FCバスSORAとは?東京五輪で活躍したトヨタ燃料電池バスの性能と、その後の導入実績
SORAは、第45回東京モーターショー2017で初公開された燃料電池バス(FCバス)です。「Sky(空)」「Ocean(海)」「River(川)」「Air(空気)」の頭文字を取って名付けられ、地球の水の循環を表すネーミングとなっています。
SORAの市販車は2018年3月7日から販売され、東京オリンピック・パラリンピックに向けて東京を中心に路線バスとして導入が進められました。五輪自体は新型コロナウイルスの影響で1年延期され2021年に開催されましたが、SORAは目標としていた100台超の導入を実現し、実際に大会期間中も街を走りました。
二酸化炭素を排出せず環境にやさしい新たなバスの可能性を示すFCバス「SORA」を紹介します。
東京五輪は2021年に開催 SORAは100台目標を達成し全国へ拡大
当初2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックは、新型コロナウイルスの影響で1年延期され、2021年に開催されました。多くの競技が無観客となるなど異例の大会でしたが、トヨタが掲げていた「東京を中心に100台以上のFCバス導入」という目標は達成され、SORAは都営バスを中心に運用されました。
その後も導入は各地へ広がり、確認できる範囲では2023年時点で累計124台前後に達しています。とりわけ東京都交通局(都営バス)の保有が多く、令和6年(2024年)4月時点で75両と、国内のバス事業者としては最大規模を運用しています。導入は東京都を皮切りに、横浜市・名古屋市・大阪市・神戸市・豊田市などの公営バスや、京浜急行バス・京王バス・東急バス・宮城交通・神姫バス・南海バスといった民間へも広がりました。ただし東京都以外は1事業者あたり1〜3台程度の規模にとどまっています。
1台あたりの価格は約1億円と高額で、国が本体価格のおよそ半額を補助し、自治体の補助や民間の支援も受けて導入が進められてきました。もっとも、五輪という大きな契機を過ぎたあとは目立った台数の伸びが見られず、トヨタが描いていた2030年に1200台という目標には遠く及んでいないのが実情です。日本市場向けの量産FCバスは、現時点でもSORAが唯一の存在となっています。
2018年3月に発売されたSORA 2019年8月改良モデルで安全性や定時性がさらに向上
2018年3月7日に販売が始まったSORAは、FCバスとして国内で初めて型式認証を取得したモデルです。2018年中に都営バスへ3台が導入され、民間では京浜急行バスが導入を決めました。
トヨタは2019年8月6日にSORAの改良を発表しました。安全性、輸送力、速達・定時性、バリアフリーなど、路線バスに求められる機能がさらに高められています。
以下、FCバスSORAの新機能・システムを紹介します。
ドライバーの見落としを防ぎ、ドライバー急病時にはボタンによる緊急停止も可能
改良版SORAに搭載された「ITS Connect 路車間通信システム」は、赤信号や右折時の対向直進車・歩行者を見落とすおそれがある場合に、ドライバーへ注意を促します。
また、前方の信号を予測して停止を推奨したり、赤信号停止時の待ち時間を表示したりすることも可能です。さらに「衝突警報」により、危険時にはドライバーへ警報ブザーとモニター画面で警告します。
もう1つの大きな安全対策が「ドライバー異常時対応システム」です。ドライバーに健康上の問題が生じ、運転操作ができない状態に陥った際には、ドライバー本人または乗客が非常ブレーキを押すことで減速して停止します。車外にはハザードランプの点滅などで緊急事態を知らせます。
ITS機能により後続車がスムーズに追従でき、道路状況に応じて赤信号を短縮
改良されたSORAはITS機能により、輸送力や速達・定時性も高めています。
「ITS Connect 車群情報提供サービス」では、車車間通信とミリ波レーダーにより、車群を構成する車両とその順序、車群長の情報をドライバーへ通知し、信号やバス停での分断を防ぎます。
また、先行車が「ITS Connect 通信利用型レーダークルーズコントロール」対応車であれば、その加速情報が後続車へ通知され、スムーズな追従をアシストします。
さらに、公共交通優先システム「ITS Connect 電波型PTPS」は、交通状況に応じてITS専用無線で青信号の延長や赤信号の短縮などを路側装置へ要求し、路線バスに欠かせない定時性に大きく貢献します。
このほか、オプションで「自動正着制御」機能を搭載できます。路面の誘導線をカメラが検知し、自動操舵で車椅子やベビーカーが乗り降りしやすい最適な位置にバスを停止させます。
SORAは従来のバスのイメージを刷新するエクステリア
FCバスSORAの魅力は、近未来を感じさせるエクステリアです。
従来のバスに見られた箱型のスクエアボディから、立体的な造形を追求したデザインへと刷新されました。乗用車のようなLEDライトを前後に採用して視認性を確保し、安全運転にも寄与しています。
どこから見ても一目でSORAとわかる特徴的なデザインは、「受け継がれていく街のアイコン」という開発コンセプトそのままの個性を備えています。
| 車両 | 車名 | SORA(市販モデル) |
|---|---|---|
| 全長 | 10,525mm | |
| 全幅 | 2,490mm | |
| 全高 | 3,340mm | |
| 定員 |
79人 | |
| FCスタック | 名称 | トヨタFCスタック |
| 最高出力 | 114kW×2(155PS×2) | |
| モーター | 種類 | 交流同期電動機 |
| 最高出力 | 113kW×2(154PS×2) | |
| 最大トルク | 335Nm×2(34.2kgm×2) | |
| 高圧水素タンク | 本数(公称使用圧力) | 10本(70MPa) |
| タンク内容積 | 600L | |
| 駆動用バッテリー | 種類 | ニッケル水素 |
| 外部電源供給システム | 最高出力/供給電力量 | 9kW/235kWh |
1回の水素充填での航続距離はおよそ200km、水素の充填はおよそ15分で完了し、最高速度は70km/hです。一般的な路線バスの1日の走行距離を踏まえると、途中で充填せずに1日の運行を終えられる設計となっています。
「利便性」と「安全・安心」にこだわった内装
五輪という国際イベントを見据えて開発されたSORAは、世界に通用するユニバーサルデザインにこだわって内装を作り込んでいます。
世界中から不特定多数の人を乗せるバスならではの想いから、「乗ってよかった。また乗りたい」と思われるバスを目指して制作されています。
ベビーカーや車いすのスペースには横向きの自動格納機構を備え、使わないときは座席として活用できる日本初の技術を採用し、利便性を高めています。
万が一の事故を防ぐ日本初の予防安全技術を採用
FCバスSORAには、日本初の予防安全技術が搭載されています。バス周辺を検知する機能や、バス停への自動停車機能など、最新技術によって万が一の事故を未然に防ぎます。
バス周辺の監視機能を強化し安全性を向上
大きなボディを持つバスでは、ドライバーの安全確認が重要になります。
この確認を、ボディに配した8個の高精細カメラが支援します。歩行者や自転車など周囲に危険があれば、音と画像でドライバーへ知らせます。
自動でバス停へ誘導
ドライバー支援として、カメラで路面誘導線を検知し、自動でバス停へ誘導して停車する自動正着制御を搭載しています。
自動操舵と自動減速により、バス停との隙間を約3cm〜6cm、停車位置から前後約10cmの高精度で停車する自動正着制御は、ドライバーの負担を軽減し、ベビーカーや車いすでの乗車もしやすくします。
FCの特性を活かし揺れを抑える
SORAには、従来のバスにあった停車・発進時の「ガクン」という変速ショックがありません。燃料電池でモーターを回して走行するためです。
また、急加速を抑える加速制御機能により、滑らかな発進を実現します。乗車率が高く立ち乗りの乗客が増える場面でも、事故を未然に防ぐ重要な機能です。
バスを時間通り運行するITS Connectを採用
運行時間を守ることは、渋滞や事故の抑制にも役立ちます。
ITS Connectを搭載したSORAは、車車間通信や路車間通信を用いて渋滞を予測し、時間通りの運行を支えます。これにより輸送能力が高まり、混雑する都市部でも快適な移動が可能になります。
SORAが示した、燃料電池バスという交通インフラの現在地
世界的にEVシフトが進むなか、長い距離を走る路線バスにとって、EVの航続距離の短さや充電時間の長さはネックになりがちです。トヨタが東京モーターショー2017で提案したFCバスSORAは、その弱点を補う十分な魅力を備えていました。
「社会に貢献できるバス」を目指したSORAは、2021年の東京オリンピック・パラリンピックで世界中のゲストを迎える役割を果たし、その後も各地の路線で運用が続いています。一方で、車両価格の高さや水素インフラの制約から普及ペースは緩やかで、五輪という節目を過ぎたあとは台数の伸びが鈍化しているのも事実です。究極のエコカーとして期待されるFCバスが本格的に普及するのか、それとも一部にとどまるのか——SORAの歩みは、水素モビリティが社会に根づくかどうかを占う試金石であり続けています。今後の展開に注目したいところです。