代のSシリーズの存在は欠かすことができません。そもそも「ヨタハチ」という愛称は、ホンダS600の愛称「エスロク」と対になるものとして浸透したと言われています(ヨタはトヨタの「ト」を抜いた)。

ヨタハチとエスロク(S600)はまさに正反対の走りをするスポーツカー

ホンダS600(愛称はエスロク)が超高速回転の直列4気筒のDOHCエンジンによりパワーのある走りが可能なのに対し、ヨタハチは2気筒エンジンでポロポロ、バタバタバタ~とスポーツカーには似つかわしくない音を立てて走り、中にはヨタハチの「ヨタ」はヨタヨタヨタ走るからなんて揶揄もありました。

外見も本田宗一郎氏が特に気に入っていたとされるほど美しいボディラインのS600に対し、スポーツ800は全体的にコロコロと丸く可愛いデザインです。

ハイスペックなエスロクでしたが、弱点は車両の重さでした。一方で、ヨタハチはエンジンの性能は並ですが、とにかく軽量で空気抵抗が少ないのです。
それぞれ違う持ち味を持っていたライトウェイトスポーツだからこそ、好敵手となりえたのでしょう。

エスロク・エスハチ以外の同時代のライバル車もそうそうたる顔ぶれ

他にスポーツ800のライバルだった同時代のライトウェイトスポーツカーには、ダイハツ・コンパーノ・スパイダーや日野・コンテッサ、アバルト・ビアルベーロなどの名前が挙がります。旧車ファンにはたまらない、60年代の名車たちです。

ヨタハチ伝説的レースは1965年の船橋サーキット!浮谷東次郎レーサーとともに時代のトップへ!

トヨタ スポーツ800(UP15型)浮谷東次郎レース車の斜め横から見た画像トヨタ スポーツ800(UP15型)1965年式 浮谷東次郎レース車レプリカ

トヨタ スポーツ800(UP15型)浮谷東次郎レース車の左サイドビュートヨタ スポーツ800(UP15型)1965年式 浮谷東次郎レース車レプリカ

トヨタ スポーツ800(UP15型)1965年式に装着したRSワタナベの8本スポークマグネシウムホイール足元はもちろんRSワタナベの8本スポーク

スポーツ800の名レースとして知られているのは、1965年7月に船橋サーキットで開催された全日本自動車クラブ選手権レースGT-1クラスです。

トヨタ スポーツ800のドライバーは浮谷東次郎、ホンダS600のドライバーは親友でありライバルの生沢徹でした。5周目のコーナーで2台は接触し、浮谷氏のスポーツ800はピットインを強いられます。致命的な出来事でしたが、なんとその後に猛然とした追い上げを見せ、ついには逆転優勝してしまったのです。

このレースをきっかけにスポーツ800の人気、浮谷東次郎レーサーへの期待は高まります。しかし、浮谷氏はその翌月に練習走行中の事故で急逝してしまうというなんとも悲しい結末を辿るのです。

スポーツ800(ヨタハチ)の販売期間はわずか4年で約3000台の製造!当時の価格は?

トヨタ スポーツ800トヨタ スポーツ800はちょっと高いけど無理をすると買える存在?

トヨタ スポーツ800トヨタ スポーツ800のようなスポーツカーはあこがれの存在だった

スポーツ800は販売期間4年で、3131台が製造されたと記録されています。一般人にはどのような存在のスポーツカーだったのでしょうか?

当時の販売価格は59.5万円、現在の価値で約400~500万円

スポーツ800の1965年当時の販売価格は59.5万円。大卒初任給2万6000円前後の時代ですから、現在の価値に換算すると500万円前後にあたります。ホンダS600は56.3万円なので、やはりお互いにライバルとして意識していたのでしょう。

スポーツ800のベース車である大衆車パブリカが36万円ですので、ヨタハチはパブリカのおおよそ1.7倍ぐらいの価格設定といえます。

ヨタハチは庶民でも「がんばれば買えるかもしれない」憧れの車

1967年にヤマハ発動機と共同開発された本格スポーツカー トヨタ2000GTは、当時238万円。現在の価格に換算すると2000万円を超え、当時の最高級車であるクラウンが2台買える金額です。

ヨタハチも誰でも買える価格ではありませんが、スポーツカーに憧れる勤労者が頑張ればなんとか買えるスポーツカーだったと理解できます。

スポーツ800(ヨタハチ)の中古価格は400~500万円ほど!

旧車の価格はコンディションに大きく左右されるものですが、スポーツ800(ヨタハチ)は名車として人気が高いクルマの1つです。中古市場では400万以上の値が付くことも珍しくありません。セカンドカーとして購入している人もいます。

旧車を走らせるとなると燃費の問題がありますが、ヨタハチはスポーツカーとしては例外的に燃費が良いクルマです。構造はいたってシンプルですので、部品さえ揃うなら、現代でも走らせやすい部類のクラシックカーとも言われています。

注意してほしいのは、「レストア済み」として販売されているにもかかわらず、単に塗装を塗り替えて外見だけを磨いている車両です。中には安全に走行できないようなものを平気で売っている業者も存在します。60年代の車両をレストアしようと思ったら、本来はかなり費用がかかるはずです。
どこをどうレストアしたのかよく聞き、信頼できる業者か口コミを調べたり、実車の確認は念入りにしましょう。

ヨタハチの復活はある?販売終了後にスポーツ800が登場した場面

1969年に製造が中止されるスポーツ800ですが、その後も何度かオフィシャルな場に登場しています。元祖エコカーらしく、ハイブリッドや電気自動車としての改造・改良される場面が多いです。

ハイブリッド型「トヨタ スポーツ800・ガスタービンハイブリッド」を東京モーターショーに出展

ヨタハチが販売されたのは1965年ですが、実はトヨタは1964年の時点では既にハイブリッド技術に着目し、研究を進めていました。1977年の東京モーターショーには試作車「トヨタ スポーツ800・ガスタービンハイブリッド」を出展しています。

ガスタービンエンジンとモーターを組み合わせた意欲的な試作車ですが、その後に開発は中断されます。しかし、こうした時代の先をいく研究が後のトヨタに繋がっていくことが伺えます。

電気自動車「トヨタ スポーツEV」を東京オートサロンに出展

スポーツ800をレストアした電気自動車がトヨタスポーツEVです。トヨタ東京自動車大学校の学生の作品であり、2010年と2011年の東京オートサロンで出品されました。

ヨタハチのDNA!「新型スポーツ800」らしきS-FRが登場するも開発は中止!?

S-FRのエクステリア発売が期待されていたライトウェイトスポーツの「S-FR」だが現在は開発中止となり市販化は見送られたという噂も

2015年の東京モーターショーでトヨタはコンパクトスポーツカー「S-FR」を出展しました。TOYOTAオフィシャルホームページでも、「TOYOTAライトウェイトスポーツの系譜を継承」と紹介しており、そうなると思い浮かぶのがトヨタのライトウェイトスポーツの元祖であるヨタハチという訳です。
確かにシルエットを見ても、丸みを帯びた可愛いフォルムに類似性があります。

しかし、2018年現在もS-FRに関する販売情報がなく、一部では開発中止がささやかれています。トヨタのホームページには情報が載っていますので、真偽は不明です。

スポーツカー冬の時代といわれますが、トヨタは2012年にヨタハチ以来の水平対向エンジン搭載の「86」を販売し、2019年には「新型スープラ」を販売することが決定しています。大中サイズのスポーツカーを揃えるわけですから、ヨタハチのDNAを継ぐ小さいスポーツカーを誕生させてほしいものです!

トヨタ スポーツ800(ヨタハチ)にはみんなに愛される個性があった!

トヨタ スポーツ800

60年代の名車と名高いトヨタ スポーツ800。単にトヨタの「ト」を読まず、数字の「ハチ」を発音しているだけなのですが、「ヨタハチ」という愛称にはどこか間の抜けたような、ユニークな響きがあり、それがキュートな外見と独特の個性にとてもマッチしています。

当時の庶民にはなかなか手が出ない価格ではありましたが、ヨタハチは「かっこいい憧れのスポーツカー」という枠にはまっているだけではありません。
小さいけれど、エンジンは非力なんだけど、走っていてすごく楽しいクルマ。ホンダのSシリーズとはライバル関係ですが、なぜか憎めず、悪く言う気にもなれない。それがヨタハチです。

現代の車に慣れている我々にとっては「これがスポーツカー?」で加速面では物足りない面もありますが、運転の楽しさはそのまま。オーナーに大事にされて街を走るヨタハチを見るだけで、こちらまで嬉しい気分になります!