FT-ACはその後どうなったのか 市販化されず思想はRAV4へ受け継がれた
FT-AC(Future Toyota Adventure Concept)は、2017年11月30日にロサンゼルスオートショーで世界初公開された小型SUVのデザインコンセプトです。あれから8年半が経ちましたが、FT-ACという名前のクルマがそのまま市販されたことは一度もありません。トヨタは当初から「アクティブな休日の過ごし方を提案するデザインコンセプト」と説明しており、市販化を前提としたモデルではなかったためです。
とはいえ、FT-ACが提示した造形と価値観は宙に浮いたわけではありません。張り出したオーバーフェンダー、樹脂のアンダープロテクター、塊感のあるボディといった要素は、翌2018年に発表され2019年に日本へ復活した5代目RAV4、とりわけAdventureグレードに色濃く重なります。そして2025年に登場した6代目RAV4にも「Adventure」の名は残りました。ここではFT-AC公開から現在までの流れを整理したうえで、当時のコンセプトカーの中身をあらためて振り返ります。
6代目RAV4が2025年12月17日に日本発売 ガソリン車を廃止しHEVとPHEVへ一本化
FT-ACと造形上のつながりが指摘されてきたRAV4は、2025年5月21日に6代目が世界初公開され、日本ではハイブリッド(HEV)が2025年12月17日に発売されました。価格は450万円から490万円です。
続くプラグインハイブリッド(PHEV)は2026年2月19日に発表され、2026年3月9日に発売。価格は600万円から630万円で、トヨタ初となる第6世代プラグインハイブリッドシステムを採用し、システム最高出力329ps、EV航続距離は約150kmに達しました。6kWの普通充電に加えて50kWの急速充電に対応し、最大1500Wの外部給電も可能です。
6代目で最大の変化はガソリンエンジン車の廃止で、パワートレインはHEVとPHEVのみになりました。グレード構成はZ(PHEV/HEV)、Adventure(HEV)、そして新設のGR SPORT(PHEV)で、開発コンセプトには「Life is an adventure」が掲げられています。
注目したいのは、FT-ACが打ち出したアウトドア路線が「Adventure」というグレード名として6代目にも生き残った点です。コンセプトカーそのものは市販されなくとも、そこで提示された価値観が量産車のグレード体系に定着した好例といえます。給電性能を前面に押し出したPHEVの設計思想も、車載Wi-Fiやカメラでアウトドアの体験を拡張しようとしたFT-ACの発想と地続きに見えます。
FT-AC自体は市販化されず 思想は5代目RAV4のAdventureグレードへ引き継がれた

あらためて整理すると、FT-ACはトヨタから市販化の発表が一度もないまま今日に至っています。取り外し可能な3連フォグランプ、カメラを内蔵したサイドミラー、LED付きの囲い型ルーフラックといった特徴的な装備も、そのままの形で量産車に採用された例はありません。
一方で、FT-ACが示したタフなアウトドア路線は、日本へ復活した5代目RAV4に具体化していきました。5代目は2019年4月10日に日本発売され、2020年6月8日にRAV4 PHVを追加。2020年10月2日には特別仕様車Adventure“OFFROAD Package”を設定し、2021年12月1日の一部改良でHYBRID Adventureを追加、2022年10月4日にはAdventure“OFFROAD package II”を投入しました。2024年12月16日の一部改良では全グレードが4WD化(FF廃止)され、悪路走破性を軸にした性格づけがいっそう鮮明になっています。
同時期のコンセプト、FT-4XとTJクルーザーはどうなったのか
FT-ACと同じ2017年に披露されたFT-4X(ニューヨークオートショー2017)とTJクルーザー(東京モーターショー2017)も、車名そのままの形では市販化されていません。とくにTJクルーザーは、その後まったく音沙汰がないまま今日に至っています。
ただしFT-4Xについては、少し事情が異なります。全長4,249×全幅1,821×全高1,623mmという寸法で「Rugged Charm(頑丈で魅力的)」をテーマに掲げた四角い小型オフローダーは、公開当時から「車名の4XはFJ40を指すのでは」「FJクルーザーの後継では」と話題を呼びました。そして2026年5月14日、トヨタはラダーフレーム構造の小型オフローダー、ランドクルーザー“FJ”を発売しています。FT-4Xが投げかけた「小さくて四角い、本格志向のタフなSUV」というテーマが、9年を経て量産車として成立したと見ることは十分に可能でしょう。
もっとも、両者を一直線で結ぶのは正確ではありません。ランドクルーザー“FJ”のデザインの下敷きとして語られるのは、2021年に公開されたコンセプトカー「コンパクトクルーザーEV」であり、トヨタがFT-4Xを起点として説明したことはないためです。構造面でも、FT-4Xがヤリス系をうかがわせるモノコックの背の低いコンパクトSUV(全高1,623mm)だったのに対し、ランドクルーザー“FJ”はIMVのラダーフレームを土台とする本格オフローダーで、成り立ちがまったく違います。「FT-4XがランクルFJになった」のではなく、「FT-4Xが示した価値観が、コンパクトクルーザーEVを経てランクルFJに結実した」と捉えるのが、当編集部としての見立てです。
いずれにせよ、トヨタのこの時期のSUVコンセプトは、そのまま製品化する前提のものではなく、デザインと価値観の方向性を市場に問うための存在でした。FT-ACをその文脈に置き直すと、市販化されなかったことは失敗ではなく、役割を果たしたと評価すべきでしょう。
小型SUVコンセプト「FT-AC」がかっこいい!次世代オフローダー
FT-ACは2017年11月30日にワールドプレミアされた小型SUVコンセプトです(ロサンゼルスオートショーのプレスデーは11月29日~30日、一般公開日は12月1日~10日)。力強く大胆なフロントフェイスと大きく張り出したオーバーフェンダーが魅力で、公開前から注目を集めました。
公開当時は、2019年にフルモデルチェンジして日本市場へ復活するRAV4のコンセプトモデルではないか、という見方が広がりました。トヨタが本格的なアウトドアユーザーへ提案したSUVコンセプト「FT-AC」を紹介します。
力強い走破性を予感させる足回りとグリーンのボディが魅力的なFT-ACのエクステリア
2017年のロサンゼルスオートショーで初公開されたFT-ACはグリーンのボディカラーをまとい、要所に発色の良いイエローを配色。独特のエクステリアで強いインパクトを与えました。
フロント周りはトヨタのデザインアイコンであるキーンルックを基本に、フロントタイヤ上部まで大きく伸びたヘッドライトと、中央に堂々と据えられたシルバーのフロントグリルが、小型SUVながら大きな存在感を生んでいます。
タフなイメージを感じる特徴的な3連フォグランプとサイドミラー
FT-ACのフォグランプ
FT-ACのサイドミラー
FT-ACのフォグランプは3連ライトを2つ並べた形状で、左右にそれぞれ配置されています。立体的な計12個のライトはFT-ACの大きな見どころでした。フォグランプは取り外して手持ちのライトとして使える構造とされ、アウトドアでの実用性を意識した提案になっています。
ボディが大きく死角も増えがちなSUVですが、サイドミラーに取り外し可能なカメラを組み込むことで視認性を確保する仕掛けも用意されました。
カメラで撮影した映像は車載Wi-Fiでクラウドへアップロードされ、スマートフォンやタブレットから確認可能。リアルタイムのSNS投稿まで視野に入れた、当時としては先進的な装備です。
なお、こうした着脱式フォグランプやカメラ内蔵ミラーは、その後の量産車にそのままの形で採用されてはいません。
張り出しの強いオーバーフェンダーを装備したオフロード感が強い足回り
ブラックとシルバーの20インチアルミホイールを収めた足回りと、樹脂製の大型オーバーフェンダーはオフローダー感たっぷりで迫力があります。
フロントバンパー、サイドスカート、リヤバンパーにはボディ下部を守るアンダープロテクターを配置。グリーンとグレーのコントラストがFT-ACの世界観にうまく合っていました。
最低地上高を引き上げた設定と前後アンダーガードにより、高い悪路走破性を狙っています。この張り出したフェンダーと樹脂プロテクターの組み合わせこそ、のちのRAV4 Adventureに通じる部分です。
アウトドアに強いルーフラックを装備
ボディ上部には荷物を積めるルーフラックを装備。LEDライト付きで夜間の視認性を確保し、四方を囲う形状のため積載物の落下も防ぎます。
アクティブな休日を過ごすユーザーへの訴求力が高いルーフラックは、市販車になっても大きな武器になりそうな装備でした。実際の市販車では、同種の思想がRAV4のAdventure系やアクセサリーによる架装として展開されています。
パワートレインはガソリンエンジンと次世代ハイブリッドの2種類を想定

FT-ACのパワートレインはガソリンエンジンを想定しつつ、4WDの走破性とハイブリッドの低燃費を両立する次世代ハイブリッドの搭載も視野に入れていました。
駆動系には左右後輪へトルクを配分するトルクベクタリング式4WDを設定し、路面に応じたセッティング切替やデファレンシャルロックにより、4輪のグリップを最適に制御するとされています。
公開当時、この次世代ハイブリッドについては「THS IIを進化させたTHS3になるのでは」と予想していました。結果としてその呼称が使われることはなく、トヨタは世代表記でシステムを刷新していきます。2025年に登場した6代目RAV4では、トヨタ初となる第6世代プラグインハイブリッドシステムが採用され、システム最高出力329ps、EV航続距離約150kmを実現しました。呼び名こそ外れましたが、「走破性と電動化を両立する」という読み筋そのものは的中したといえます。
FT-ACは次期200系ランドクルーザーのコンセプトモデルという噂もあった

2017年のロサンゼルスオートショーで世界初公開されたFT-ACには、次期ランドクルーザーになるのではという噂がささやかれました。
キャンプや川下りといった本格的なアウトドアユーザーをターゲットに、「ランドクルーザーなどトヨタSUVの伝統を踏襲した力強く大胆なデザイン」としてトヨタ自身が説明していたのですから、そうした憶測が広がるのも無理はありません。
しかしFT-ACは街乗りも含めた小型SUVであり、砂漠や豪雪地帯といった過酷な環境を走破するフルサイズクロスカントリーのランドクルーザーとは、大きさもジャンルも異なります。実際にFT-ACがランドクルーザーとして市販されることはありませんでした。この噂は外れた、というのが結論です。
その後ランドクルーザーは2021年に300系へ移行し、2024年にランドクルーザー250、そして2026年5月14日にはシリーズ最小のランドクルーザー“FJ”(450万100円~)が加わりました。小型のFJが登場したことで「FT-ACの答えではないか」と結びつける声もありますが、丸みを帯びたクロスオーバー然としたFT-ACと、直線基調でラダーフレームを持つFJとでは、造形も成り立ちも別物です。ランドクルーザー系の血筋をたどるなら、むしろ同じ2017年に発表された四角い小型オフローダー、FT-4Xのほうがはるかに近いといえます。この点は前段で詳しく触れたとおりです。
FT-ACは新型RAV4のコンセプトモデルと見られていた

2018年3月のニューヨークオートショーでワールドプレミアされた5代目RAV4は、塊感のあるボディ、角を立てたフェンダーの張り出し、下回りを囲む樹脂プロテクターといった点でFT-ACと強く重なり、「FT-ACはRAV4のコンセプトモデルだった」と受け止められました。とくにAdventureグレードの佇まいは、FT-ACの提案をそのまま量産へ落とし込んだように見えます。
ただし、トヨタが公式にFT-ACをRAV4の前身と位置づけたリリースは出していません。あくまで両者はデザインの方向性を共有していた、という理解が正確です。
1994年から2016年まで日本で販売されていたRAV4は、現在のSUVブームの火付け役とされ、海外でも高い評価を得てきました。とくに北米での人気は絶大で、2016年には世界で最も売れたSUVとなっています。
SUVコンセプト「FT-AC」がアウトドア志向を強く打ち出していたとおり、日本へ復活したRAV4も都会派ではなく、アウトドアを主戦場とするキャラクターで投入されました。
当時は「2019年のトヨタはラグジュアリーなハリアー、燃費性能の高いC-HR、本格アウトドア仕様のRAV4というSUVラインナップになる」と見立てていましたが、その後C-HRは2023年7月に国内生産を終えています。現在のトヨタのSUVはヤリスクロス、カローラクロス、ハリアー、RAV4、ランドクルーザー250、ランドクルーザー“FJ”といった顔ぶれで、当時よりもはるかに幅の広い布陣になりました。
FT-ACの市販車と目された新型RAV4は2019年4月10日に日本復活導入
5代目RAV4は予想どおり2019年春に日本市場へ復活し、正式な発売日は2019年4月10日となりました。
2017年のトヨタは、ニューヨークオートショー2017で発表したFT-4X、東京モーターショー2017で発表したTJクルーザーと、立て続けにSUVのコンセプトカーを世に問うています。いずれもその名前のまま市販されることはありませんでしたが、FT-4Xが掲げた四角くタフな小型オフローダーという路線は、2021年のコンパクトクルーザーEVを経て、2026年のランドクルーザー“FJ”へとつながったと見ることができます。
2020年代半ばまでに販売車種を半減させるとしていたトヨタですが、SUVについては予想どおり拡充が続きました。2020年にヤリスクロス、2021年にカローラクロス、2024年にランドクルーザー250、そして2026年にランドクルーザー“FJ”が加わっています。
RAV4自身も2025年12月に6代目へ移行し、ガソリン車を廃してHEVとPHEVの二本立てとなりました。FT-ACが描いた「アウトドアを楽しむための小型SUV」という提案は、コンセプトカーとしては市販化されなかったものの、RAV4というトヨタの主力SUVのなかに確実に受け継がれています。








































