Vモーショングリルは日産ブランドを象徴するデザイン
トヨタの「キーンルック」、レクサスの「スピンドルグリル」、三菱の「ダイナミックシールド」、マツダの「魂動デザイン」など、日本の自動車メーカー各社では、海外のブランドであるBMWの「キドニーグリル」やジープの「7スロットグリル」のように、ブランドを表すアイコンを新型車や改良モデルに採用しています。これにより、デザインによるブランドの統一感を図っています。
日産では「Vモーショングリル」と呼ばれるデザインを取り入れていて、2010年に新発売したジュークから採用が始まりました。その後、2013年にマイナーチェンジしたマーチや、フルモデルチェンジしたエクストレイルなど、新型に変わるたび続々と採用され、日産の顔としての地位を確立しました。
そのVモーショングリルは、メッキのV字を単に貼り付けた控えめなものから、グリル全体を囲む大型のものへ、さらに点の集合で描く「デジタルVモーション」へと姿を変えてきました。最新世代ではV字という形そのものから離れる動きも出ており、ブランドの顔をどう作るかという考え方が転換期に入っています。
Vモーショングリルとは?日産が2010年頃に採用し始めた共通のフロントグリルのこと
Vモーショングリルとは、日産が2010年代初期から採用している共通のフロントグリルデザインです。採用し始めた当初はエンブレムの周りを囲むように小さくデザインされていましたが、電動化が進むにつれて、リーフなどのモデルではグリル全体を囲み大型化し、目立つようにデザインされています。
Vモーショングリルを採用し始めた頃はマーチのように控えめなデザインでしたが、多数の人に認知されるにつれて、新型車やマイナーチェンジモデルでデザインを大きく変更し、存在感を増しています。実車を間近で見ると、初期のものはメッキのV字がグリルの枠に重ねて置かれている印象が強く、ボンネットやバンパーの面とは別の部品として目に映ります。
国内ラインナップでVモーショングリルを採用していない車種は限られます。過去に販売されていたキューブ、ウィングロード、ティアナ、シルフィ、ラフェスタハイウェイスターなどは、すでに日本での販売を終えているか、OEM元のデザインをそのまま使っていたモデルです。
プレミアムセダンのフーガやスポーツセダンのスカイラインは、北米の高級ブランドであるインフィニティのイメージを色濃く取り入れているため、Vモーショングリルのデザインを採用していません。スカイラインは2026年4月に現行型の生産を終え、次期モデルの登場が予告されています。スポーツカーについても、フェアレディZはそれぞれの個性を尊重したデザインを採用しており、GT-R(R35)は2025年8月26日に生産を終了しました。
日産ブランドの大半の車種はVモーショングリルを採用していますが、NV100クリッパーリオはスズキからのOEM、ラフェスタハイウェイスターはマツダからのOEMモデルだったため、Vモーショングリルを採用する可能性は低いままでした。自社で開発するモデルを中心に展開するという線引きが、ここに表れています。
Vモーショングリルの「V」が担うデザイン上の役割
Vモーショングリルの正体は、エンブレムを頂点として左右に広がるV字のラインです。日産はこのV字の開口角度と太さを車種ごとに変えることで、同じモチーフを使いながら車格や性格の違いを表現してきました。
Vモーションが果たす3つの役割
- エンブレムを頂点に置き、視線をブランドマークへ集める
- ボンネットからバンパーまでを1本の流れでつなぎ、前方への動きを表現する
- V字の角度と太さの調整で、車種ごとの性格を描き分ける
角度を鋭くすれば前傾した攻撃的な表情になり、寝かせれば落ち着いた広がりが出ます。太いV字は押し出しの強さにつながり、細く絞れば上品さが増します。商用バンからスポーツカーまで同じモチーフで展開できたのは、この可変性があったからです。
ただし初期のVモーションには弱点もありました。V字の頂点が中央に集まる構成は、顔の中心に視線を引き寄せる一方で、横方向への広がりを出しにくいという性質を持ちます。近年の車がワイド感を重視する流れの中で、この点が制約として表れるようになりました。
モデルチェンジ(改良)などに合わせてVモーショングリルを採用した日産の車種
2013年頃にマーチやエクストレイルに採用されて以降、他の車種もモデルチェンジやマイナーチェンジの段階で続々とVモーショングリルを採用しました。採用時期ごとにデザインの扱いが変わっていく過程が見て取れます。
コンパクトカーのマーチには、2013年6月の4代目後期型へのマイナーチェンジでVモーショングリルが採用されました。初期のVモーショングリルは、エンブレムの周りを囲むような比較的小さなデザインで、既存のグリル形状にV字の加飾を後から組み込んだ構成です。マーチは日本での販売をすでに終えています。
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2代目ノートに引き続きVモーショングリルを採用した3代目ノート -
3代目ノート -
3代目ノート
コンパクトカーのノートには、2016年11月の2代目後期型へのマイナーチェンジでVモーショングリルが採用され、その後フルモデルチェンジした3代目でも継承されました。エンジンで発電しモーターのみで駆動するシリーズ式ハイブリッドの「e-POWER」には、Vモーションに沿ってブルーラインの加飾が施されています。
コンパクトSUVのジュークには2010年の発売当初からVモーショングリルが採用されていて、デザインアイコンの先駆者でした。2014年7月のマイナーチェンジでは、Vモーションがより太いデザインに変更されています。初代をもって日本での販売は終了しました。
スーパーハイトワゴンの軽自動車であるデイズルークスでは、2016年12月のマイナーチェンジで後期型になった際に、Vモーショングリルをモチーフとしたグリルが採用されています。この車種は2020年に車名を「ルークス」へ改め、現在も日産の軽自動車ラインナップの中核を担っています。
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2代目デイズのVモーショングリル -
後ろから見た2代目デイズ -
2代目デイズ
2019年3月にフルモデルチェンジを実施して発売を開始した2代目デイズも、Vモーショングリルを大胆に導入しました。全長3,395mm以内という軽自動車の枠の中では、グリルの大型化が顔全体の印象を一気に変えます。限られた面積でブランドを示すという点で、軽自動車はVモーションの効果が最も分かりやすく出るカテゴリーです。
ミニバンのフラッグシップモデルであるエルグランドでは、2014年にマイナーチェンジして後期型となった際にエンブレムの周りにVモーショングリルをモチーフとしたデザインが採用されています。なお、エルグランドは2026年7月16日に16年ぶりのフルモデルチェンジを受け、4代目へと世代が変わりました。
ミニバンのセレナでは、2016年に5代目へとフルモデルチェンジした際にVモーショングリルが採用され、その後のモデルでもデザインを進化させています。標準グレードではVモーショングリルの上に1段のメッキパーツが、ハイウェイスターグレードでは2段のメッキパーツが装備されている違いがあります。同じ車種の中でグレードによる差を付ける際も、Vモーションの周囲に要素を足すという手法が使われました。
商用バンのNV350キャラバンでもVモーショングリルのデザインが採用されていて、2017年7月のマイナーチェンジでエンブレムの周りのデザインを変更しVモーショングリルを装備しました。この車種は2021年10月にガソリン車の車名が「キャラバン」へ戻され、2022年には全モデルが「キャラバン」へ移行しています。
2009年5月に発売された商用バンの初代NV200でも、Vモーションをモチーフとしたグリルが採用されています。ジュークより前のモデルであり、Vモーションという呼称が定着する以前から、V字の構成そのものは日産のフロントフェイスに現れていました。
2007年から販売されたGT-Rでは、2016年7月に行われた後期型へのマイナーチェンジでVモーショングリルが採用されました。独自の世界を持つスポーツカーにまで共通モチーフが及んだことで、Vモーションがブランド全体の記号として機能していることが明確になりました。R35型は2025年8月26日に生産を終了しています。
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4代目T33エクストレイル -
4代目T33エクストレイルのリヤ
ミドルサイズSUVのエクストレイルでは、2013年に行われた3代目のフルモデルチェンジでVモーショングリルが採用され、その後のモデルでデザインの大型化が進んでいます。2017年6月のマイナーチェンジで後期型になった際にはVモーショングリルがより一層大型化し、2022年登場の4代目T33型では、V字がボンネット先端まで届く構成へと発展しました。
ステーションワゴンの商用モデルADは、2016年11月のマイナーチェンジにより車名を「NV150」と改め、グリルの中は未塗装ですがVモーショングリルが採用されました。車名はその後2021年5月に「AD」へ戻されています。塗装やメッキを省いた仕様でも、V字の輪郭だけでブランドが伝わる点に、このモチーフの強さが表れています。
電気自動車のリーフでは、2017年9月にフルモデルチェンジして2代目になった際にVモーショングリルが採用されました。EVは冷却のための大きな開口を必要としないため、グリルは穴の開いた部品ではなく、面として閉じたクローズドタイプになっています。開口という機能から解放されたことで、Vモーションは純粋に造形として扱えるようになりました。
今後のVモーショングリルを予想させるコンセプトモデル
2017年のデトロイトモーターショーで発表された「Vモーション2.0」コンセプトは、Vモーショングリルが以前のモデルより非常に大型化されたデザインのセダンでした。V字がグリルの枠を越えてボンネットとバンパーの造形にまで食い込み、顔全体がVモーションそのものになるという提案でした。
この方向性は量産車にも反映されました。2代目リーフ、後期型のエクストレイル、ノートに採用されたVモーショングリルは、コンセプトと同様にV字が大型化し、ボンネットフードからの流れをそのままつなげた構成になっています。初期のように加飾を後から貼り付けた印象は薄れ、面の構成そのものがV字を描く段階へと進みました。
VモーショングリルからデジタルVモーションへ。3つの世代の変化
採用から15年以上が経ち、Vモーションは大きく3つの段階を経てきました。並べて見ると、グリルという部品の扱いそのものが変わってきたことが分かります。
Vモーションの3つの世代
- 第1世代:既存のグリル形状にメッキのV字を組み込む(マーチ、初代ジューク)
- 第2世代:ボンネットからバンパーまで面でV字を描き、大型化する(2代目リーフ、3代目エクストレイル後期型)
- 第3世代:点やスリットの集合でV字を構成するデジタルVモーション(ルークス、デイズ、ノート、オーラ)
デジタルVモーションという名称が公に使われたのは、2023年4月にマイナーチェンジしたルークスが最初です。その後デイズ、ノート、ノートオーラへと広がり、新世代のモデルにも展開されています。連続した1本のメッキ線ではなく、小さな要素の集まりでV字の輪郭を感じさせる手法で、点の密度を変えることでグラデーションのような表情が生まれます。
この変化の背景にあるのが、日産のデザインコンセプト「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」です。日本の伝統的な美意識を取り込み、余分な要素を削いだ面と繊細なラインで構成するという考え方で、太いメッキのV字より、細かい粒で構成された表現のほうが馴染みます。
そして最新世代では、V字という形から離れる動きも現れました。2026年7月に発売された4代目エルグランドは、フロントグリルに日本の伝統工芸「組子」をモチーフとした格子模様を採用し、クローム加飾に頼らない構成を取っています。日産の発表でもVモーションという語は使われておらず、グリルからシグネチャーランプ、さらにリアのコンビランプまで同じパターンでつなぐという方法でブランドを表現しています。
電動化でフロントグリルの役割はどう変わったのか
Vモーションの変化を理解するうえで欠かせないのが、グリルという部品が置かれた状況の変化です。
エンジン車のフロントグリルは、ラジエーターに走行風を通すための開口でした。必要な開口面積が決まっており、デザインはその制約の中で形を整える作業です。ところが電気自動車では冷却に必要な風量が大きく減り、開口そのものがほとんど要らなくなります。
さらに航続距離を伸ばすには空気抵抗を減らす必要があり、開口は積極的に塞ぐ方向へ向かいます。3代目リーフが空気抵抗係数0.26という数値を実現した背景にも、フラットなアンダーフロアやグリルシャッターといった空力対策があります。
結果として、グリルは「風を通す穴」から「ブランドを示す面」へと性格を変えました。穴がない以上、形を支えるのはメッキの輪郭か、面に刻まれたパターンか、点灯する灯体かのいずれかになります。デジタルVモーションのような点の集合や、組子のような格子模様が選ばれるようになったのは、この条件変化への答えという側面があります。
ランプの造形が顔の印象を決める割合も高まりました。昼間でも点灯するデイタイムランニングランプの形で車種を識別させる手法は各社が採っており、グリルだけでブランドを示す必要性は以前より下がっています。
他メーカーのデザインアイコンと比べたVモーションの特徴
グリルでブランドを示すという発想は日産だけのものではありません。各社の手法と並べると、Vモーションの位置付けがはっきりします。
| メーカー | 呼称 | 表現の軸 |
|---|---|---|
| 日産 | Vモーション、デジタルVモーション | エンブレムを頂点としたV字の連続。近年は点やスリットの集合で構成 |
| レクサス | スピンドルグリル | 紡錘形の輪郭。近年はボディの面で輪郭を描く手法へ展開 |
| マツダ | シグネチャーウイング | グリル上辺から灯体へ流れる翼状のライン。魂動デザインの一要素 |
| 三菱 | ダイナミックシールド | 前方を守る盾をモチーフとした構成 |
| BMW | キドニーグリル | 腎臓型の縦長グリル。EVでは閉じた面として造形 |
| ジープ | 7スロットグリル | 7本のスリット。ブランド識別の最小単位として機能 |
この中でVモーションの特徴は、形の自由度の高さにあります。キドニーグリルや7スロットグリルは形そのものが固定されており、サイズや比率は変えられても構成要素は動かせません。対してVモーションは角度と太さという2つの変数を持つため、軽自動車から商用バン、スポーツカーまで同じモチーフで展開できました。
その自由度は裏を返すと、記号としての強さがやや弱いということでもあります。角度や太さを変えすぎると、別の車の顔に見えてしまいます。日産が車種ごとの造形を大きく変えながらも一定の統一感を保ってきたのは、エンブレムを頂点に置くという一点を崩さなかったためです。
そして現在、各社とも単一のグリル形状に頼る手法から、ランプの造形やボディ全体の面構成まで含めてブランドを表す方向へ動いています。グリルだけが浮いて見えないトータルのデザインという考え方で、日産の最新世代もこの流れの中にあります。
Vモーショングリルは日産の顔として形を変えながら続いていく
2010年のジュークから採用が始まったVモーショングリルは、日産ブランドを象徴するデザインアイコンとして定着しました。メッキのV字を貼り付けた控えめなものから、顔全体をV字で構成する大型のものへ、さらに点の集合で描くデジタルVモーションへと、15年以上をかけて形を変えてきました。
その一方で、最新世代では変化の兆しが見えます。4代目エルグランドのように、組子をモチーフとした格子模様でフロントからリアまでを貫く手法が選ばれ、V字という輪郭そのものに頼らない表現が現れました。電動化によってグリルが風を通す穴である必要がなくなり、空力のために開口を塞ぐ流れが進んだことが、この転換を後押ししています。
フロントフェイスを見るときは、V字の輪郭だけでなく、ランプの形、面に刻まれたパターン、そしてそれらがどうつながっているかに目を向けてみてください。グリル単体ではなく顔全体でブランドを語るという方向へ、日産のデザインは次の段階に入っています。