世界一の認知度!BMWのキドニーグリルの意味や歴史
BMWと言えば、その特徴的なフロントグリルです。一目で記憶に残る個性的なデザインは「キドニーグリル」と呼ばれていて、1933年から採用が始まり、今ではBMWの象徴となっています。このキドニーグリルは、自動車デザインの歴史において最も認知度が高いアイコンの一つです。
キドニーグリルは人気の反面、「豚の鼻」と言われるなど否定的な意見もありましたが、BMWのブランドを世界に確立させたデザインアイコンであることに間違いはありません。90年以上にわたって受け継がれてきたこの意匠は、時代ごとに大きさも形も変えながら、BMWという記号であり続けています。
豚の鼻にも見えるBMWのキドニーグリルは「腎臓」を意味

キドニーグリルとは、BMWの車種へ一貫して採用されているフロントグリルの総称です。左右に2つ並んだフロントグリル(ラジエーターグリルとも呼ばれるエンジンを冷却するためのパーツ)が、人間の腎臓(じんぞう)に見えることから、腎臓を英語にした「kidney」を取り「キドニーグリル」と呼ばれるようになりました。この名称は、BMWの長い歴史の中で確立された、デザインの大きな特徴を表しています。
海外でも同様に「Twin kidney grille」と呼ばれて親しまれています。BMWのフロントグリルが何故「腎臓」を意味し、このデザインに採用が至ったのかは、公式の説明がないため正確には不明です。しかし、このデザインこそがBMWの顔としての役割を果たし、ブランドを際立たせています。
間近で見ると、現行モデルのキドニーグリルは平らな一枚板ではなく、中央のエンブレムに向かって浅く折れた立体的な面で構成されていることがわかります。左右のグリルの間にあるセンターバーの幅やメッシュの奥行きがモデルごとに違っており、写真で見る以上に造形の作り分けが細かい印象を受けます。
キドニーグリルは個性的なデザインで「豚の鼻」などと呼ばれるなど賛否両論ありますが、アウディ、メルセデス・ベンツと共にドイツのビッグ3として数えられることから、世界で確かな人気を獲得しています。BMWはデザインの大胆な変化を恐れず、常に革新を続けていることが、世界で認められる大きな理由です。
BMWはキドニーグリルのほかにも、後部のピラーの部分で曲線に跳ね上がったデザイン「ホフマイスターキンク」といった象徴的な意匠デザインが多い自動車メーカーとしても有名です。1960年代のモデルから定着したこの造形は、リヤクオーターウィンドウの後端で描かれる小さな折り返しで、キドニーグリルが「顔」の記号であるのに対し、横から見たときのBMWらしさを担っています。青と白のエンブレムについても、プロペラを図案化したという説が長く語られてきましたが、バイエルン州旗の色をもとにしたという見方が有力です。これらのデザイン要素の組み合わせが、BMWのブランドを構築しています。
一般的なフロントグリルとキドニーグリルは何が違うのか
そもそもフロントグリルは、車両前方から取り込んだ外気をラジエーターやエンジンルームへ導き、冷却するための開口部です。網目状の構造にすることで空気の通り道を確保しながら、飛び石などから内部のパーツを守る役割も担っています。ラジエーターグリルという別名があるのは、この機能に由来します。
一般的なフロントグリルは横一文字につながった形状が主流で、フロントマスクにワイドで安定した印象を与えます。これに対してキドニーグリルは、開口部を中央で左右に分けた点が決定的に異なります。1933年当時は大きな一枚もののグリルが一般的だったため、あえて2分割にしたことが他車との差別化につながり、そのまま定着しました。
現在のキドニーグリルは、単なる空気の入り口ではありません。車間距離制御に使うミリ波レーダー、前方カメラ、カメラ洗浄用のウォッシャーノズル、駐車支援用のセンサーなど、グリルの裏側には多くの機器が収まっています。グリルの大きさや内部構造を考えるとき、冷却性能と空力性能に加えて、これらのセンサー類をどう納めるかが設計上の条件になっています。
キドニーグリルは1933年にBMWが初めて製造した「BMW303」から採用

BMWの始まりは1916年、航空機用エンジンのメーカーとしての創業でした。その後、1923年には初のオートバイ「R32」の製造を開始し、二輪メーカーとして足場を固めます。四輪事業への進出は、オースチン・セブンのライセンス生産を手がけていたディクシー社を傘下に収めたことがきっかけでした。そして1933年、BMWが自社で設計した初のオリジナル4輪自動車「BMW303」で、このキドニーグリルが初めて採用されました。
BMW303はBMW初の6気筒エンジンを搭載した車です。排気量1.2リッター級の直列6気筒から最高出力30PSを4,000rpmで発生し、最高速度は90km/hでした。2ドアセダンの価格は3,600ライヒスマルクからで、当時のメルセデス・ベンツ170より安い設定ながら、気軽に手が届く価格帯ではありませんでした。1933年から1934年までの総生産台数はボディ形式を合わせて2,300台です。この記念すべきモデルで採用されたキドニーグリルは、丸みを帯びたボンネットから流れ落ちるような、縦長で細いデザインが特徴でした。
その後、キドニーグリルはBMWの顔として受け継がれ、現在に至ります。90年以上も基本となる考え方を変えずに採用し続けることで、「BMW=キドニーグリル」と認知されるようになり、BMWのブランド化に大きく貢献してきました。キドニーグリルのデザインは、時代とともに形状を変化させながらも、核となる個性を守り続けています。
フォルクスワーゲンのワッペングリル、アウディのシングルフレームグリル、レクサスのスピンドルグリルなど各自動車メーカーが採用するグリルの中で、キドニーグリルは最も長い歴史を持つアイコンの一つです。アウディのシングルフレームグリルもレクサスのスピンドルグリルも、本格的に展開が始まったのは2000年代です。70年近い先行がどれほどの差かは、新しいブランドアイコンを一から定着させる難しさを考えると想像がつきます。
すべてのBMWにキドニーグリルが付いていたわけではない
BMWの顔として語られるキドニーグリルですが、歴代モデルを見ると例外も存在します。1950年代にイソ社からライセンスを受けて生産した小型車「イセッタ」、それをひとまわり大きくした「600」、600をベースにミケロッティがデザインしたクーペ「700」には、キドニーグリルがありません。1930年代後半の軍用車「325」も同様です。
これらはいずれも、リアエンジンだったり、特殊な用途向けだったりと、前面に大きな冷却用開口部を必要としなかったモデルです。裏を返せば、冷却の必要性という機能的な理由がなくなった瞬間にキドニーグリルは姿を消していた、ということでもあります。現在のBMWが電気自動車にまでキドニーグリルを与えているのは、この時代とは逆の判断です。機能部品からブランドの記号へ、という変化が歴代モデルの並びからはっきり読み取れます。
縦長と横長 キドニーグリルの形はモデルでどう違うのか
303以降、キドニーグリルは長らく縦長のデザインで推移しました。そのサイズが最も小さく、限りなく四角に近づいたのが、1978年に登場し車名に初めて「M」を冠したミッドシップスポーツ「M1」です。ジウジアーロが手がけたボディは、キドニーグリルがなければイタリアのスーパーカーと見間違えるほどで、キドニーがいかにBMWらしさを担っているかを逆説的に示しています。
明確に横長となった転換点は、1986年にデビューした2代目となるE32型7シリーズでした。BMW初のV12エンジンを積んだ750i/750iLには、735iと差をつけるために横長で大きなキドニーグリルが与えられました。この表現が1990年の3代目E36型3シリーズや3代目E34型5シリーズにも広がり、横長デザインが一気に定着します。
| タイプ | 主な採用モデル | 狙い |
|---|---|---|
| 横長系 | 1・2・3・5シリーズなど | 低く構えた安定感。左右に張り出した五角形の頂点をヘッドライト上端と揃える |
| 縦長系 | 4シリーズ、M3、M4、X7など | 存在感と力強さ。SUVやスポーツモデルで塊感を演出 |
| 頂点を下げた変形 | Z4、8シリーズ | 五角形の尖った部分をヘッドライト下端に揃え、車高を低く見せる |
同じ横長系でも細部は作り分けられており、1・2・3・5シリーズは左右の下辺を切り落とした形状、X2は逆に上辺を切り落とした形状です。グリル内部のメッシュについても、M340i xDriveで三次元的な奥行きを持たせた意匠が導入されるなど、年々手が込んできています。実際に触れてみると、メッシュは薄い格子ではなく前後に厚みのある立体構造で、見る角度によって陰影が変わる作りになっています。
キドニーグリルはアクティブ・エア・ストリームで可変式になった
キドニーグリルは、時代により大きさが変わりながらも基本を守る伝統的なグリルですが、機能面でも進化を遂げています。2015年に登場した第6世代となるG11型の7シリーズで、キドニーグリルは大きな転換期を迎えました。
通常時は空気抵抗を抑えるために閉まり、エンジンの冷却が必要な時だけ自動的に開く、開閉式のキドニーグリルが採用されました。これは「アクティブ・エア・ストリーム」と呼ばれ、エンジンやブレーキの冷却に空気を必要としない場面ではグリル裏のエアベントを電動で閉じ、空気抵抗を減らします。燃費性能と冷却性能を両立させる仕組みで、デザインと機能を融合させるBMWの姿勢を示しています。


この可変式のキドニーグリルは5シリーズや3シリーズにも展開され、現在では上級モデルに限らず広く採用されています。走行中にフラップが動くため、停車時と走行時でグリルの表情がわずかに変わります。
可動部を持つ構造ゆえの注意点もあります。グリル奥に落ち葉や小枝、虫が詰まるとフラップの動きが渋くなり、高圧洗浄機をグリルに近距離で当てると駆動部に水が回り込むことがあります。降雪地域では着氷によってフラップが固着するケースも見られます。可変式を備えた世代では、洗車時にグリル奥の異物を確認しておくと、不要なトラブルを避けられます。
電気自動車はエンジンを冷やす必要がないためキドニーグリルはデザイン要素になった

2014年4月に日本で販売された「i3」はBMW初の量産電気自動車です。炭素繊維強化プラスチック製のパッセンジャーセルをBMWとして初めて採用し、後輪駆動のレイアウトを守った点でも話題になりました。i3のキドニーグリルは、他のBMWと違い縦のラインがなく、エンジンを冷却するための空間もありません。
電気自動車(EV)はモーターで走行するためエンジンを搭載していないため、本来の目的であるエンジンを冷やすためのキドニーグリルを必要としません。そのため、i3のキドニーグリルは、冷却の必要性がない「クローズドタイプ」のデザインを採用しています。枠をブルー、中をブラックで統一して、モダンな個性を主張しています。このi3は2022年6月末をもってライプツィヒ工場での生産を終え、累計生産台数は約25万台に達しました。
冷却に不要であってもグリルの形を残す判断には理由があります。EV市場で先行するブランドの多くがグリルレスに近い顔つきを採用しているため、開口部のない前面でどうやってブランドを名乗るかが課題になりました。i3やi8でキドニーグリルをデザインとして残したのは、その答えです。BMWはその後、i4、iX、i5、i7、iX1、iX2と電気自動車を拡充し、いずれのモデルにもキドニーグリルの形を与えています。
フランクフルトモーターショー2019で発表された「コンセプト4」では大型化されたキドニーグリルが話題に
IAA2019で発表されたBMW 4シリーズ「コンセプト4」のエクステリア
フランクフルトモーターショー2019で4シリーズのコンセプトカーとして登場した「コンセプト4」は、キドニーグリルの大型化で大きな話題を呼びました。コンセプト4のキドニーグリルは格子状のデザインを採用し、従来よりも縦長に大型化しています。
縦長に大型化されたキドニーグリルは、ダイナミックで個性的なフロントエンドに刷新されました。このデザインは2020年に登場した4シリーズやM3、M4に市販モデルとして採用され、「豚鼻グリル」という呼び名が定着するほどの反響を呼びます。コンパクトなクーペに大きな縦長グリルを組み合わせたインパクトは強烈で、評価は割れましたが、BMWのデザインの方向性を明確に示しました。
キドニーグリルはなぜ大型化したのか
大型化が決定的になった転換点は、2019年に改良を受けた7シリーズです。キドニーグリルは先代比で約40%拡大され、左右が一体に見える形状へ変わりました。同時にボンネット上のエンブレムも直径82mmから95mmへと大きくなり、フロントマスク全体の情報量が引き上げられています。前年に登場した最上級SUVのX7が縦型に近い大型グリルを採用したことが、この流れの起点でした。
- 遠目でもBMWと判別させるため:街中で他車に埋もれないフロントマスクは、ブランドの存在感を守る手段として機能します
- 市場の嗜好の変化:大きく堂々としたフロントマスクが高級車らしさと受け取られる市場が拡大し、そこに合わせたという指摘があります
- センサーと安全基準の制約:レーダーやカメラの収納スペースが必要になったことに加え、歩行者保護の観点からボンネット位置が高くなり、前面に生まれた面積をグリルが埋める形になりました
デザインの流行だけで大きくなったわけではなく、技術的な制約と商品戦略が重なった結果という見方が自然です。もっとも、受け止め方は一様ではありません。威圧感が強すぎるという批判がある一方で、ひと目でモデルを識別できる強さを評価する声もあり、BMWのデザインをめぐる議論の中心であり続けてきました。
ノイエ・クラッセで再びスリムに キドニーグリルの次の形
拡大を続けたキドニーグリルは、ここで方向を変えました。2025年9月に発表され、日本では2026年7月22日に発売された電動SAV「iX3」は、BMWの次世代コンセプト「ノイエ・クラッセ」の第1弾にあたります。そのフロントマスクに備わるキドニーグリルは、縦長の形を保ちながら、近年のモデルと比べて明らかに小ぶりです。
変化はサイズだけではありません。これまでグリルの輪郭を縁取っていたクロームメッキは廃され、輪郭そのものが発光する「アイコニック・グロー」が新しい識別要素になりました。光が金属の艶に取って代わったわけで、夜間の見え方を含めてブランドの名乗り方が組み替えられています。デザインの下敷きになっているのは、1962年に登場した初代ノイエ・クラッセの細く背の高いキドニーグリルです。
グリルを縮小できた背景には、センサー類の小型化があります。レーダーやカメラが小さくなったことで、グリル裏に確保すべきスペースが減り、デザイン上の自由度が戻りました。大型化の理由の一つが技術的制約だったのと同じように、その制約が緩んだことが縮小を可能にしています。
この新しいデザイン言語は今後の多くのモデルへ波及していきます。セダンとして復活する新型i3では横長のキドニーグリルが与えられ、モデルごとに一目で見分けられる作り分けが続きます。かつての個性的なハッチバックと同じ名前が、まったく別の性格のEVセダンとして戻ってくる点も、ノイエ・クラッセという世代交代の象徴です。中国向けにはロングホイールベース仕様も公開されており、市場ごとの展開も進んでいます。
キドニーグリルの手入れとカスタマイズで気をつけたいこと
キドニーグリルは走行風を取り込む部位であるため、粉塵や虫、雨水の跡が内側にたまります。格子の奥は正面から拭いても届かず、放置すると光の当たり方で黒ずんで見えるようになります。柔らかい布で正面を拭いたあと、細い柄のスポンジブラシを軽く湿らせて隙間の汚れを落とすと、フロントの印象が変わります。高圧洗浄機を至近距離から当てるより、たっぷりの水で流してから拭き取るほうが塗装面にもやさしい方法です。
グリルそのものを交換したり、ブラックアウトしたりするカスタマイズも定番です。純正でもブラックグリルや、輪郭が光るイルミネーテッド・キドニー・グリルがオプションとして用意されてきました。社外品に交換する場合、キドニーグリルの多くはビスではなくツメでバンパーに固定されているため、無理に引き抜こうとするとツメが折れて固定が甘くなります。バンパー側を少し浮かせて手が入る隙間を作り、ツメを一つずつ外していく手順が基本です。作業前にバンパーの縁へマスキングテープを貼っておくと、工具による傷を防げます。
可変シャッターやセンサーを内蔵した世代では、配線やアクチュエーターがグリルの裏に収まっています。この世代のグリル交換は、外観パーツの付け替えというより電装を伴う作業になるため、仕上がりと安全を優先するなら正規ディーラーや整備工場に任せる選択が現実的です。
BMWのアイデンティティ「キドニーグリル」の進化に注目

まさにBMWの顔と呼べるキドニーグリルは、エンジンを冷却するという本来の役割から、BMWのアイデンティティへ進化を遂げました。これは、エンジンを搭載しない電気自動車にもキドニーグリルを採用していることからも確認できます。
93年の歩みを振り返ると、縦長から横長へ、小型から大型へ、そして再びスリムへと、キドニーグリルは驚くほど柔軟に形を変えてきました。M1のように存在感を極限まで抑えた例もあれば、7シリーズやX7のように拡大を押し進めた例もあります。それでも、どの時代のBMWを前から見ても一瞬でBMWとわかるのは、左右2分割という最初の一手を手放さなかったからです。
可変シャッターによる空力制御、センサーを収めるハウジング、そして輪郭が発光するアイコニック・グローと、キドニーグリルが担う役目は増え続けています。縦長の小型化やEVにおけるクローズドなデザインなど、今後どのような形に進化するのか、BMWの象徴であるキドニーグリルの動向に注目しましょう。




















