WLTCモードとは?従来のJC08モードとの違いと実燃費に近づいた理由
車を購入する時の重要な選択基準の一つに「燃費」があります。カタログなどに記載されている燃費を見ると、以前は「JC08モード」や「10・15モード」といった表記を目にしていました。これらは、国土交通省が定めた燃費の算定・表示方法です。2011年以前は「10・15モード」、2011年以降は「JC08モード」が主流として測定されていました。
しかし、「カタログ燃費」と「実燃費」には乖離があることが広く知られています。JC08モードの基準で算定した燃費でも、ドライバーの実際の走行環境や運転方法によっては、カタログ値よりも燃費が良くないと感じることも多々ありました。「JC08と実燃費の乖離」は、ユーザーの大きな不満点でした。
そこで、より実態に近い燃費値を表示するため、2018年10月から新たに国際的な基準に準拠した燃費測定方法が「WLTCモード」として導入されました。このWLTCモードは、従来のJC08モードと比べてどのような点が進化し、どのような燃費の種類を示すのか、その違いを詳しく紹介します。
WLTCモードとは「国際的な基準に合わせた燃費測定方法」のこと
WLTCとは、「Worldwide harmonized Light duty Test Cycle(乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)」の略称です。これは、国連の下で策定された燃費測定の世界統一基準である「WLTP(Worldwide harmonized Light duty Test Procedure)」に基づいています。WLTPでは、超高速フェーズ(時速130km以上)の測定が含まれますが、日本の道路事情を考慮し、日本のWLTCモードでは、走行することが少ない超高速フェーズを除き、低速・中速・高速の3つの走行フェーズで燃費を測定する方法を採用しています。
このWLTCモードの導入により、日本の燃費測定基準が国際的なものに統一され、世界各国との比較や貿易が容易になっただけでなく、より多様で現実の走行パターンを考慮した測定が可能になりました。「WLTCとJC08の比較」の際には、測定条件の違いが大きなポイントになります。
WLTCモードとJC08モードの測定条件の違い
JC08モードでは、最高速度80km/h付近、測定時間は20分、測定距離は8km程度の基準で燃費を算定していました。これに対し、WLTCモードでは、最高速度97km/h付近、測定時間は25分、測定距離は15kmと、より速い速度域を含み、時間も走行距離も長い基準で燃費を算定します。これにより、実際の運転状況に近い負荷を再現できるようになりました。「WLTCの測定時間」が長くなったことも、実態に近づいた理由の一つです。
また、JC08モードでは、燃料を多く消費しやすいエンジンが冷えている状態(コールドスタート)と、燃料の消費が比較的少ないエンジンが温まっている状態(ホットスタート)を25%対75%の比率で測定していました。しかし、国際基準のWLTCモードでは、すべての測定フェーズをエンジンが冷えた状態(コールドスタート)から開始して測定します。これにより、エンジン始動時の燃料消費の多さがより反映され、実燃費との差が縮まりやすくなります。
ただし、従来のJC08モードと同じくWLTCモードでも、測定時にはエアコンやその他の電装品(ヘッドライト、オーディオなど)は使用しません。そのため、エアコンを常時使用しながら走っていると、WLTCモードで示されたカタログ燃費よりも実燃費が劣る傾向にある点には、引き続き注意が必要です。「エアコン」使用時の燃費は、カタログ値よりも低くなります。
WLTCモードは4つの燃費を詳細に示すことで実用性が向上
JC08モードが示す燃費値が1つの数値(複合的な平均値)しかなかったのに対し、新たな国際基準のWLTCモードでは、従来通りの複合的な燃料消費率(WLTCモード燃費)の他に、「市街地モード(Low)」「郊外モード(Medium)」「高速道路モード(High)」と、3つの状況に分けた詳細な燃費値を示すようになりました。これは「3モード」と呼ばれ、ユーザーが自分の運転環境に合わせて燃費を予測しやすくなりました。
実際に運転していても、「街乗りの燃費」と「遠出した時の燃費」には明確な違いが出てきます。状況が異なる3つの燃費を示してくれることで、ユーザーにとっても燃費の傾向が分かりやすくなり、車選びの参考になります。特に、ストップ&ゴーが多く、最も燃料を消費しやすい市街地モードの値を示してくれることで、実際に車を購入してからカタログ燃費と大きくかけ離れた街乗りの燃費にがっかりすることも少なくなります。「実燃費」は、この市街地モードの値が最も近いと言われています。
WLTCモードの導入と燃費数値の変化(マツダ CX-3の事例)
マツダは、2017年夏に新型モデルを販売開始したCX-3(2.0リッターガソリンエンジン搭載モデル)において、業界に先駆けてWLTCモードでの認可を取得したことを発表しました。これは、WLTCモードが正式導入される前に、マツダが自主的に新しい基準を適用した先進的な事例です。
2WD(FF)のCX-3の燃費をWLTCモードとJC08モードで比較したデータは以下の通りです。
| WLTCモード | JC08モード | |
|---|---|---|
| 燃料消費率 | 16.0km/L(15.2km/L) | 17.0km/L(15.7km/L) |
| 市街地モード | 12.2km/L(11.6km/L) | 14.4km/L(13.3km/L) |
| 郊外モード | 16.8km/L(15.8km/L) | 17.2km/L(16.2km/L) |
| 高速道路モード | 18.0km/L(17.4km/L) | 18.3km/L(16.7km/L) |
※()内の数値は4WDモデル
複合的な燃料消費率(WLTCモード燃費とJC08モード燃費)の差は1.0km/Lですが、市街地モード(12.2km/L)とJC08モード(14.4km/L)を比べると2.2km/Lの差があることが分かります。一般的にカタログ燃費と実燃費の差は15%~20%程度に収まることが多いとされていますので、JC08モードよりもWLTCモードの市街地モードで計測された燃費の方が、より実燃費に近い数値を示すようになったと言えます。
WLTCモード導入によるエコカー減税への影響と「2030年度燃費基準」
エコカー減税は、排出ガス性能や燃費性能の基準達成度に応じて、自動車税、自動車重量税、環境性能割(旧・自動車取得税)などが免税または減税となる制度です。燃費基準は時代とともに厳しくなっており、2017年当時は「平成32年度燃費基準」が中心でしたが、現在は「2030年度燃費基準」が新たな基準として導入されています。「エコカー減税」が適用される基準も、この新しい基準に基づいて設定されています。
WLTCモードで測定すると、測定条件が厳しくなるため、従来のJC08モードで測定した時よりも燃費の数値が減少する傾向にあります。例えば、CX-3の例では、JC08モードの17.0km/Lに対し、WLTCモードでは16.0km/Lと、1km/L数値が減少しています。
燃費の数値が下がると、その分、燃費基準の達成率も下がり、エコカー減税の軽減率が下がったり、対象外になったりする可能性があります。例えば、従来の基準では「燃費基準+40%達成」で全額免税だったものが、WLTCモードに基づく新しい基準では達成率が下がり、軽減率が80%や75%に留まるパターンも出てきます。そのため、WLTCモード導入後は、エコカー減税の適用を受けるためには、より高い燃費性能が求められるようになったと言えます。
WLTCモードはユーザーの多様な走行環境に寄り添った燃費測定方法です
単なる平均的な燃料消費率だけを示すのではなく、「市街地モード」「郊外モード」「高速道路モード」と、3つの状況も合わせて記載するWLTCモードの燃費表示は、ドライバーの多様な走行環境に寄り添い、実態に近い燃費値を予測しやすくした点で、従来の測定方法から大きく進化したと言えます。これにより、「信頼性」が向上しました。
車両の設計や検査の基準を国際化する流れと同じく、燃費の測定方法も国際基準のWLTPに合わせて策定されました。日本では超高速域(Extra High Speed)の巡行を行うことが少ないため、時速100km巡行の高速域までの燃費を示すWLTCモードが2018年10月から本格的に導入されました。
WLTCモードでも、従来のJC08モードと同じくエアコンや電装品を消した状態で測定するため、エアコンなどをつけた状態で実際に走行すると、WLTCモードの燃費でも実燃費との間に差が生じる点に注意が必要です。また、急発進や急加速を多用しても同じくカタログ燃費とかけ離れる結果になりがちなので、燃費を意識するならば、なるべくエコドライブを心がけてください。「運転方法」も、実燃費に大きく影響します。