ブガッティ シロンとは:世界最高出力を誇るハイパーカーの全貌
ブガッティ・シロンは、フランスのブガッティ・オトモビル(フォルクスワーゲングループ傘下)が2016年から販売を開始した限定500台のハイパーカーです。先代の市販車世界最高速記録保持車・ヴェイロンの後継として開発され、W型16気筒8.0L クワッドターボエンジンから最高出力1,500馬力を発生させます。
車名の「シロン」は、1920〜30年代にブガッティのワークスドライバーとしてモナコGPなど数々のモータースポーツで輝かしい成績を残したレーシングドライバー、ルイ・シロンを称えて命名されました。
販売価格は260万ユーロ(参考:1ユーロ160円換算で約4億1,600万円)。フェラーリやランボルギーニと比べると日本での認知度は低めですが、その希少性と性能の次元はまったく異なります。シロンは生産台数500台、製造期間は1台あたり半年以上というハンドメイドの工業製品として、世界の富裕層のみが手にできる別格の存在です。
ブガッティ シロンの基本スペック
シロンの主要スペックは以下のとおりです。燃費4.4km/Lという数値は、フルパワーで走り続けた場合、100kmあたり約22.7Lを消費することを意味します。レギュラーガソリン換算ではなく、シロンが指定する無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)を使用した場合、100kmの走行だけで約5,000円以上のガソリン代がかかる計算になります。
| 全長 | 4,544mm |
|---|---|
| 全幅 | 2,038mm |
| 全高 | 1,212mm |
| ホイールベース | 2,711mm |
| 車両重量 | 1,995kg |
| 乗車定員 | 2名 |
| エンジン | W型16気筒 8.0L クワッドターボ |
| 総排気量 | 7,993cc |
| 最高出力 | 1,500ps / 6,700rpm |
| 最大トルク | 163.1kgm(1,600Nm)/ 2,000〜6,000rpm |
| トランスミッション | 7速デュアルクラッチ(DSG) |
| 駆動方式 | 4WD(AWD) |
| 0〜100km/h加速 | 2.5秒未満 |
| 0〜200km/h加速 | 6.5秒未満 |
| 0〜300km/h加速 | 13.6秒未満 |
| 最高速度(リミッター付き) | 420km/h |
| 燃費 | 4.4km/L |
| 燃料 | 無鉛プレミアムガソリン |
| 販売価格 | 260万ユーロ(約3億3,800万円〜、為替により変動) |
先代ヴェイロンとの比較では、最高出力はヴェイロン最終型の1,200psから300ps向上し、車両重量はヴェイロンの1,840kgから155kg増の1,995kgとなりました。重量増にもかかわらず加速性能が向上しているのは、エンジン出力の増大とトランスミッションの改良によるものです。
W型16気筒エンジンの構造と冷却システム
シロンが搭載するW16エンジンは、一般的なV型エンジン2基をコンパクトに統合したような構造で、16気筒を狭いエンジンルームに収めることを可能にしています。4基のターボチャージャーを組み合わせたクワッドターボ仕様で、2,000rpmという低回転域から163kgmという最大トルクを発生し、6,000rpmまで維持し続けます。フェラーリの主力モデルの最大トルクが概ね80〜100kgm程度であることと比べると、その違いは数値以上に体感的な差として現れます。
1,500馬力のエンジンが発生する熱量は通常のスポーツカーとは桁違いです。シロンはこの熱をいかに効率的に排出するかという点にも、エクステリアデザインの根拠があります。サイドボディに設けた大型エアインテーク、ヘッドライト横の開口部、リアエンドに乱気流を意図的に発生させるデザインは、すべてエンジン冷却のための機能的な設計です。エンジン内部のラジエーターをはじめとする冷却装置も、ブガッティ社は市販車として世界最高水準の性能と説明しています。
デスバレーでの過酷な耐久テスト
シロンは、世界一過酷な環境として知られるアメリカのデスバレー砂漠で約1ヶ月・走行距離35,000kmにわたる耐久テストを実施しています。日によっては気温50度を超える環境下で、故障することなく走り切りました。35,000kmという距離は、東京〜大阪間の往復を約43回繰り返す距離に相当します。
このテストが重要なのは、シロンの性能が「直線の最高速度だけではない」ことを証明した点です。コーナリング時のボディコントロール、高温環境でのエンジン安定性、長距離での信頼性という3点が確認されました。3億円超の車に求められるのは、記録の数字だけでなく実際に使える信頼性です。
プロトタイプによる最高速記録:490.48km/h
2019年9月2日、ブガッティはシロンのハイパフォーマンスモデル「シロン・スポーツ」の開発車両(プロトタイプ)が、ドイツのエーラ・レッシエン・テストコースで490.48km/hを記録したと発表しました。この記録は、ハイパーカーとして初めて483km/h(300マイル)の壁を突破したものです。
この計測では、8.0L W16気筒4ターボを2ステージターボ化し、7速デュアルクラッチDSGを組み合わせた仕様を使用。最高出力は1,500ps/6,700rpm、最大トルクは163kgm/2,000〜6,000rpmです。なお、この記録はFIA(国際自動車連盟)の公認記録ではなく、往復平均値の認定を受けていないため、公式の市販車最高速記録とは異なります。
| 計測日 | 2019年9月2日 |
|---|---|
| 対象車両 | シロン・スポーツ開発車両(プロトタイプ) |
| 計測速度 | 490.48km/h |
| 計測場所 | ドイツ・エーラ・レッシエン テストコース |
| 意義 | ハイパーカーとして初めて483km/h(300マイル)の壁を突破 |
ブガッティ シロンのエクステリア:クラシックと機能美の融合

シロンのボディフレームはカーボンファイバー製で、車両重量1,995kgの大部分をカーボンモノコックが支えています。1,500馬力のエンジンを積んだ車体を制御するために必要な剛性を、カーボンの採用によって軽量に確保しています。
フロントグリルはブガッティ伝統の馬蹄型デザインをセンターに、両サイドには長方形グリルを組み合わせた構成です。この馬蹄型グリルはブガッティが1900年代初頭から採用してきたデザインアイコンで、現代のシロンに至るまで受け継がれています。

ルーフからリアエンドへと続くセンターラインは、1930年代の名車「タイプ57アトランティック」のデザインを現代的に解釈して取り入れたものです。このラインは復古的な意匠に留まらず、高速走行時に車体に生じる揚力を調整し、左右への横ぶれを抑制する空力的な機能を持っています。

リアには細長い一直線のテールランプを採用。フロント・サイド・リアのスポイラーが連続して流れるようなシルエットは、エアロダイナミクスと造形美を同時に追求した結果です。
| ボディ素材 | カーボンファイバー製モノコックフレーム |
|---|---|
| フロントグリル | ブガッティ伝統の馬蹄型(センター)+長方形グリル(両サイド) |
| センターライン | タイプ57アトランティックをインスパイア。高速時の揚力調整・横ぶれ抑制機能を兼備 |
| 冷却のためのエアロ設計 | 大型サイドエアインテーク、ヘッドライト横開口部、リアエンドの乱気流発生デザイン |
| テールランプ | 細長い一直線型 |
ブガッティ シロンのインテリア:機能と職人技が同居するコクピット

シロンのインテリアは、ドライバーが500km/hに迫る速度で運転する状況を想定したコクピット設計と、3億円超の購入者が要求する最高級の素材感を両立しています。本革(標準はベージュを含む複数カラーから選択)を基調とし、各部にアルミニウムを配置しています。アルミニウムのパーツはあえて光沢を抑えたマット仕上げとすることで、派手さより品格を優先した設計になっています。

シートとシートの間を仕切る位置には、ルームランプが一本のラインとして配置されています。センターコンソールのシフトバーはシャープな造形で、キャビンの奥行感を演出しながら車体剛性の確保にも寄与しています。サイドブレーキは電気式、エンジン始動はプッシュスタート方式を採用しています。

速度メーターは最高速度に合わせた表示域を持つアナログ式をセンターに配置し、周囲をデジタルディスプレイで囲む構成です。一般的な市販車のスピードメーターが180〜300km/hまでの表示であることと比較すると、500km/h近くまでをカバーするシロンのメーターは文字通り別次元の表示域を持っています。
| 内装素材 | 本革(複数カラーから選択可)、マット仕上げアルミニウム |
|---|---|
| シート | 電動調整機構付き |
| センターコンソール | シャープなシフトバー配置。キャビン奥行演出と車体剛性を兼ねる設計 |
| サイドブレーキ・エンジン始動 | 電気式サイドブレーキ、プッシュスタート方式 |
| メーター | アナログ式センターメーター(500km/h近くまで表示)+周囲デジタル表示 |
ボディカラーは8タイプのツートンカラー標準設定+オーダーメイドも可能
ブガッティのコンフィギュレーターでは、ツートンカラーの組み合わせによる8タイプのボディカラーが用意されています。ブルー、レッド、ホワイト、ゴールド、シルバー、ブラックなど、いずれも上下・前後でカラーを変えることで彫刻的な立体感を強調する仕上げになっています。
北米に納車された第1号車はイエローとブラックのツートンカラーで話題を集めましたが、これはオーナーの要望に応じたカスタムオーダーです。ブガッティでは標準色の8タイプ以外にも、顧客のリクエストに応じたオーダーメイドのボディカラーに対応しています。車体価格3億円超に加え、カラーリングや素材のカスタムが加わると、最終的な車両価格はさらに高額になります。
シロンをベースにした派生・限定モデル
シロンをベースとする派生・限定モデルが複数展開されています。
シロン・ピュアスポーツ
シロン・ピュアスポーツのエクステリア
2020年3月3日に発表されたシロン・ピュアスポーツは、世界限定60台・価格は300万ユーロ(発表時レートで約3億5,800万円)の限定モデルです。エアロダイナミクス性能を徹底的に強化しており、専用グリル・大型エアインテーク・フロントリップスポイラー・リアウィングマウント・専用ディフューザー・チタン製エキゾーストパイプが装着されています。
シロン・ピュアスポーツのインテリア
インテリアはアルカンターラを採用してスポーツ性を強調し、ブルーのアクセントカラーをステアリングや各部に配しています。ドライブモードは「スポーツ+」を含む5種類から選択でき、高速コーナーでのドリフト走行にも対応しています。パワートレインは標準シロンと同じく8.0L W16気筒4ターボ(1,500ps)+7速DSGの4WDです。
| モデル名 | シロン・ピュアスポーツ |
|---|---|
| 発表日 | 2020年3月3日 |
| 限定台数 | 世界限定60台 |
| 価格 | 300万ユーロ(発表時レートで約3億5,800万円) |
| 主な変更点 | エアロダイナミクス強化(専用グリル・ディフューザー・チタン製エキゾーストパイプ等)、アルカンターラインテリア |
| パワートレイン | 8.0L W16気筒4ターボ(1,500ps)、7速DSG、4WD(標準シロンと同仕様) |
シロン・スーパースポーツ300+
シロン・スーパースポーツ300+のエクステリア
シロン・スーパースポーツ300+の特徴的なオレンジストライプ
シロン・スーパースポーツ300+は、前述の490.48km/h(300マイル超)という最高速記録を契機に市販化が発表された世界限定30台のモデルです。価格は約4.2億円。ボディはブラックベースにオレンジのストライプを走らせた専用デザインで、「世界最高速」と「直線」をイメージしています。ダラーラ社との共同開発により開発されました。
シロン・スーパースポーツ300+のインテリア
パワートレインは最高出力1,600psを発生する8.0L W16気筒クワッドターボで、標準シロンから100ps引き上げられています。インテリアもエクステリアと統一したブラック+オレンジの配色です。
| モデル名 | シロン・スーパースポーツ300+ |
|---|---|
| 限定台数 | 世界限定30台 |
| 価格 | 約4.2億円 |
| デザイン | ブラックボディ+オレンジストライプ。ダラーラ社との共同開発 |
| パワートレイン | 8.0L W16気筒クワッドターボ(1,600ps) |
シロンの販売価格と購入プロセス

シロンの販売価格は260万ユーロ(発表時1ユーロ130円換算で約3億3,800万円)で、為替相場によって円換算の価格は変動します。シリーズ全体の生産台数は500台限定で、製造はフランス・アルザス地方のモルスアイム工場で行われます。日本での販売は南青山に拠点を置くブガッティジャパン株式会社が担当しています。
購入はブガッティの既存顧客を優先にスタートし、完全オーダーメイド体制のため1台の完成まで6ヶ月以上を要します。購入希望者はまずブガッティジャパンに連絡を取り、資格確認の上でコンフィギュレーション(仕様決定)を行う流れになります。一般のスーパーカーのようにショールームで試乗して即決するという購入形態とは根本的に異なります。
| 販売価格 | 260万ユーロ(約3億3,800万円〜、為替により変動) |
|---|---|
| 生産台数 | シリーズ合計500台限定 |
| 製造場所 | フランス・モルスアイム工場 |
| 日本販売窓口 | ブガッティジャパン株式会社(南青山) |
| 納車までの期間 | オーダーから6ヶ月以上 |
ブガッティ シロンの維持費
シロンの維持費は車両価格に見合った水準です。車体を構成するパーツの多くが専用特注品であるため、一般的な整備工場では対応できません。以前はメンテナンスのためにフランス本国への空輸が必要でしたが、ブガッティジャパンの開設により国内での保守点検が可能になっています。
タイヤは約4,000kmごとに交換が必要で、1セットあたり300万円以上が目安です。4,000kmは一般的なドライバーが数ヶ月で走る距離ですが、シロンのオーナーがそれほど頻繁に乗り続けるかどうかは使い方次第です。メーカー点検費用は約200万円。オプションについては、内装のカーボンファイバー仕上げに数千万円、コンフォートシートのアップグレードで約300万円という費用感で、オプション総額だけで国産スポーツカー1台分の価格に達することも珍しくありません。
| タイヤ交換 | 約4,000kmごと、1セット300万円以上 |
|---|---|
| メーカー定期点検 | 約200万円 |
| 内装カーボン仕上げ(オプション) | 数千万円 |
| コンフォートシート(オプション) | 約300万円 |
| 保守点検対応 | ブガッティジャパン(南青山)にて国内対応可 |
シロンの後継モデル・ブガッティ トゥールビヨンについて

ブガッティは2024年、シロンの後継モデルとして「トゥールビヨン」を発表しました。V型16気筒自然吸気エンジン(8.3L、1,000ps)と電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載し、システム合計出力は1,800psに達します。シロンが追求した「W16ターボの頂点」から、トゥールビヨンは「V16ハイブリッドの頂点」へと進化する方向性で、ブガッティのハイパーカーは新たなフェーズへ移行しています。
シロン自体はすでに500台の生産枠が完売しており、新車での入手はできません。中古市場でも流通台数はきわめて少なく、日本国内への正規納車は数十台程度とされています。シロン・スーパースポーツ300+や限定モデルについては、程度の良い個体が出回った場合でも入手競争は熾烈です。























