トヨタLQ

レクサスLQはなぜ登場しなかったのか LF-1 Limitless市販化説と商標放棄までの経緯

レクサスLQは結局登場したのか。2018年に出願された商標は使用されず放棄され、LF-1 Limitlessが市販名LQを得ることはありませんでした。フラッグシップ構想の行方と、LBXからLXまで7車種に広がった現在のレクサスSUVを解説します。

レクサスLQはなぜ登場しなかったのか LF-1 Limitless市販化説と商標放棄までの経緯

トヨタのコンセプトカー「LQ」は市販されないまま終了 レクサスLQも商標放棄で登場せず

2019年10月11日、トヨタが「新しい時代の愛車」をテーマに公表したコンセプトカー「LQ」。AIエージェント「YUI」とSAEレベル4相当の自動運転機能を積んだ4人乗りEVで、東京モーターショー2019とCES2020に出展されました。ただしトヨタは当初から市販の予定はないとしており、実際に市販モデルが登場することはありませんでした。予定されていた試乗会「トヨタYUIプロジェクトTOURS 2020」も開催されていません。

一方、これとは別に「レクサスLQ」という車名が話題になった時期があります。2018年5月にレクサスが米国で「LQ」を商標登録し、フラッグシップSUVの車名になるとみられていたものです。こちらは商標が放棄され、LQを名乗るレクサス車は生まれませんでした。同じ2文字ですが、トヨタのコンセプトカーとレクサスの車名構想は別の話です。ここでは両方の顛末を整理します。

レクサスLQは商標が放棄され登場せず フラッグシップBEV構想はLF-ZLへ

レクサスが2018年5月7日に米国特許商標庁(USPTO)へ出願した「LQ」の商標は、その後使用の証拠が提出されないまま放棄されました。商標を維持するには実際に使用している証拠の提出が必要ですが、それが行われなかったということです。これにより、レクサスがLQという車名の市販車を出す道は事実上閉じられました。

では、LQが担うはずだったフラッグシップの構想はどこへ向かったのか。ひとつの答えが、2023年10月25日にジャパンモビリティショー2023で世界初公開されたBEVフラッグシップコンセプト「LF-ZL」です。全長5,300mmという堂々たるサイズを持ち、次世代EVプラットフォームを前提としたモデルで、レクサスの将来像を示す存在として披露されました。ただし商標の件もあり、LF-ZLがLQを名乗って市販される可能性は低いとみられます。

結果として、LF-1 Limitlessが提示した「フラッグシップ・クロスオーバー」という方向性は、特定の一台に集約されるのではなく、レクサスのSUVラインアップ全体の厚みとして具現化しました。2023年から2024年にかけてLBX、LM、GXが相次いで投入され、日本で選べるレクサスSUVは大幅に増えています。

トヨタLQは市販されず YUIプロジェクトTOURS 2020も開催されないまま役目を終えた

LQは2020年1月のCES2020に出展されたあと、東京オリンピック・パラリンピックに合わせた活躍の場が用意されていました。2020年6月から9月にかけて、MEGA WEBとお台場・豊洲周辺の公道を使った試乗会「トヨタYUIプロジェクトTOURS 2020」を開催し、聖火リレーの隊列車両にも導入する計画です。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大と東京オリンピックの延期により、これらの計画はいずれも実施されませんでした。さらに拠点として想定されていたMEGA WEBは2021年末に閉館。LQが公道で人を乗せる機会は失われました。2023年4月の時点でも、トヨタからLQのその後に関する正式なコメントは出ていません。

もっとも、トヨタは東京モーターショー2019の時点で市販の予定はないと明言していました。開発責任者の井戸大介氏は、LQの意義を人材の育成や教育にあると説明しています。AIに関わるソフトウェア技術者が開発の中心を担い、YUIと関連サービスではJTBやNTTドコモ、自動バレーパーキングではパナソニックと組むなど、次世代技術を外部企業と連携して作り上げる訓練の場でもあったということです。市販車としての成果ではなく、開発体制づくりの成果を狙ったプロジェクトだったと言えます。

なお、LQは走れるクルマでした。原型となった「TOYOTA Concept-愛i」がモックアップで走行できなかったのに対し、LQは国内法規をクリアした公道走行可能な実車として仕立てられています。2020年に放送された特撮ドラマ『ウルトラマンZ』には、ナンバープレート付きの劇中車として登場しました。

LQは先進AI「YUI」を搭載し未来の愛車体験コンセプトを提示した

コンセプトカー「LQ」のエクステリアコンセプトカー「LQ」のエクステリア

LQは2017 International CESで発表されたコンセプトカー「TOYOTA Concept-愛i」をベースに、さらに進化した未来の愛車体験コンセプトを具現化したモデルです。「新しい時代の愛車(Beloved Car)を提案するきっかけ(Q/Cue)」となるよう思いを込め、”LQ”と名付けられました。

トヨタ LQのサイドビュートヨタ LQのサイドビュー

トヨタ LQのリヤビュートヨタ LQはエクステリアのどこを見ても近未来的なデザインになっている

ドアの下部までがガラス張りとなった先進的なエクステリアデザインが特徴です。ラジエーターファンにはオゾンを分解する大気浄化塗料が塗布されており、この塗料はLQだけでなく、その他の一般車両への採用も検討されていました。

コンセプトカー「LQ」のインテリアコンセプトカー「LQ」のインテリア

LQに搭載されたYUIは、TOYOTA Research Instituteとの共同開発で生まれたAIエージェントです。ドライバーの動作・表情から精神や心身の状態を推測し、そのデータをもとに車内の空調やイルミネーション等のHMIをコントロールして、走行中に適した状態を維持します。細かなニーズに対応し、プレミアムな移動体験を提供することを狙ったものでした。

LQのメーターは、JOLEDとデンソーの共同開発により生み出された車載用フレキシブル有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイに組み込まれています。形状の自由度が高く薄型かつ軽量、ハイコントラストで高速応答を得意とするフレキシブル有機ELディスプレイは、LQが描いた未来を感じさせる空間づくりに相応しい製品でした。有機ELメーターの採用は、当時のトヨタ車として初となります。

また、LQはSAEレベル4相当の自動運転機能を備えるほか、パナソニックと共同開発のヘッドアップディスプレイや無人自動バレーパーキングシステム、トヨタ紡織との共同開発で世界初採用となる覚醒・リラックス誘導機能付きシートを搭載していました。

LQに搭載されたDigital Micromirror Device(デジタルマイクロミラーデバイス)式ヘッドライトLQに搭載されたDigital Micromirror Device(デジタルマイクロミラーデバイス)式ヘッドライト

ヘッドランプには、100万個ものミラーを搭載するデジタルマイクロミラーデバイス式ヘッドライトを採用。路面に文字や図形を表示することで、路面状況の把握を容易にする仕組みです。

LQの諸元表
全長 4,530mm
全幅 1,840mm
全高 1,480mm
ホイールベース 2,700mm
乗車定員 4人
パワートレーン EV
車両重量 1,680kg
航続距離 300km程度
トヨタLQをめぐる主な動き
年月内容
2017年1月原型となる「TOYOTA Concept-愛i」を2017 International CESで公開
2019年10月11日コンセプトカー「LQ」を公表
2019年10月24日〜11月4日東京モーターショー2019のMEGA WEB会場「FUTURE EXPO」に出展
2020年1月CES2020(米ラスベガス)に出展
2020年6月〜9月「トヨタYUIプロジェクトTOURS 2020」を予定していたが、コロナ禍と東京オリンピック延期により開催されず
2020年特撮ドラマ『ウルトラマンZ』にナンバー付きの劇中車として登場
2021年12月活動拠点として想定されていたMEGA WEBが閉館

LQはレクサスのフラッグシップSUVになるとみられていた

ここからは、レクサスLQという車名がなぜ話題になったのか、その経緯を振り返ります。

2018年にデトロイトモーターショーでワールドプレミアされた「Lexus LF-1 Limitless(レクサス LF-1 リミットレス)」の市販化が、当時現実味を帯びていました。

2018年5月の初旬にレクサスが米国特許商標庁(USPTO)へ「LQ」の商標を出願。車名の先頭に「L」があるのはセダンのLS、クーペのLC、SUVのLXのみで、レクサスの最上級のフラッグシップモデルに与えられるイニシャルです。

そのため、この「LQ」はレクサスSUVの頂点に立つモデルの車名になるとみられていました。以下では、レクサスLQと目された「LF-1 Limitless」の内容を振り返ります。

LF-1 limitless(リミットレス)とLQの関連性はどう見られていたのか

レクサスLQの市販モデルとみられていたLF-1 リミットレスのフロントマスクLQとして市販されるとみられていたLF-1リミットレス スピンドルグリルのデザインも一新されている

LF-1 リミットレスの全体像全体的に流麗なデザインを採用し、スピンドルグリルの延長線がフロントガラスまで伸びているのが特徴的

LF-1 リミットレスのテールランプ立体的なテールランプ 左右を繋いだデザインはUXにも似ている

レクサスが「LQ」を出願したのは2018年5月の初め。LF-1 リミットレスの世界初公開は同年1月14日、アメリカのデトロイトモーターショーでした。デザインを担当したのは、米国・南カリフォルニアに拠点を置くCALTY DESIGN RESEARCHです。

LF-1 リミットレスのコンセプトは次の2点でした。

  • 新しいラグジュアリーの方向性を提案
  • 次世代デザインや先進技術の可能性を提示

このことからフラッグシップモデルと目されたLQとタイミングもコンセプトも一致すると受け止められ、自動運転技術を搭載したモデルになるとみられていました。

そして「LQ」の持つ「L」は、レクサスでもフラッグシップモデルに用いられる英文字です。セダンのフラッグシップはLS、クーペのフラッグシップはLC、クロスカントリーのフラッグシップはLX。ここにLQが加わればSUVの頂点を示すことになる、という読み筋でした。しかしこの商標は使用されないまま放棄され、LQを名乗るレクサス車は登場していません。

レクサスのSUVはLQを待たずにフルラインナップへ

当時、日本で販売されるレクサスのSUVはコンパクトサイズのNX、ミドルサイズのRX、本格的なオフロード走行も可能なフルサイズクロスカントリーのLXという構成でした。海外ではランドクルーザー プラドをベースにしたGXもありましたが、日本では販売されていません。そこへ2018年11月27日、NXよりもコンパクトなUXが加わっています。

その後、レクサスのSUVはLQを待たずに拡充が進みました。2023年にはコンパクトSUVのLBXが加わり、2024年6月上旬には3代目となるGXがついに日本発売(1,195万〜1,270万円)。BEV専用のRZも加わり、日本で選べるレクサスSUVは7車種体制になっています。パワートレインもガソリン、ハイブリッド、PHEV、BEVと幅広く、当初「LQで揃う」とされていたフルラインナップは、別の車名の組み合わせで実現した形です。

レクサスのSUVラインアップ(日本)
車種位置づけ
LBXブランドのエントリーを担うコンパクトSUV
UXコンパクトクロスオーバー(2018年11月27日に日本発売)
NXミドルサイズSUV。PHEVも設定
RZBEV専用SUV
RXレクサスSUVの中核を担うミドル〜ラージSUV
GXラダーフレーム構造のプレミアムオフローダー(2024年6月上旬に日本発売、1,195万〜1,270万円)
LXラダーフレーム構造のフルサイズフラッグシップオフローダー

なお、3列シートを備えたTXは北米などが中心で、日本には導入されていません。ラダーフレーム構造を持つGXとLXは、モノコックのSUVとは別路線のクロスカントリー系として、そのまま販売が継続されています。

LQという車名は残らなかったが、示された技術は各モデルへ

トヨタLQ

トヨタのコンセプトカーLQは、市販化されないまま役目を終えました。レクサスLQも商標が放棄され、その車名の市販車は生まれていません。LQという2文字は、トヨタ・レクサスのどちらでも量産車の車名として使われなかったことになります。

とはいえ、LQが提示した要素が消えたわけではありません。有機ELを含む大型ディスプレイ、路面へ情報を投影する先進ヘッドランプ、ドライバーの状態を読み取って車内環境を整える発想、駐車場での自動バレーパーキングといった技術は、その後のトヨタ・レクサス車やソフトウェア開発の流れに引き継がれています。フラッグシップSUVをめぐる構想も、LBXからLXまで7車種に広がったレクサスのSUVラインアップと、2023年に公開されたBEVコンセプトLF-ZLという形で受け止められました。

コンセプトカーは市販化されて初めて価値が生まれるものではありません。LQは、トヨタがソフトウェア人材と外部連携の体制を築くための実験台でもありました。その意味では、車名が残らなかったこと自体は、このプロジェクトの評価とは別の話だと言えます。