ブレーキフルード(オイル)は車検時期を目安に定期的な交換が必要です
ブレーキオイルとも呼ばれるブレーキフルードは、油圧式ブレーキを作動させるために不可欠な作動油です。ブレーキフルードが劣化すると、ブレーキの効きが悪化する、といった現象につながります。
ブレーキフルードは、エンジンオイルに比べて交換頻度は少ないですが、保安部品であるブレーキの安全性を維持するために重要です。事故を未然に防ぐためにも、定期的な点検と交換が必要となります。
今回は、ブレーキフルードの役割やDOT規格について、カー用品店で交換する際の費用や作業時間の目安、交換時期を遅らせたときに起こり得る危険性など、ブレーキフルードに関わる情報を詳しく紹介します。
ブレーキフルードは油圧式ブレーキの圧力を伝える役割を担っています
ブレーキフルードは、自動車に一般的に採用されている油圧式ブレーキシステムに使用される作動油です。
油圧式ブレーキの機構では、ドライバーがブレーキペダルを踏むと、その力がマスターシリンダーを通じてブレーキフルードに伝わり、密閉された配管内のフルード全体に圧力が伝達されます。この圧力によって、ブレーキキャリパーなどのパーツが連動して動き、回転しているタイヤのブレーキディスクやドラムと接触します。
接触によって摩擦力が発生し、タイヤの回転が弱まることで車のスピードが落ちます。ブレーキフルードは、この重要な圧力を正確かつ確実に伝えるために必要な液体です。
ブレーキフルードは吸湿性により劣化するため、交換が必要です
ブレーキフルードの主成分であるグリコールエーテル系は吸湿性(水分を吸収する性質)が高いため、空気中の水分を徐々に吸収し、時間が経過するとともに劣化します。ブレーキフルードを交換する際の適切な量と時期について紹介します。
ブレーキフルードの交換量は車種により異なりますが、一般的に1L前後です
乗用車の場合、ブレーキフルードの全量交換の目安は、車種によって多少異なりますが、一般的に1L前後の量が必要です。
注意点として、劣化したブレーキフルードに新しいものを混ぜ合わせる「部分的な補充」は推奨されません。フルードを混合させた場合、その性能は新しいフルードの性能ではなく、水分が多く含まれた古いフルード(沸点が低下したもの)の性能に左右されてしまうためです。安全性を考慮すると、全て新しいフルードに入れ替える「全量交換」をおすすめします。
乗用車のブレーキフルードの一般的な交換時期は2年ごとです
ブレーキフルードの交換時期は、エンジンオイルに比べると頻繁ではないため、多くの車では車検のタイミングである2年ごとに交換されることが一般的です。
一般的には2年と言われていますが、フルードの吸湿量は運転環境や車の使用状況に左右されます。適切な交換時期を見定めるには、リザーバータンク内のフルードの色が一つの目安です。新品であれば鮮やかな黄色や無色に近い色をしていますが、劣化が進んだフルードは水分やサビの混入により茶褐色に濁ってきます。
ブレーキ性能は安全運転に直結するため、適切な時期での交換が事故リスクの低減につながります。
ブレーキフルードの交換費用は3,000円~5,000円台(カー用品店)が目安です
大手カー用品店にブレーキフルードの交換を依頼した際の工賃は、3,000円~5,000円台が目安です(別途フルード代が必要です)。作業時間も短時間で済みます。
ブレーキフルードの交換作業は、エア抜き(配管内に混入した空気を抜く作業)が必要であり、専門的な知識と技術が求められます。普段慣れない作業はプロの手に任せた方が無難です。
| カー用品店 | 工賃(1台あたり) | 作業目安時間 | 
|---|---|---|
| オートバックス | 4,400円~(税込)(店舗・車種により異なる) | 30分~ | 
| オートウェーブ | 4,950円~(税込) | 60分~ | 
| イエローハット | 3,300円~(税込) | 20分~ | ジェームス | 4,950円~(税込)(店舗・車種により異なる) | 30分~ | 
※上記は工賃のみの目安であり、フルード本体の費用や車種によっては追加料金が発生する場合があります。
ブレーキフルードの交換を怠ると「ベーパーロック現象」など故障の原因になります
ブレーキフルードを交換せずに使用し続けると、ブレーキシステムの内部にトラブルが発生し、事故につながる危険性があります。考えられる主なトラブルを紹介します。
1.ブレーキフルードの水分増加による「ベーパーロック現象」
ブレーキフルードの主成分であるポリグリコールエーテルは吸湿性があるため、使用期間が長くなるほど水分量が増加します。水分量が増えると、フルード本来の沸点が大幅に低下します。
一般的な車のブレーキシステムでは、強い制動時に大量の摩擦熱が発生します。フルードの沸点が低下している状況下で、山道などで連続したブレーキングを行うと、摩擦熱によりブレーキフルードが沸騰し、気泡(蒸気)が発生します。この気泡は圧力によって圧縮されやすく、ブレーキペダルを踏み込んでも圧力が適切に伝わらなくなるため、急激にブレーキ力が低下します。この現象は、専門的にはベーパーロック現象(ヴェイパーロック現象)と呼ばれています。
2.ブレーキシステム内部の錆の発生
ブレーキフルードの水分量が多くなると、ブレーキキャリパーやホイールシリンダーなどのブレーキシステム内部の金属部品に錆が発生しやすくなります。錆が進行すると、シリンダー内部のシール類を傷つけたり、錆そのものが原因で、内部からブレーキフルードが漏れ出してしまう可能性があります。
フルードが漏れ出すと、最終的には油圧が失われ、ブレーキが効かなくなるという重大な故障につながります。
ブレーキフルードのDOT規格 ~ 主成分と沸点・粘度の違い
市販車に使われるブレーキフルードの主流は、主にグリコールエーテルを主成分とするフルードです。これらのフルードは、「粘性が低い」・「圧力が加わっても体積の変化が小さい」・「低温でも凝固しにくい・高温でも沸騰しにくい」といった化学的な性質が求められます。
ブレーキフルードは、アメリカの交通省(Department of Transportation:DOT)が定める規格によって分類されており、主成分や性能(沸点、粘度)により、DOT3、DOT4、DOT5.1、DOT5などに分けられています。この規格は、日本におけるJIS規格のような国際的な基準です。
| 基準 | 主成分 | ドライ沸点 | ウェット沸点 | 粘度(-40℃) | 粘度(100℃) | 
|---|---|---|---|---|---|
| DOT3 | グリコールエーテル | 205℃以上 | 140℃以上 | 1,500cSt以下 | 1.5cSt以上 | 
| DOT4 | グリコールエーテル | 230℃以上 | 155℃以上 | 1,800cSt以下 | 1.5cSt以上 | 
| DOT5.1 | グリコールエーテル | 260℃以上 | 180℃以上 | 900cSt以下 | 1.5cSt以上 | 
| DOT5 | シリコン | 260℃以上 | 180℃以上 | 900cSt以下 | 1.5cSt以上 | 
ドライ沸点
吸湿率0%の状態(新品)の沸点です。この数値が高いほど、制動時の熱に対する耐久性が優れています。
ウェット沸点
吸湿率3.7%の状態(使用後の目安)の沸点です。吸湿による性能低下後の安全性を測る重要な指標となります。
粘度(cSt)
流動性(液体の滑らかさ)を示す数値です。特に低温時(-40℃)の粘度が低いほど、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)などの電子制御システムがスムーズに作動し、安定したブレーキ性能を発揮できます。
※DOT規格では、すべてのフルードでPh値(酸性・アルカリ性)が7.0~11.5の範囲内にあることが求められており、これにより金属部品の腐食を防いでいます。
※DOT3、DOT4、DOT5.1はグリコールエーテル系で互換性がありますが、DOT5はシリコン系であり、他のグリコールエーテル系のフルードとは絶対に混ぜることができません。特殊な車両以外では一般的に使用されません。
車のタイプに合ったブレーキフルードを選ぶ必要があります
ブレーキフルードを自分で選ぶ際には、ご自身の車に指定されているフルードの種類を確認することが大切です。
| 規格 | 主な特徴と用途 | 
|---|---|
| DOT3 | 一般的な小型車や軽自動車に指定されることの多い規格です。 | 
| DOT4 | DOT3より沸点が高く、高性能車や重量のある車、スポーツ走行をする車に適しています。 | 
| DOT5.1 | DOT4よりもさらに高性能で、特に低温時の粘度が低く、寒冷地での使用やABSの性能を重視する車に適しています。 | 
| DOT5 | シリコン系フルードで、クラシックカーなど特殊な車両に使用されます。グリコール系フルードとは混ぜられません。 | 
基本的には、自動車メーカーが指定する規格のフルードを使用し、より高い性能(沸点や粘度)を求める場合は、指定規格以上のDOT規格(例:DOT3指定車にDOT4)を選ぶことも可能です。
ブレーキの効きが悪くなったら、安全のためにすぐに点検・交換をしましょう
運転中にブレーキの効きが悪くなったと感じたら、ブレーキフルードの劣化が原因かもしれません。ブレーキフルードの交換は数年に一度の頻度ですが、交換時期を後回しにするとベーパーロック現象などの重大なトラブルにつながり、大きな事故を引き起こす危険性があります。
運転に自信のある方でも、ブレーキ系統に支障をきたしていれば、安全を確保することは困難です。事故を未然に防ぐためにも、ブレーキフルードの定期的な点検と、適切な時期での交換が求められます。
「ブレーキフルードの交換」に関連するFAQ
ブレーキフルードの交換目安は?
ブレーキフルードの交換目安は使用状況やDOT規格の種類によって変わりますが、年数で見た場合は2~3年がひとつの目安、走行距離で見た場合は1万kmを超えたら確認で2万kmあたりには交換するのが目安、そのほかには車検の時、ブレーキパッド交換時など。色で判断する場合は無色・琥珀色は問題なく茶色から黒色の場合は交換が必要。DOT3の場合は1年おきが目安、DOT4以上の場合は2年・2万km・車検が目安です。
ブレーキフルードのDOT規格はどれを入れても問題ないですか?
問題がある場合とない場合があります。純正品と同じものの利用がいいですが、DOT3からDOT4への変更は問題なく耐フェード性(高温時のブレーキ性能維持)が向上します。
DOT4からDOT3への変更は車を酷使する状況ではヴェイパーロック減少を引き起こすこともあります。
DOT4以下(グリコール系)とDOT5(シリコン系)の変更は問題があり、DOT5.1(グリコール系)であれば変更できます。
ブレーキ警告灯が付きブレーキフルードのタンクの中身が減っていたらどうすれば?
ブレーキ警告灯はパーキングブレーキが作動している状況を除けば、ブレーキ系のトラブルの時に点灯します。その時にチェックするのがブレーキフルードのタンクです。ブレーキオイルが減っていた場合は、まずブレーキパッドの減りを疑います。ブレーキパッドに問題がなければブレーキオイルの漏れが考えられますので整備工場で点検しましょう。