軽自動車が「日本だけで人気の車」といわれる理由は?海外に軽は存在しない?
日本国内での軽自動車の人気は非常に高く、現在では国内の新車登録のうち約4割が軽自動車(事業用車両含む)というデータもあります。
新車でも200万円以下で買える車種が多く、維持費が安く、小回りがきくため運転しやすい軽自動車。
しかし、軽自動車は日本の自動車メーカーが多数進出している北米や欧州、中国などの海外ではほとんど販売されていません。
日本の軽自動車が海外で普及しなかった原因
日本で人気の日産が販売する軽自動車
北米、欧州、中国などで数多くの日本車が販売されるようになって久しく、世界の自動車メーカー販売台数ランキングTOP10には、トヨタとホンダ、そして「ルノー・日産・三菱アライアンス」が名を連ねています。
それにもかかわらず、なぜ軽自動車は海外で普及しなかったのでしょうか。
軽自動車規格は日本独自のものであり、海外では「小さい車」の1つでしかない
日本の「軽自動車」規格は以下のようになっており、この条件を満たすものが軽自動車として認められます。
軽自動車の規格
- 定員4名
- 全長3,400mm(3.40m)以下
- 全幅1,480mm(1.48m)以下
- 全高2,000mm(2.00m)以下
- 貨物積載量350kg以下
軽自動車規格は時代によって変わり、日本独自の基準に過ぎません。
軽自動車だから特別なエンジンや装備を積んでいたり、システムを採用しているということはなく、あくまで普通車より車格やエンジン排気量が小さいだけです。
海外では軽自動車は存在しませんが、軽自動車並みに小さい車、欧州基準でいうAセグメントに属する小型車は存在しています。日本人が「なぜ海外には軽自動車は存在しないの?」と疑問に思うように、海外の人から見るとそもそも「なぜ日本はコンパクトカーをわざわざ『軽自動車』と分けるの?」と言われてもおかしくないのです。
税制の優遇措置がないため、「軽自動車」であることの恩恵は日本でしか受けられない
日本の軽自動車は、自動車税や保険料が安いなど、独自の優遇措置がとられています。これも日本の法制度や税制によるものであって、もしこの優遇措置がなければ、日本人も普通車のコンパクトカーに乗り換えるという人も多いでしょう。
近年の軽自動車のデザインや居住性の高さは素晴らしいものがありますが、優遇制度がないのなら魅力が半減してしまうのは事実。
現段階では優遇措置を受けられない国の人にとって、軽自動車は単に「小さい車」に過ぎません。
軽自動車のなかには海外の衝突安全基準をクリアできず、公道走行が認められない車もある
軽自動車が海外で普及できない理由に、安全性の問題が挙げられます。
1988年以降、日本では普通車と同じ安全衝突基準テストをクリアした軽自動車のみが販売されていますが、安全性の基準は国によって異なるのです。
特にアメリカの衝突安全基準は厳しく、軽自動車の公道走行が認められない州も存在します。アメリカは、長距離移動が多く、高速走行する人も多いので、基準が厳しいのは致し方ないでしょう。公道走行ができないアメリカでも軽トラなどは農業用の車として人気があります。
「軽自動車は二酸化炭素(CO2)排出量が少ない」と言い切れず、欧州の税制で不利
日本の乗用車はエンジンの総排気量によって税金が決められます。
一方で、2000年以降、欧州の国では二酸化炭素(CO2)排出量による税率を採用しています。いわば環境負荷税です。
日本の軽自動車は総排気量660ccと定められていますが、二酸化炭素(CO2)排出量が必ずしも少ないかと言ったら話は別。昨今のハイブリッド車やEV車に比べると、軽自動車は環境性能が高くないモデルも存在します。
道路規格や車文化を考えると、北米よりは欧州の都市部の方が軽自動車は受け入れてもらいやすいはずです。
しかし、既に欧州では環境負荷による税率を採用している以上、小排気量のみをPRして軽自動車が存在感を発揮するのは難しいでしょう。
軽自動車はガラパゴスな車?軽自動車がグローバルカーになる日は来るのか?
ガラパゴスとは、互換性がなく、国内のみでしか発展が見込めない産業を指すビジネス用語です。軽自動車も優遇措置のある日本独自の「ガラパゴスな車」と言われますが、海外輸出の道はあるのでしょうか。
軽自動車の輸出例はあるが、排気量は660cc以上にするのが一般的
「ガラパゴス」といわれる軽自動車ですが、普通車ほどではないものの、輸出は行われています。ただ、海外に輸出する車は日本の軽自動車規格を守る必要はありません。
日本の軽自動車はエンジン排気量660cc以下と定められているのに対し、居住空間や荷室を広くとっているため車格は規格いっぱいです。そのため、輸出先でエンジンが非力という批判を浴びないように、排気量を800~1300cc程度に増量するケースが多いです。
決められた規格のなかで創意工夫するのが日本人は得意だといわれますが、見方によっては660cc以下のエンジン排気量というのは、日本の軽自動車規格をクリアさせるためのものに過ぎず、車の性能を十分に発揮させている訳ではないとも考えられます。
アジアなどの新興国で軽自動車が存在感を発揮していく可能性は十分にある
日本の軽自動車を海外で売りたいなら、1番の狙い目は車の保有台数が少なく、これから市場の急成長が見込める新興国です。
反対に、既に自動車文化が成熟している市場、道路規格的に軽自動車を採用するメリットがない北米、環境負荷による税率を用いてEV化が進む欧州、そして「高級車=大きい車」といった文化のある中国などでは軽自動車の魅力を伝えていくのは難しいはずです。
余談ですが、「高級車=大きい」という考え方は、中国に限りません。日本でもバブル期以降、何度か「小さな高級車」路線で5ナンバーの市販車が販売されていますが、セールス的に成功した車は見当たりません。
スズキは急成長するインド市場を見込み、新車シェアの50%以上を獲得
800ccエンジンを搭載した「アルト800」はインドやフィリピンで販売されている海外専用車。
軽自動車のグローバル化に向け、スズキは中国の次に急成長するとみられるインドに生産工場を設立し、2018年の新車販売台数では50%以上のシェアを獲得しています。
スズキの軽としてお馴染みの「アルト」や「ワゴンR」などの名前もありますが、エンジンは800cc~1000cc、ボディサイズも拡大されています。
軽自動車をそのまま現地で生産しているのではなく、軽自動車作りで培った技術を新興国向けコンパクトカーとして活かしているといった方が正確でしょう。
ダイハツは「日本に似ている」と言われるインドネシアとマレーシアを主戦場と定めている
ダイハツがインドネシアで生産するエコカー「アイラ」はミライースの技術が活きている。
一方ダイハツは、インドネシアやマレーシア専用車を開発・販売中です。インドネシアやマレーシアは国土面積も限られており、日本と似た交通インフラのため、軽自動車を受け入れてもらいやすいのでは?とよく言われている市場です。
日本の軽自動車は完成度が高すぎ?軽自動車が日本で発達した背景
海外にも日本の「軽自動車」にあたるような安価な超小型車は1910年頃から存在しています。暮らしが豊かになるにつれて存在感が薄くなっていきましたが、日本は独自の車文化として現在まで発展を続けています。
日本の軽自動車はなぜこんなにも発展したのか、単に税制上の優遇措置や道路事情にマッチしたからといっただけではなく、自動車メーカーの企業努力なしに語ることはできません。
日本の軽自動車にあたる安価な超小型車は戦後の敗戦国を中心に普及した
日本の軽自動車のような超小型車は、二輪車や中古部品を寄せ集めて作れる車両として戦後の敗戦国であるドイツやイタリア、不況の煽りを受けたイギリスやフランスを中心に普及しました。
しかし、日本はオートバイなどの人気が高く、1949年に「軽自動車規格」が誕生するも、自動車の普及はあまり進みませんでした。
1955年の『国民車構想』により日本の軽自動車開発は加速していく
1955年、経済産業省の「国民車構想」が話題となり、国が大衆車の生産を推奨する姿勢が明確になりました。
同年にかねてより開発を進めていた軽自動車規格にマッチする「スズキ・スズライト」が発売しました。しかし、4人乗りではあるものの、後部座席が狭く、この時点ではセールス的にはいまひとつでした。
1958年の「スバル360」の登場により軽自動車の人気が爆発
庶民に軽自動車を普及したスバル360 ボディサイズ2996×1300×1360mmで大人4人乗り
日本において軽自動車存在を広く庶民に知らしめたのは、1958年に販売された「スバル360」です。当時の軽自動車規格は、エンジン排気量360cc以下が条件でしたので、360の名前がつきました。
ドイツの大衆車フォルクスワーゲン・タイプ1が「ビートル(かぶと虫)」と呼ばれるのに対し、「てんとう虫」の愛称でも親しまれています。
スバル360は政府の国民車構想に合致するというだけではありません。スバルは当初から「普通自動車並みの性能にこだわった軽自動車」として高い技術力を注ぎ込みこの車を開発しています。それゆえに大衆の心をぐっと掴むことができたのです。
1960年代にはホンダN360など革新的な軽自動車が数多く登場した
車内を広くするためにFF式を採用したホンダの大ヒット軽自動車N360
スバル360の成功により、マツダやダイハツなどのメーカーも四輪車の開発に本腰を入れ始めます。
1962年には「マツダ・キャロル360」「スズキ・スズライトフロンテ360」「三菱・ミニカ」などが立て続けにデビューします。安定した供給を見込める商業用の軽ワンボックスや軽トラもどんどん普及していきました。
そしてホンダが1967年に当時としては画期的なFF式の軽自動車「N360」を販売して、スバル360から王座を奪います。当時のスバルや競合車種が20馬力だったのに対し、ホンダN360で31馬力を実現しています。
妥協のない車作りが日本の軽自動車文化を発展させた
スバルも、ホンダも、他のメーカーも、日本では「軽自動車だから」といった妥協はなく、当時の最先端を目指して開発しているのが最大の特長です。
1966年にはトヨタの初代カローラが誕生するなど普通車も普及してきますが、日本の軽自動車の完成度は当時から非常に高く、高性能ゆえに乗用車としての地位を確立していったのです。
「軽自動車」というカテゴリをどう捉えるべきか?軽自動車規格は変わる可能性あり!
軽自動車規格はもともと時代によって変化してきたものなので、近いうちにエンジンの排気量については変更される可能性もあるでしょう。EV化が進むことも十分考えられます。
近年の軽自動車は660cc以下エンジンだと大型化したボディに比べて非力でバランスが悪いという指摘も聞かれます。海外へ輸出する際にはエンジン排気量をアップさせるのが一般的ですが、日本仕様車と輸出仕様で違うエンジンを搭載するのはコストがかかり、生産効率が悪いのです。
日本の軽自動車も「クルマ文化」の1つ!海外に誇れる名車も存在!
「軽自動車規格」という制限があったからこそ、日本の軽自動車はこれだけ発展したといわれます。
衝突安全基準をクリアできないため公道走行ができないアメリカや欧州でも、軽自動車は趣味性の高い車として人気です。AZ-1、ビート、カプチーノの平成ABCトリオやアルトワークスなどの軽スポーツカー好きのカーマニアは少なくありません。
「ガラパゴス」といわれますが、日本の軽自動車が独自の自動車文化を築き、名車を産みだしてきたのは揺るぎない事実でしょう。