インフィニティの電動化戦略と新型EV計画の全容
日産自動車は2018年1月のプレスリリースで、世界展開する自社のラグジュアリーブランド「インフィニティ」から発売する新型車を電動化する方針を発表しました。その後も電動化戦略は段階的に拡張され、現在も継続的に進化しています。
本記事では、インフィニティの電動化戦略の経緯と現状、e-POWERの技術的特徴、そしてEVコンセプトカーの概要までをまとめて解説します。
インフィニティが発表した新開発電動パワートレインの概要
2019年11月4日、インフィニティは新型EV市販車に搭載する電動パワートレインを発表しました。新開発のパワートレインはピュアEVとe-POWERの2タイプをラインナップし、インフィニティ向けe-POWERエンジンには「MR15DDT」型を採用。振動や騒音を防ぐ世界初の技術を投入しています。
電動車向けプラットフォームはフロント・リアのアクスルにそれぞれ高出力モーターを搭載可能な設計とし、最大出力はモデルによっては約429hp(約317kW)まで引き上げられます。高出力バージョンでは0〜100km/h加速4.5秒を実現し、EVでは車両フロア下に大容量バッテリーパックを配置します。
| 発表日 | 2019年11月4日 |
|---|---|
| パワートレインタイプ | ピュアEV、e-POWER(ハイブリッド)の2タイプ |
| エンジン型式(e-POWER) | MR15DDT |
| エンジン特徴 | 振動・騒音低減の世界初技術を採用 |
| モーター搭載 | フロント・リアアクスルに高出力モーター搭載可能 |
| 最大出力 | モデルによって最大約429hp |
| 加速性能 | 高出力モデルは0〜100km/h加速4.5秒 |
| バッテリー配置 | 車両フロア下に大容量バッテリーパック搭載 |
インフィニティ「プロジェクト・ブラックSプロトタイプ」の概要
インフィニティは、2ドアスポーツクーペ「Q60」をベース車両とした「プロジェクト・ブラックSプロトタイプ(Infiniti Project Black S Prototype)」を公表しました。同モデルの開発は、インフィニティが掲げる「全車種への電動パワートレインモデル追加」計画の一環として位置付けられていましたが、その後の公開情報では市販化には至らなかったとみられています。
パワートレインにはF1のデュアルハイブリッド電動パワートレイン技術を投入し、直噴3.0リットルV型6気筒ガソリンツインターボエンジンに「ERS(エネルギー回収システム)」とモーター発電機ユニット3つを搭載。加速とブレーキで生成した電気エネルギーを車両後部の4.4kWhリチウムイオンバッテリーへ蓄電する構成で、0〜100km/h加速4秒以下、最大出力571psを発揮します。
空力面ではルノースポールF1と同等の性能を目指し、デジタルモデリング技術で設計されたウィング形状が高い走行安定性と優れたコーナリング性能を実現。ブレーキにはカーボンセラミックを採用しています。
| ベース車両 | Q60(2ドアスポーツクーペ) |
|---|---|
| 市販化状況 | 市販化には至らなかったとみられる |
| パワートレイン | F1デュアルハイブリッド電動パワートレイン技術採用 |
| エンジン | 直噴3.0リットルV6ツインターボ |
| 電動システム | 3つのモーター発電機ユニット+ERSエネルギー回収システム |
| バッテリー | 4.4kWhリチウムイオン(車両後部搭載) |
| 加速性能 | 0〜100km/h加速4秒以下 |
| 最大出力 | 571ps |
| 空力性能 | ルノースポールF1並み。デジタルモデリングで設計されたウィング形状 |
| ブレーキ | カーボンセラミック採用 |
インフィニティの電動化戦略「Nissan Ambition 2030」と最新動向
インフィニティは2019年のデトロイトモーターショーでブランド初の100%EV市販モデルを示唆したミドルサイズSUVコンセプトカー「QXインスピレーション」を披露し、電動化へのシフトを明確にしました。その後、日産は2021年に長期電動化計画「Nissan Ambition 2030」を発表。同計画ではインフィニティを含むグループ全体で2030年までに15車種のEVを市場投入し、2026年までにe-POWER搭載モデルなど全20車種を導入するとしています。
具体的な新型モデルとしては、EVコンセプトカー「Vision Qe(セダン)」と「Vision QXe(クロスオーバー)」が公開されており、量産モデルの方向性を示す内容となっています。また、フラッグシップSUV「QX80」は2024年にフルモデルチェンジを実施し北米市場で発売済みです。さらに、新型ミドルサイズクロスオーバークーペ「QX65」も2026年度に投入が予定されており、ラインナップの拡充が進んでいます。
| 長期計画 | Nissan Ambition 2030(2021年発表) |
|---|---|
| EV投入目標 | 2030年までに15車種のEVを市場投入 |
| 電動モデル全体 | 2026年までにe-POWER搭載モデルを含む全20車種を導入 |
| EVコンセプトカー | 「Vision Qe」(セダン)・「Vision QXe」(クロスオーバー)を公開済み |
| 新型QX80 | 2024年にフルモデルチェンジ実施・北米市場で発売済み |
| 新型QX65 | 2026年度に投入予定のミドルサイズクロスオーバークーペ |
インフィニティが電動化することでクリーンなブランドイメージが加わる
インフィニティの電動化が進むことで、同ブランドにはラグジュアリーカーとしてのブランド力に加え、環境性能の高さを示すクリーンなイメージも付加されます。ドイツのプレミアムブランドとの差別化を電動化で図る戦略は、環境意識の高い富裕層ユーザーへの訴求力を高める点でも有効です。
| 既存イメージ | ラグジュアリーブランドとしてのプレミアム感 |
|---|---|
| 電動化で付加されるイメージ | 環境性能の高さを示すクリーンなブランドイメージ |
| 戦略的位置付け | ドイツ系プレミアムブランドとの差別化を電動化で実現 |
インフィニティにも搭載される「e-POWER」の魅力
日産の先進技術「e-POWER」は、小型ガソリンエンジンを発電専用として使い、高出力バッテリーに電力を供給してモーターを駆動させる独自のシステムです。外部電源への充電が不要でありながら、100%モーター駆動による力強くスムーズな走りを実現しています。
インフィニティの現行モデルで好評を得ているスムーズな加速性に、e-POWERの電動走行技術を組み合わせることで、ドライバーはこれまでにないレベルの電動走行体験を得られます。
| 技術概要 | 小型ガソリンエンジンを発電専用に使用し、高出力バッテリーへ電力供給するシステム |
|---|---|
| 走行の特徴 | 外部電源不要でEVの爽快感と100%モーター駆動の走りを体感可能 |
| インフィニティとの組み合わせ効果 | スムーズな加速性に電動走行技術を加えた新次元のドライビング体験 |
e-POWERは静粛性と低燃費も実現する技術
日産のノートをはじめ多くの車種に搭載されてきたe-POWERは、エンジンで発電した電力でモーターを駆動させる仕組みで、外部充電は不要です。
その優位性は動力性能にとどまらず、2.0Lターボエンジンに匹敵する加速力と最大トルクを持つモーター性能、モーター特性を活かした静粛でなめらかな走行感覚、そしてエンジンを発電専用とすることで実現する優れた燃費効率も大きな魅力です。なお、第3世代e-POWERシステムでは現在の第2世代システムと比べて高速走行時の燃費を最大15%向上させることを目指しており、新しいe-POWER専用1.5リッターエンジンを採用しています。
| 基本仕組み | 外部電源不要で、エンジンが発電した電気でモーターを駆動 |
|---|---|
| 加速力・トルク | 2.0Lターボエンジンに匹敵する加速性能と最大トルクを発揮 |
| 静粛性 | モーター特性を活かした静かで快適な走行が可能 |
| 燃費性能 | エンジンを発電専用とすることで優れた燃費効率を実現。第3世代では高速走行時の燃費を最大15%向上させることを目指している |
ルノー・日産・三菱アライアンスによるEV強化計画
ルノー・日産・三菱アライアンスは2017年9月、共同の中期経営計画「アライアンス2022」を発表しました。同計画では、複数の車種で展開可能なEV専用共通プラットフォームの実用化、100%EVの12車種発売、15分間の急速充電での走行距離を90kmから230km(NEDCモード)へ延長すること、そして航続距離600kmの達成などを目標に掲げていました。
アライアンス2022の目標期間は終了していますが、グループのEV推進の取り組みはその後も「Nissan Ambition 2030」として継続・拡大されており、インフィニティを含む電動化モデルのラインナップ整備が進んでいます。
| 計画名 | アライアンス2022(2017年発表) |
|---|---|
| 主な目標 | EV専用共通プラットフォームの実用化・100%EV12車種発売 |
| 充電性能目標 | 15分の急速充電で走行距離を90kmから230kmへ延長(NEDCモード) |
| 航続距離目標 | 航続距離600kmの達成 |
| 現在の状況 | 「Nissan Ambition 2030」として電動化計画を継続・拡大中 |
インフィニティは電動化でブランド力を強化し続けている
日産のラグジュアリーブランド・インフィニティは、2018年の電動化宣言から段階的に計画を進化させ、現在は「Nissan Ambition 2030」のもと2030年までに15車種のEVを市場投入する長期目標を掲げています。フラッグシップSUV「QX80」のフルモデルチェンジや新型「QX65」の投入予告など、実際のラインナップ拡充も着実に進んでいます。
トヨタのラグジュアリーブランド「レクサス」など競合と比較した際のブランド認知度という課題は残りますが、電動化による環境イメージの付加と高性能パワートレインの開発によって、インフィニティはグローバル市場での存在感を高めようとしています。日産のe-POWER技術が今後インフィニティのラインナップに本格展開された際に、そのブランド力がどこまで強化されるか引き続き注目されます。