空飛ぶ車

空飛ぶクルマの現在地 万博デモから商用運航まで、eVTOL各社の開発競争と日本の実装ロードマップ

日本でも実用化が見えてきた空飛ぶクルマ。国産SkyDriveが万博でデモフライトを実施し、官民ロードマップでは商用運航開始が2027〜2028年と明記されました。一方でLiliumやVolocopterが経営破綻するなど淘汰も進む各社の最新状況を、購入・ビジネス活用の視点から整理しています。

空飛ぶクルマの現在地 万博デモから商用運航まで、eVTOL各社の開発競争と日本の実装ロードマップ

「SKYDRIVE(SD-05)」——大阪・関西万博でデモフライトを実施、商用運航は2028年目標

充電中のSKYDRIVE(SD-05)空を、走ろう。をビジョンに掲げて開発される「SKYDRIVE(SD-05)」は、電気の力で空を飛ぶ小型モビリティ

SkyDrive(スカイドライブ)は「100年に一度のモビリティ革命を牽引する」を掲げ、トヨタのエンジニアらが参加して2018年に設立された日本のベンチャー企業です。物流ドローンを用いた災害時配送サービス「SkyLift Plus」を運営しながら、空飛ぶクルマの実用化を並行して進めています。

2025年4月の大阪・関西万博メディアデーで、主力機「SKYDRIVE(SkyDrive式SD-05型)」が初公開され、会場内でのデモフライトを実施。同年7月31日から8月24日にかけては一般向けデモフライトも行われました。飛行は高度約4m・飛行時間約3分間で、パイロットは搭乗せず遠隔操縦と自動制御による運航です。ヘリコプターと比べて騒音が3分の1以下に抑えられており、会場内での実機を間近で見た取材陣からは「思っていたより静か」という反応が相次いでいます。

SKYDRIVE(SD-05)の説明スズキの工場で製造される「SKYDRIVE(SD-05)」はTORAYやTHALESなど、国内外の大企業も事業開発に関わっている

SKYDRIVEは「SD-05」の実用化に向け、スズキグループと技術提携を結び静岡県の工場での製造を実施。ボディやローターフレームの素材はTORAY(東レ)、フライトコントローラーシステムはフランスのタレスグループからそれぞれ技術提供を受けており、国内外の大企業と幅広く連携しています。また近鉄グループ、Osaka Metro、JR東日本、JR九州と資本業務提携を締結しており、鉄道との連携による多様な移動ルートの実現も視野に入れています。

初回ロット分の機体価格は約150万ドル(約2億円)に設定され、国内外の企業や実業家向けに予約販売が始まっています。商用機を個人が日常使いするような価格帯ではなく、まずは事業者向けエアタクシーサービスの展開から普及を目指す戦略です。

製品名 SKYDRIVE(SD-05型)
開発企業 日本ベンチャー企業SkyDrive(トヨタエンジニア参画)
万博実績 2025年4〜8月、大阪・関西万博でデモフライト実施(遠隔操縦・自動制御)
価格・販売 初回ロット約150万ドル(約2億円)、予約販売開始済み
技術提携・製造 スズキグループ工場で製造、ボディ・ローターはTORAY、フライトコントローラーはタレスグループ
商用運航目標 型式証明取得後、2028年をめどに大阪エリアでの商用運航開始を目標
スズキグループの追加出資と製造本格化

スズキとSkyDriveのロゴスズキとSkyDriveは2022年3月に空飛ぶ車の事業化に向けて、技術提携などに関する協定を結んだ

スズキグループは2024年1月に第三者割当増資でSkyDriveに追加出資を実施。2022年3月に締結した技術提携協定をもとに、製造子会社「Sky Works」を共同設立し、2024年3月からスズキグループの静岡県工場で「SKYDRIVE(SD-05型)」の製造を本格開始しています。

ジムニーやアルトなど軽量・コンパクトな車づくりで培った製造ノウハウを、空飛ぶクルマの機体製造に応用するという組み合わせは、量産コスト低減の観点からも注目されます。SkyDriveは2025年7月、スズキ・JR東日本・JR九州などから総額83億円の資金調達も実施しており、事業基盤は着実に強化されています。

企業名 スズキグループ、SkyDrive
出資・資本関係 2024年1月に第三者割当増資でSkyDriveに追加出資。2025年7月に総額83億円の資金調達実施
技術提携 2022年3月に空飛ぶ車の事業化に向けた技術提携契約を締結
製造拠点 静岡県にあるスズキグループの工場(2024年3月より製造開始)
3人乗りへの仕様変更と航続距離の延伸

3人乗りのSKYDRIVE(SD-05型)「SKYDRIVE(SD-05型)」はドーム型ローターフレームとローターを曲面配置させるなどの改良を加える事で、3人乗りを可能とさせる

SkyDriveは2023年6月のプレスリリースで「SKYDRIVE(SD-05型)」の仕様変更を発表しました。マーケティング調査の結果、乗員3名(操縦士1名+乗客2名)の方が2名乗りより収益性が高いと判断し、最大搭乗人数を増やしました。独自開発のドーム型ローターフレームと曲面配置によって、機体のコンパクトさを維持しつつ3名乗りを実現しています。

航続距離も旧仕様の5〜10kmから約15kmへ延伸。エアタクシーとして「2地点間をつなぐ」実用的な用途には、まだ距離が短いという指摘も多く、SkyDrive CEOは「将来的には新大阪駅から大阪港バーティポートまで(約40〜60分の移動を)10数分で結びたい」と目標を語っています。この区間の直線距離はおよそ10〜15km程度であり、現仕様の航続距離でギリギリ届く水準です。型式証明取得後に改良が続くことで、さらに距離は伸びていく見通しです。

新仕様 旧仕様
機体サイズ(全長×全幅×全高) 約13m×13m×3m(ローター含む) 9.4m×9.4m×2.7m(ローター含む)
最大搭乗人数 3名(操縦士1名+乗員2名) 2名(操縦士1名+乗員1名)
燃料 バッテリー(電動) バッテリー(電動)
駆動方式 12基のモーター・ローター 2基のモーター・ローター
主要構造材料 複合材(CFRP)・アルミ合金など 複合材(CFRP)・アルミ合金など
最大離陸重量 1,400kg 1,100kg
最大巡航速度 100km/h(対気速度) 100km/h(対気速度)
航続距離 約15km 5〜10km
万博後の社会実装——型式証明と大阪ダイヤモンドルート構想

大阪・関西万博のイメージ空飛ぶクルマ「SKYDRIVE(SD-05型)」は大阪・関西万博で会場内ポートと会場外ポートとをつなぐ2点間での運航を実施する予定

SKYDRIVE(SD-05型)「SD-05」は大阪・関西万博の未来社会ショーケース事業のスマートモビリティ部門における空飛ぶクルマの運搬に係る事業者に応募して選定された

大阪・関西万博でのデモフライトを終えたSkyDriveは、次の重要なマイルストーンとして型式証明(TC)の取得に注力しています。2025年1月には国土交通省と型式証明取得に向けた必要事項について合意し、着実に手続きを進めています。目標は早ければ2026年中の型式証明取得で、その後2028年をめどに大阪エリアでの商用運航開始を目指す計画です。

Osaka Metro(大阪市高速電気軌道株式会社)とは「大阪ダイヤモンドルート構想」を発表しており、「新大阪・梅田」「森之宮」「天王寺・阿倍野」「ベイエリア」の4エリアを空飛ぶクルマで結ぶ将来像を描いています。また、東京ビッグサイトを拠点にした都内飛行実証(2026年2月)でも、三菱地所・兼松とのコンソーシアムでSKYDRIVEが採用されるなど、関西にとどまらず首都圏での実装に向けた動きも本格化しています。

型式証明取得目標 早ければ2026年中(国土交通省と必要事項について2025年1月に合意済み)
商用運航目標 2028年をめどに大阪エリアで商用運航開始
大阪ダイヤモンドルート構想 Osaka Metroと連携し、新大阪・梅田/森之宮/天王寺・阿倍野/ベイエリアの4エリアを空路で結ぶ構想
東京での展開 2026年2月、東京ビッグサイトでの都内初飛行実証に参加(三菱地所・兼松とのコンソーシアム)

空飛ぶクルマが日本で実現する日——官民ロードマップと現実的な課題

スカイカーのイメージ

国土交通省と経済産業省が2026年3月に改訂した「空の移動革命に向けたロードマップ」では、商用運航の開始時期を2027〜2028年と明記しました。段階的なロードマップは「導入初期(2020年代後半)→成長期(2030年代前半)→成熟期(2030年代後半)→完成期(2040年代以降)」の4フェーズで構成されており、まずは限定エリアでの2地点間運航や遊覧飛行からスタートする計画です。

東京都も「空飛ぶクルマ実装プロジェクト」を推進しており、2026年度に実証飛行、2027年度に一部商用運航の実現を見込んでいます。臨海部や多摩川上空での飛行を想定し、日本航空と野村不動産がそれぞれ代表を務めるコンソーシアムが採択されました。

一方、現実的な課題として押さえておきたいのは次の点です。

  • 型式証明の取得難度:航空機として求められる安全証明は、自動車の型式指定とは比較にならない厳格さです。多くのeVTOL企業が「想定以上の時間とコスト」を吐露しており、Lilium・Volocopterの破綻もここが一因です。
  • 航続距離と充電インフラ:現在の電池技術では、eVTOLの実用的な航続距離は数十km程度にとどまります。都市内の短距離移動には対応できても、都市間移動はまだ先の話です。
  • バーティポート(離着陸場)の整備:ビルの屋上や河川敷など、新たな離着陸インフラの整備には用地確保から法整備まで多くのステップが必要です。
  • 社会受容性:騒音・安全性・プライバシーへの不安をどう解消するかも、普及の鍵を握ります。大阪・関西万博でのデモフライトは、その「体験価値」を社会に示す重要な機会でした。

空飛ぶクルマが「特別な乗り物」から「日常の選択肢」になるまでには、まだいくつものハードルを越える必要があります。しかし、国産機が万博で実際に飛び、東京での実証飛行が始まった今、そのタイムラインは確実に縮まっています。