ホンダ スポーツEVコンセプトは市販化されず 系譜の現在地
2017年の東京モーターショーでホンダが世界初公開し、ひときわ輝きを放っていたのが「ホンダ スポーツEVコンセプト」でした。S600クーペを思わせる愛らしいスタイリングと、人とクルマが一体になる新世代スポーツという提案で、多くのファンが市販化を待ち望みました。しかし結論から言えば、このスポーツEVコンセプトが量産車として世に出ることはありませんでした。発表から8年以上が過ぎた現在も、これを直接の原型とする市販スポーツは登場していません。一方で、同時に示された電動化の流れは、別の形で現実になっています。
市販化されたのは姉妹作「Honda e」だけ その後の顛末
スポーツEVコンセプトは、同年9月のフランクフルトモーターショーで公開された「アーバンEVコンセプト」に続くEVコンセプト第2弾で、両車はホンダの後輪駆動EV専用プラットフォームを土台としていました。このうち量産化されたのはアーバンEVコンセプトのほうで、2020年8月に「Honda e(ホンダ イー)」として発売されました。個性的な内外装やサイドカメラミラー、対話式AIアシスタントなどで注目を集めた一台です。
ただし、Honda eは販売面で苦戦し、2024年に早くも生産を終えています。姉妹関係にあったスポーツEVコンセプトのほうは、ついに市販化されないまま構想段階で終わりました。「Honda eになるべき習作はスポーツEVコンセプトでもよかったのでは」と惜しむ声も一部にありましたが、BEVは重量が増えやすく、軽量が命のスポーツカーとして成立させる難しさもあった、と考えられます。
S660後継とEVスポーツの現在 プレリュード復活と「必ず作るBEVスポーツ」
この記事のもとになった当時は、「電動化目標に沿ってスポーツEVがS660の後継として投入されるのでは」という期待がありました。実際には、S660は2022年3月に生産を終え、直接の後継車は登場していません。スポーツEVがその跡を継ぐこともありませんでした。
ではホンダのスポーツが途絶えたのかといえば、そうではありません。2025年9月5日、名門「プレリュード」が実に24年ぶりに復活しました。ただしパワートレインはピュアEVではなく、進化版ハイブリッド「e:HEV」に新制御「Honda S+ Shift」を組み合わせたスペシャリティスポーツで、価格は6,179,800円。電動化時代の「操る喜び」を示すモデルとして送り出されました。
純粋なBEVスポーツについても、三部敏宏社長が「BEVのスポーツカーを必ず作る」と公言し、NSX/S2000後継を思わせるティザーも示されています。加えてホンダは新世代EV「Honda 0(ゼロ)シリーズ」を2026年から本格展開していく計画です。とはいえ、スポーツEVコンセプトが描いた「小さな電動スポーツ」は、いまなお実現を待つ“約束”の段階にあると言えます。
ホンダ スポーツEVコンセプトとは そのエクステリアと思想
ここからは、スポーツEVコンセプトがどのようなモデルだったのかを振り返ります。2017年の東京モーターショー2017でホンダが出展した中でも一際輝きを放っていたのが、この「ホンダ スポーツEVコンセプト」でした。
世界初登場となった同車は、同年9月にドイツ・フランクフルトモーターショー2017で公開された「ホンダ アーバンEVコンセプト」に続く、EVコンセプトシリーズ第2弾という位置づけでした。
当時、プレゼンターとして登壇した八郷隆弘社長(当時)は「2030年までにクルマの販売総数に占める電動化の割合を3分の2にし、その具体化に向けて商品展開を行っている」と述べていました。
このモーターショーでスポーツEVコンセプトの市販化が明言されることはありませんでしたが、こうした発言から、その可能性が期待されました。
そんなホンダ スポーツEVコンセプトのエクステリアなどの魅力を紹介していきます。
S660の廃止で新型スポーツEVが投入されるという噂(当時)
ホンダは、軽2シータースポーツ「S660」の生産を2022年3月で終えることを発表し、駆け込み需要もあって受注枠は順次完売、追加生産分を含めて販売を終えました。
貴重な軽オープンスポーツだっただけに後継を望む声は根強く、当時は「2017年に発表したスポーツEVコンセプトがS660の意志を継ぎ、新型として市販されるのでは」という噂もありました。
もっとも、ホンダの目標は当時語られていた「2030年にEV・FCVを100%」ではありません。正しくは、世界販売に占めるゼロエミッション車(BEV・FCEV)の比率を、2030年に40%、2035年に80%、そして2040年に100%とする計画です。いずれにせよ電動スポーツへの道が開かれていること自体は確かでしたが、結果として、スポーツEVがS660後継として投入されることはありませんでした。
HONDAスポーツEVコンセプトのエクステリア
スポーツEVコンセプトは、スポーツカーらしいロー&ワイドなボディに、全体的に丸みを帯びたラインをまとい、名車「S600クーペ」を思わせるレトロな味わいも魅力でした。
ヘッドライトはマスコットキャラクターの目のようなユニークさがあり、フロントフェイス全体に親しみやすさと可愛らしさを与えていました。
カッコよさを追求するというよりも、可愛らしさと親しみやすさを目指した、次世代型スポーツカーという性格でした。
ホイールは和を意識したようなデザインで、スポークは桜の花びらを思わせる幾何学模様を描きます。
サイドガーニッシュはブラックの中にブルーを効かせ、全体の印象を引き締めるポイントカラーとなっていました。
赤い正方形のLEDテールランプにもマスコット的なユニークさがあり、可愛らしさと親しみやすさを感じさせます。
フロントガラスからサンルーフ、リアガラスまでが連なるようなガラス構造も、大きな開放感を生んでいました。
HONDAスポーツEVコンセプトは人とクルマがひとつになれる新時代の車
ホンダ スポーツEVコンセプトは、人とクルマがひとつになる新感覚が魅力のEVスポーツカーでした。
ホンダは、F1をはじめ数々のモータースポーツに挑み続けるスポーツマインドを持つ会社です。そんなホンダが電動化時代に向けて構想したのが、このスポーツEVコンセプトでした。
蓄積したスポーツテクノロジーと、AIを用いた「Honda Automated Network Assistant」を組み合わせることで、人とクルマがこれまで以上に「一心同体」になれる乗り味を目指していました。
レスポンスに優れた電動パワーユニットと、モーター特性を活かしたシャープでパワフルな加速、静粛性、そしてスポーツカーならではの低重心。
「Honda Automated Network Assistant」によって、人とクルマのコミュニケーションにも一体感を持たせる——そんな提案でした。
未体験の走りというハードウェア的な魅力と、AIによるコミュニケーションの充実というソフトウェア的な魅力を融合し、人とクルマを一つにする。それがスポーツEVコンセプトの狙いでした。
Honda Sports EV Conceptの市販化は明言されなかった
スポーツEVコンセプトと同じプラットフォームを用いた小型EV「アーバンEVコンセプト」は、その後「Honda e」として2020年8月に市販化されました(前述のとおり、Honda eは2024年に生産終了)。
一方、東京モーターショー2017で世界初披露されたスポーツEVコンセプトについては、市販化や投入時期は最後まで明言されず、結局そのまま実現しませんでした。
スポーツEVコンセプトが描いた「一体感」は、次代へ
東京モーターショー2017でのホンダブースのキャッチコピーは「自分をもっともっと連れ出すんだ」でした。
当時、スポーツEVコンセプトはグランドデザインこそ示されたものの、航続距離や電池容量、モーター出力といった詳細は最後まで公表されませんでした。
親しみやすくユニークなエクステリアと、クルマとの一体感という提案は、多くのファンを惹きつけました。結果としてこのコンセプト自体は市販化されませんでしたが、「操る喜び」を電動化時代へ受け継ぐという思想は、2025年に復活したプレリュードや、ホンダが約束するBEVスポーツへと引き継がれようとしています。小さな電動スポーツで自分を旅へ連れ出す——その夢が現実になる日を、引き続き楽しみに待ちたいところです。