DN PRO CARGOは市販化されず ダイハツ初の量産BEVは「e-ハイゼット カーゴ」に
ダイハツは2017年10月25日に開幕した東京モーターショーへ、4ドアクーペ「DN COMPAGNO(ディーエヌ コンパーノ)」やコンパクトSUV「DN TREC(ディーエヌ トレック)」、商用EV「DN PRO CARGO(ディーエヌ プロカーゴ)」など計5台のコンセプトカーを出品しました。
それから8年半。結論から言えば、DN PRO CARGOがそのままの姿で市販化されることはありませんでした。しかしダイハツは2026年2月2日、初の量産BEVとなる「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」を発売しています。専用ボディの未来的な商用EVではなく、現行ハイゼット カーゴをBEV化するという現実的な解にたどり着いたのです。
ここではまず現在の状況を整理し、そのうえでDN PRO CARGOのエクステリア・インテリアの魅力と、そのルーツであるミゼットについて振り返ります。
ダイハツ初の量産BEV「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」が2026年2月2日に発売 314万6,000円から
ダイハツは2026年2月2日、軽商用車「ハイゼット カーゴ」「アトレー」をベースとした同社初の量産バッテリーEV「e-ハイゼット カーゴ」「e-アトレー」を全国一斉に発売しました。価格はe-ハイゼット カーゴが3,146,000円、e-アトレーが3,465,000円。販売目標は2車種合計で月販300台としています。
搭載されるBEVシステムは、スズキ・ダイハツ・トヨタの3社が共同開発した「e-SMART ELECTRIC」。モーター・インバーター・減速機を一体化した「eAxle」を後輪駆動軸上に配し、床下に36.6kWhの薄型リチウムイオンバッテリーを敷き詰めることで、ベース車と同等の積載スペースと最大積載量350kgを維持しています。一充電走行距離はWLTCモードで257kmと、軽商用BEVバンとしてトップクラスの数値です。
注目すべきは給電機能でしょう。全車にAC100V・最大1,500Wのアクセサリーコンセントを標準装備し、走行中でも電気製品を使えるほか、V2Hに対応する急速充電インレットも全車標準。ダイハツは2025年に大阪府と災害時の電源供給協定を締結しており、停電した現場へ自ら移動して人工呼吸器などへ給電するという使い方も想定されています。
「室内で電力を使える移動オフィス」「社会を支える商用EV」というDN PRO CARGOの提案は、専用ボディではなく、既存のハイゼットをBEV化するという形で現実になったと言えます。生産はダイハツ九州の大分(中津)第1工場で、BEV専用設備を新設せずガソリン車との混流生産としました。良品廉価を掲げるダイハツらしい割り切りです。なお同システムはOEM供給され、トヨタは「ピクシス バン」のBEV版を、スズキは2026年3月9日に「eエブリイ」を発売しています。
軽商用EVは認証不正で足踏み 当初は2023年度発売予定だった
この軽商用BEVは、もともと2023年度中の発売が予告されていたモデルです。ところが2023年12月に表面化したダイハツの認証申請不正により、計画は大きく後ろへずれ込みました。
ダイハツは2024年2月13日、商用車の電動化を推進する共同出資会社CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies)から脱退。保有株式10%はトヨタへ譲渡されました。その後、再発防止と信頼回復の取り組みを経て2025年1月29日にCJPTへ復帰し、同日にトヨタ・スズキ・ダイハツの3社が軽商用EVの導入を進める方針をあらためて表明しています。そして実際の発売は2026年2月まで持ち越されました。
2017年に「未来の商用EV」を掲げてから約9年。ダイハツの電動化がここまで遅れた最大の要因は、技術ではなく不正問題だったという事実は、率直に記録しておくべきでしょう。逆に言えば、e-ハイゼット カーゴはブランド再生の象徴という重い役割も背負っています。
「未来の軽商用車」の構想は「UNIFORM Truck/Cargo」へ 2023年に公開
DN PRO CARGOが掲げた「働くクルマの再定義」という思想は、その後のコンセプトカーにも受け継がれました。ダイハツは2023年10月のジャパンモビリティショー2023に、軽商用BEVのコンセプト「UNIFORM Truck(ユニフォーム トラック)」「UNIFORM Cargo(ユニフォーム カーゴ)」を出展しています。
ボディサイズは、ユニフォーム カーゴが全長3,395mm×全幅1,475mm×全高1,920mm、ホイールベース2,450mm。ユニフォーム トラックが全長3,395mm×全幅1,475mm×全高1,885mm、ホイールベース1,900mmです。BEVならではの外部給電機能に加え、清掃しやすいフラットで凹凸の少ないキャビンと荷室、着脱可能な内外装パーツを採用し、多様な働き方に対応するとしています。トラックには、農家が収穫物を販売するための未来の「Nibako(荷箱)」も組み合わされました。
用途に応じて中身を入れ替えるというDN PRO CARGOのマルチユニット思想は、ここでは「着脱可能なパーツ」「積み替えられる荷箱」という、より現実的な形に翻訳されています。ただし、UNIFORM Truck/Cargoの市販化についてもダイハツからの発表はありません。e-ハイゼット カーゴが既存モデルのBEV化という手堅い一手だったことを踏まえると、専用設計の軽商用BEVが登場するとしても、まだ数年先になると見ています。
DN PRO CARGOはミゼットの後継モデル
ダイハツの歴史に詳しい人ならボディカラーから察しがつくとおり、プロカーゴはダイハツの軽自動車の原点とも言える商用車、ミゼットの精神的な後継にあたるコンセプトでした。
ミゼットは1957年に発売された3輪商用車で、大きな荷台とパステルグリーンのカラーリングが印象的なモデルです。発売から長きにわたり、中小企業や個人事業主を中心に、モノを運ぶことをなりわいとする業種で活用されてきました。
商用EVであるプロカーゴは、室内で手軽に電気機器を使えるため、モノを運ぶ以外のビジネスシーンにも活用の幅が広がる——というのが当時の提案です。興味深いことに、ダイハツはe-ハイゼット カーゴの発表でも「1957年発売のミゼット以降、働く相棒として軽商用車を作り続けてきた」と語っています。ミゼットの系譜という物語は、コンセプトカーではなく量産BEVへと引き継がれました。
エクステリアはEVのメリットをフル活用
プロカーゴは、EVだからこそ実現できた低重心と、年齢や性別を問わず乗り降りしやすい低床フラットフロアが魅力でした。
全高は軽自動車規格の上限に近い1,995mm、室内高は1,600mmと、軽自動車としてはクラストップレベルの室内空間を確保しています。
外観は広さを稼ぐスクエアなボディに、ミゼットを意識したボディカラー、スケルトン素材を用いたサイドドア、ユニークで愛らしいヘッドライトとフロントバンパー周りのデザインが印象的です。
ホイールは、ボディカラーとサイドドアのカラーリングに合わせたおしゃれなディスクタイプです。
ビジネスシーンでの活用の幅を広げるワイドサイズのリアドアは、利便性が高いだけでなく、その広さをデザインとしても生かしています。
インテリア空間はマルチユニットシステムで様変わり
運転席まわりの特徴は、ステアリングホイールやコンソールパネルなど各所にパステルカラーを取り入れたこと。その色彩演出により、プロカーゴの室内はポップで明るい雰囲気にあふれています。
プロカーゴ最大の特徴は、運転席後ろの荷室エリアに「マルチユニットシステム」を設け、目的に応じてカートリッジのように交換できることです。
室内にモニターや医療機器を設置すれば、街の人々の健康相談や診察に用いる医療用車両にもなります。軽自動車のプロカーゴはフットワークが軽く、農道の多い地域でも問題なく走れるため、医師不足に悩む過疎地域の地域医療を支える存在にもなり得る——という提案でした。
介護・福祉事業向けのユニットでは、リフターを使って車椅子をスムーズかつ安全に乗せられ、2台の車椅子を搭載できます。
ミゼットのように商品を届ける輸送車として、宅配業や配送業者が使えるユニットも用意されます。フロアなどには、大切な荷物の荷崩れを防ぐ固定パーツが設けられています。
プロカーゴはパン屋の移動販売車としても使えるほか、ネイルサロンや移動図書館、ペットのトリミングサロンなど、多彩な用途が想定されていました。この「用途ごとにユニットを差し替える」という発想自体は市販車には採用されませんでしたが、AC100V・1,500Wの給電機能を備えたe-ハイゼット カーゴなら、架装によって同じことが実現できます。移動販売やキッチンカー、災害時の電源といった使い方は、いまや構想ではなく実用の段階に入りました。
DN PRO CARGOが描いた未来はe-ハイゼット カーゴが引き受けた
ダイハツの商用車といえばハイゼットを思い浮かべる人が大半でしょう。プロカーゴが市販化されればその印象も変わる——と当時は期待されましたが、実際に「働く相棒」の座を守り続けたのは、やはりハイゼットでした。そしてそのハイゼットが、2026年にBEVとして生まれ変わったのです。
ダイハツは「先進技術はみんなのものに」を掲げ、良品廉価なクルマづくりを目指してきました。東京モーターショー2017に出展されたプロカーゴは、軽自動車最大クラスの室内空間を持つ商用EVであり、室内で電力を使える「移動するオフィス」として、未来で働く人たちを支える一台として提案されました。
2017年は、同年3月に創立110周年を迎えたダイハツにとってメモリアルイヤーでもありました。記念すべき年に掲げられた新スローガンが「Light you Up ~らしく、ともに、軽やかに~」です。
プロカーゴが示した「働く人の暮らしを支え、日常に明るさを提供するクルマ」という理想は、コンセプトカーのままでは終わりませんでした。航続257km、AC100V給電、V2H対応。314万6,000円という価格をどう見るかは使い手次第ですが、ミゼットから続く「働く相棒」の系譜が電動化という次の章へ進んだことは間違いありません。次に問われるのは、UNIFORM Cargoが描いた専用設計の軽商用BEVが、いつ現実になるのかという一点です。