オーバーハングは車の見た目や運転性能にも影響を及ぼします!
「新型モデルはフロントオーバーハングが短くなった」「リヤオーバーハングが長いのが特徴的」など、オーバーハングは車のプロポーションを表現する重要な言葉です。オーバーハングの長さとホイールベースの長さには密接な関連性があり、車のデザインや運動性能を決定します。
オーバーハングの長い・短いという違いは、車の印象に影響を与えるだけでなく、最小回転半径などの運転性能にも影響を及ぼします。また、スバルの車のフロントオーバーハングが長い傾向にある理由についても解説します。
オーバーハングとは前輪・後輪の軸からフロント及びリヤの先端部までの領域のこと
オーバーハングは車のサイドビューから確認するのが一番わかりやすいです。前輪・後輪の軸(車軸)からフロントおよびリヤの先端部までの領域を指しています。
フロント先端~前輪の軸までは「フロントオーバーハング」と呼ばれ、後輪の軸~リヤ先端までは「リヤオーバーハング」と呼ばれます。前輪の軸~後輪の軸の距離であるホイールベースとは密接な関係にあり、車体の全長が一定の場合、オーバーハングをロングサイズにすればホイールベースは短くなり、オーバーハングをショートサイズにすればホイールベースは長くなる傾向があります。
オーバーハングとホイールベースのサイズの比率は、車の印象に与える影響が大きいです。オーバーハングの比率が高まれば、車体からは安心感と高級感が醸し出され、オーバーハングの比率が低まれば、アクティブでスポーティな印象度が高まります。デザイン上の違いが車の個性を作り出す要素です。
最近の車のトレンドは「ショートオーバーハング・ロングホイールベース」
オーバーハングの長い・短いという違いは、運動性能に影響を与えるだけでなく、衝突時の衝撃吸収力にも関わってきます。以前は衝突時に備えて、ある程度のサイズをオーバーハングに持たせて、衝突で発生するエネルギーをオーバーハングのエリアが吸収する構造でした。
衝突時の力を効率的に分散させて、室内にダメージが伝わりにくい「クラッシャブルゾーン」を導入したことにより、オーバーハングをロングサイズにする必要性が弱まっていきました。現代の車は安全技術の進化によって、短い領域でも高い衝撃吸収性能を確保しています。
そのため、オーバーハングをショートサイズにして、室内スペースを拡充した「ショートオーバーハング・ロングホイールベース」をデザインのコンセプトに据えた車が、軽自動車でも増えています。このデザインは、居住性と運転性能の両立を目指した結果です。ショートオーバーハングには、メリットだけでなくデメリットもあります。
ショートオーバーハングのメリットは小回りが利き車両が扱いやすくなる
ショートオーバーハングにすることで、小回りが利くため、狭い場所に駐車するときなど運転で扱いやすく感じます。また、ホイールベースが長くなるため、車内の居住性が良くなるメリットもあります。世界的に流行しているショートオーバーハングには、運転性能を高める効果があるのです。
車体が左右にブレ難くなるためコーナリングが安定
バスやトラックといった大型車をイメージして頂くと解りやすいですが、ホイールベースと比べればオーバーハングのサイズは圧倒的に短いです。その理由には、オーバーハングのサイズを長くするに比例して、車体の端の重量も増してしまうことがかかわっています。
フロントオーバーハング及びリヤオーバーハングの重量が増すことで、コーナリングを行う際には慣性の働きにより、その重量の分だけ車体が左右にブレやすくなります。これを「ヨー慣性モーメント」と呼びます。オーバーハングを短くすることで重量は抑えられ、コーナリングの際には車体が左右にブレにくくなり安定します。そのため、運転性能が重視される車ではオーバーハングを短く設計します。
ショートオーバーハングはフロントとリヤが短いため小回りが利く
オーバーハングが短い車の方が小回りが利きます。ステアリングを切った時の車の向きの変えやすさを表す回頭性には、オーバーハングの長い・短いが影響を与えます。
フロントやリヤの先端部とタイヤの軸との間の距離であるオーバーハングは、短いほどタイヤの軸を中心として方向転換する際の半径は狭められるので、小回りが利きやすくなります。特に都市部での運転や駐車のしやすさにおいて、ショートオーバーハングは大きなメリットがあります。
トランクルームのスペースが狭くなるのがショートオーバーハング最大のデメリット
「ショートオーバーハング・ロングホイールベース」をコンセプトに掲げて車の開発が行われると、室内スペースは充実しますが、リヤオーバーハングのサイズダウンが行われることで、トランクルームは影響を受けて狭められてしまいます。これがショートオーバーハングの持つデメリットの一つです。
トランクルームと室内スペースが独立して設けられているセダンタイプの車では、リヤオーバーハングがトランクルームのスペースの確保に直結します。そのため、デザインと積載性のバランスを取ることが重要です。特に大きな荷物を頻繁に積む方は、リヤオーバーハングの長さに注目すると良いでしょう。
スバル車は水平対向エンジンを搭載しているのでフロントオーバーハングが長い
スバル車は、他社と比較すると、フロントオーバーハングが長い傾向にあります。その理由は、スバル車が水平対向エンジン(ボクサーエンジン)を搭載しているからです。水平対向エンジンは、シリンダーを水平に配置するため、左右に幅のあるエンジンを横置きするのが特徴的です。
水平対向エンジンをフロント部に搭載すると、垂直エンジンを導入する一般的な車と比較して、エンジンの幅を確保するために横にスペースが必要となるため、フロントオーバーハングは必然的に長くなってしまいます。このフロントオーバーハングの長さは、スバル車のデザインの特徴の一つとなっていますが、最近のモデルでは短縮する工夫も見られます。
オーバーハングと車高の関係~ローダウンしたいならオーバーハングに注目!
車のカスタムで人気のローダウンは、最低地上高を確保しなければ保安基準に適合しません。最低地上高は原則9センチとされていますが、オーバーハングの長さも車の下を擦らないための判断基準の一つになります。車体が大きい車やオーバーハングが長い車ほど、段差を乗り越える際の注意が必要です。
理論的には、オーバーハングが短いほど車高が低くてもバンパーを擦りにくく、反対にオーバーハングが長いと段差に引っかかりやすくなります。ローダウンやシャコタンを楽しみたいのなら、愛車のオーバーハングの長さも考えた上で、無理のないドレスアップをするようにしましょう。短いオーバーハングは、カスタムの自由度を高めます。
オーバーハングに詳しくなれば、車の知識は広がっていく
車の主要諸元表には、ボディサイズとともにホイールベースが記載されていますが、オーバーハングについての記載はありません。ホイールベースに比べればマイナーな存在であるオーバーハングに詳しくなることで、車の知識が大きく広がります。
軽自動車の室内スペースが充実したのは、衝突安全を確保しつつオーバーハングを短くできたからであり、スバル車のフロントオーバーハングが長い傾向にあることは、水平対向エンジンを搭載していることが理由です。オーバーハングをテーマとして捉えることで、車のデザインや構造への理解が深まります。
車の各パーツやエリアは他の部分と関連性があります。オーバーハングのように、諸元表には記載されてはいないマイナーなワードにもスポットライトをあてることで、車の知識はどんどん深まっていきます!