フロントグリルを設置する目的とメーカー別・デザイン
最近の車のフロントグリルは、どのメーカーも個性的で、エンブレムではなくフロントグリルを観ただけでどのメーカーの車であるかを判断できます。
各自動車メーカーはブランドの強化や販売する車に統一感を持たせるため、フロントグリルのデザインに力を入れます。
海外の自動車メーカーに負けまいと、日本勢も主張を強めてきた「フロントグリル」の特徴をメーカー別に紹介します。また、フロントグリルの役割についても取り上げます。
フロントグリルの役割は「デザインアイコン」と「エンジンの冷却」
車を正面から見た時に、左右のヘッドライト間に配置され、四角形や五角形などのメタリックなフレームと、網目状のパーツを組み合わせているのが「フロントグリル」です。
フロントグリルの役割は「デザインアイコン」と「エンジンの冷却」です。フロントグリルは、フロントマスクの大部分を占めているため、その印象に大きく関わります。そのため、各自動車メーカーは、他車との差別化を図るためフロントグリルのデザインに特徴を持たせます。
フロントグリルは、網目部分から外からの冷たい風を取り入れて、エンジン冷却システムを機能させ、エンジン出力の低下やオーバーヒートを防ぐために設置されます。
BMWやレクサスなど国内外のメーカー別・フロントグリルの特徴
フロントグリルのデザインは、以前だとBMWの「キドニーグリル」や、アルファロメオの「盾型グリル」など、海外メーカーの方がインパクトがあって特徴的でした。
2010年代に入ってからは、レクサスなどの海外市場を意識する日本の自動車メーカーも、熾烈なシェア争いを繰り広げるライバル勢を意識して、フロントグリルのデザインに力を入れ、主張を強め個性を発揮し始めました。個性と特徴を持つフロントグリルのデザインをメーカー別に紹介していきます。
レクサスのスピンドルグリルは紡績をイメージした網目構造が特徴
日本が世界に誇るラグジュアリーメーカーであるレクサスは、アウディやBMWなど海外の自動車メーカーに対抗して、2012年発売の「GS」からスピンドルグリルを導入しました。
「RC F」などの車種に採用される最近のスピンドルグリルの特徴は、アッパー部とロアー部に台形を配置し、それら2つの台形を融合させて、全体としては砂時計のような形状を完成させているビジュアルです。
ロアグリルでは、より多くの空気を取り込ませるために、ワイド設計とします。レクサスは、車種に合った網目構造やメッキ加飾を施したスピンドルグリルを各車へ適用させます。
トヨタのキーンルックはエンブレムを中心に左右に伸びるデザインが特徴
トヨタのフロントマスクの新たなブランドアイコンである「キーンルック」は、2012年8月のフルモデルチェンジで誕生した2代目オーリスから導入されました。その後、プリウスやアクア、C‐HRなど導入する車を増やしていきます。
トヨタの世界戦略車を中心として採用される「キーンルック」は、エンブレムを中央に配して、V字型の外枠を組み合わせます。
V字型を用いることで、キーン(鋭利)な部分がうまれ、全体として大きく広がる立体感を創る事ができます。トヨタは、キーンルックに精悍なイメージを与える個性的なヘッドライトを組み合わせて、フロントマスク全体で自社のブランド力を向上させます。
マツダの5ポイントグリルは翼を表現したシグネチャーウィングと5角形のグリルをつなげたデザイン
マツダのフロントグリルは、中央部付近にエンブレムを配置し、外側を五角形のフレームが覆う「5ポイントグリル」を採用します。5ポイントグリルは、コンパクトカーのデミオから、ワイドクラスSUV「CX‐8」など幅広い車種に適用されます。
マツダは、新時代のデザインコンセプトである「魂動デザイン」の基、フロントグリル下から左右のヘッドランプへと翼のようにつながるデザインを採用した「シグネチャーウィング」を、5ポイントグリルに組み合わせて、世界的評価の高い美しくて力強いフロントマスクを完成させます。
日産のVモーショングリルは力強い「V」字のフレームが特徴
「Vモーショングリル」が日産のデザインアイコンとして、初めて採用されたのは、2010年に発売したジュークからです。その後、日産を代表するスポーツカー「GT‐R」や、商用車であるNV350キャラバンなど多くの車種にも適用されました。
デザインの特徴は、ほぼ中央に置かれる日産のエンブレムを、アルファベットの「V」をモチーフとするフレームが囲います。日産は、適用車ごとに合ったV字の開口角度や太さで「Vモーショングリル」のデザインの幅を広げます。
2017年に誕生した新型リーフからは、グリル全体を大きく目立たせて、象徴を強めるデザインが採用され始めました。
スバルのヘキサゴングリルは歴史背景を基にした六角形のデザインが特徴
インプレッサなどに採用される、スバルのデザインアイコンである「ヘキサゴングリル」は、国内外の個性的なフロントグリルのデザインと比較すれば、大胆さはありませんが、ベーシックさを追求しているため、安定感があります。
「ヘキサゴングリル」では、スバルのエンブレムマークを、タイトな六角形が覆います。6つの会社が一つとなった歴史的背景を六角形で表し、グリル内に設置する水平メッキは、スバルのルーツである航空機メーカーをイメージさせるなど、デザインに深みを持たせます。
三菱のダイナミックシールドは左右の弓型パーツが特徴的
ダイナミックシールドは、2015年6月にマイナーチェンジが行われ、「新フロントデザインコンセプト」の基、フロントデザインが全面刷新されたアウトランダーで初めて採用されました。
万が一、衝突した際にヒトとクルマを守れるタフな安全性と、フロントマスクをワイルドに引き締めるデザイン的な魅力を持つのが「ダイナミックシールド」です。
左右に配置される弓形のクロームメッキの太いパーツは、フロントマスクに力強さとインパクトを与えます。「ダイナミックシールド」は、2018年3月に日本でも発売を開始したエクリプスクロスにも採用されています。
BMWのキドニーグリルは二つの腎臓を意味する長い歴史を持つグリル
海外の自動車メーカーが採用するフロントグリルで最も有名なのが、BMWの「キドニーグリル」です。同グリルが初めて採用されたのは、1933年に誕生した「303」と長い歴史を誇ります。
キドニーとはドイツ語で腎臓を意味し、左右2つ均等に並ぶグリルが腎臓のように見えることから、そう名付けられました。「キドニーグリル」は、セダンやSUV、レーシングカーにも適用され、BMWのブランドアイコンとして世界的に認知されています。
「キドニーグリル」は車種によって、縦横比や大きさを変えるアレンジを行います。最近の傾向は、日本でも2018年4月に受注を開始した新型SUV「BMW X2」で採用される、フレームの外側に出っ張りを持たせるデザインです。
また、本来は動力源を冷やすという意味においては、フロントグリルを必要としないEVである「i8」「i3」でもキドニーグリルは採用されています。
アウディのシングルフレームグリルは六角形フレームで囲ったデザイン
「シングルフレームグリル」は、アウディが2000年代から取り入れたフロントグリルのデザインです。
アウディの「シングルフレームグリル」は、フォーリングスを、六角形のフレームで囲います。フレームは、上部左右両端部にシャープさを与える、辺の長さにバラエティーを持たせるなどして、主張を強めます。
「シングルフレームグリル」は、エントリーグレードのA1から始まり、A4やA6にも同様に、SUVやスポーツカーといった幅広い車種に適用されます。
アルファロメオの盾型グリルは騎士の持つ盾を表現
アルファロメオの個性的なフロントグリル「盾型グリル」は、逆三角形の形状が特徴的です。グリル上部に配置された、赤い十字架と大蛇をモチーフとしてデザインされた「エンブレム」の組み合わせは、歴史好きの想像力を膨らませます。
盾型グリルは、1937年発売の「8c2900」で初めて採用されました。当時は、はっきりとした盾型をしておらず、下部エリアが鋭角となるデザインを採用していました。
以降、逆三角形の大きさや角度などを、少しずつ変えていきながらデザインを進化させ続けました。「盾型グリル」は、スポーツカーの「4C」、コンパクトカーの「ミト」などの車種、最新のジュリアにも適用されています。
ジープの7スロットグリルはデザイン性よりもワイルド感を感じるデザイン
等間隔で居並ぶ、同サイズの7本の細長い穴。ジープの「7スロットグリル」は、デザインに特化しないからこそワイルド感は抜群です。
スロットのサイズは車種によって異なり、主流となりつつある大型ヘッドライトとの組み合わせは、ジープのスタンダートで、世界中のアウトドアユーザーから好評です。
日本国内で販売される「レネゲート」「コンパス」「ラングラー」「グラントチェロキー」でも、同様に7スロットグリルは採用されています。
テスラは電気自動車(EV)メーカーなのでグリルレスを採用
アメリカのシリコンバレーに拠点を置く、EV(電気自動車)を開発する新興の自動車メーカーであるテスラの車は、フロントグリルを設置しない「グリルレス」を特徴とします。
各社がフロントグリルのデザインで更なる個性を発揮させようとする中、テスラのグリルレスは逆に目立ちします。
EVが、動力源として用いるモーターでは、エンジンのように冷やす必要はないため、フロントグリルを設置しない事も可能です。
流行の「フロントグリルの大型化」に機能的な意味はなし!
近年、国産車でも個性が目立ち始めたフロントグリル。BMWの「キドニーグリル」など長い歴史を持つフロントグリルも大型化されており、とにかく派手なフロントマスクの車が増えました。
一方で、フロントグリルの大型化やメッキを多用したデザインには否定的な声も聞かれます。
押さえておきたいのは、フロントグリルが大型化には、機能的な意味はほとんどないという点です。グリルはエンジン冷却のためには必要ですが、空気抵抗もありますので、車内に取り込む空気が多いほど良い訳ではありません。
つまり、フロントグリルの大型化は、あくまでメーカーが考えるデザイン性の向上、他車と差別化する商品力アップのための結果です。
電気自動車専門メーカーのテスラが「グリルレス」を採用していることからも分かる通り、EV化が進めば、エンジン冷却をするフロントグリルはますます機能的な意味を失います。現在は過渡期であり、今後は大型化とは別の方向にデザインが多様化していくことが予想されます。
フロントグリルはEV時代にはさらに主張を強める
EV時代が本格化すれば、フロントグリルはさらに主張を強める事が予想されます。
EVでは、エンジン車のように網目から冷たい空気を取り入れて、動力源を冷やす必要がないため、デザインの自由度が広がります。そのため、EV時代では、フロントグリルのデザインアイコンとしての役割が強まり、他社との差別化をはかるために、さらに主張を強める可能性が高いと推測されます。
その傾向は、北京モーターショーに出展された「e-tron」などのコンセプトカーからも読み解けます。
今後、フロントグリルのデザインが洗練され、さらなる特徴を持ち始めれば、今よりも、フロントグリルのデザインの良し悪しで車の購入を決めるというユーザーが増えていきます。