スピンドルグリル

スピンドルグリルとは レクサスの顔が生まれた理由と進化の軌跡

一目でレクサスとわかるスピンドルグリルは、なぜこの形になったのか。空力と冷却を担う機能面、廃止の噂の真相、電動化に合わせてボディ全体へ広がった経緯、所有時に気をつけたい点までまとめました。

レクサスのデザインアイコン「スピンドルグリル」

トヨタが世界展開している高級車ブランドがレクサスです。レクサスの車は、高い品質と走行性能が特徴です。

レクサスと言えば、強いインパクトと圧倒的な存在感を感じるフロントフェイス「スピンドルグリル」が最大の特徴です。台形を上下に配置したデザインは、一目でレクサスと分かる個性的なデザインアイコンとなっています。賛否を呼びながら10年以上かけて定着したこの造形は、いま電動化の波を受けて次の段階へ入りつつあります。

スピンドルグリルはレクサスを象徴するフロントフェイスの共通デザインアイコン

BMWのキドニーグリル

アウディのシングルフレームグリル

90年以上の歴史を持つBMWのキドニーグリルや、上部の左右に切れ込みがあるアウディのシングルフレームグリルなど、各自動車メーカーにはブランドを象徴するフロントデザインが採用されています。これらのグリルデザインは、遠くからでもそのブランドの車であることを認識させる重要な役割を果たします。

海外の自動車メーカーに多い統一したフロントグリルは、自社のブランド化に役立ち、市場における価値を高めてくれます。レクサスも、この統一デザインによってブランドの個性を確立する必要がありました。

スピンドルグリル採用前のレクサス

先鋭を意味する「Leading edge」と、巧みの技による精妙さを意味する「finesse」を組み合わせた「L-finesse」をデザインコンセプトに掲げ、1989年に北米から展開されたレクサスですが、スピンドルグリル採用前のレクサスは、高級ブランドとしては押し出しの弱いグリルデザインでした。日本での販売開始は2005年と、北米から16年遅れての上陸です。知性や先進性を感じさせる上品な造形は魅力でしたが、エンブレムを外すとどこの自動車メーカーかわからないほど、個性が薄いという課題を抱えていたのです。

レクサスのスピンドルグリル

2012年のレクサスGSから本格的に始まった「スピンドルグリル」の採用は、海外の自動車メーカーに負けないブランド力を持たせるために導入されました。その後はラインナップされる全車種にスピンドルグリルを統一し、レクサスの特徴となりました。

一目でレクサスと分かるこのスタイリングは、印象に残る反面、クセが強いという評判もあり、賛否両論ある中でも確実にレクサスブランドを象徴するデザインアイコンとして世界中に浸透しています。強い主張を避けたデザインでは記憶に残らない、という判断が先にあったわけで、好みが割れること自体は織り込み済みの選択でした。

スピンドルグリルの原点は2011年のコンセプトカー「LF-Gh」

市販車に先立って、スピンドル形状を世に示したのが2011年のニューヨーク国際オートショーで公開されたコンセプトカー「LF-Gh」です。車名は「Lexus Future Grand Touring Hybrid」の略で、次世代のミッドサイズGTセダンとして提案されました。

LF-Ghのフロントは、ヘッドライトより低い位置にラジエーターグリルを配置し、上下に向かって大きく広がる形状を取りました。当時のレクサスは上下2分割のグリルを採用しており、上が逆台形、下が台形という構成でした。この上下を1つにつなげたことで、それまでとはまったく異なる顔が生まれています。

翌2012年、4代目GSの市販モデルがこのデザインをほぼそのまま採用しました。コンセプトカーの奇抜な造形が市販車で薄められていくのが通例の中で、ショーモデルの思い切りを市販車まで持ち込んだ点が、スピンドルグリルの出発点を特徴づけています。

なお、GS以前にもIS FやCT、LFAには、のちのスピンドル形状につながる上下に広がるグリルが見られます。ある日突然生まれた造形というより、L-finesseの枠内で模索が続いていたものが、GSで1つの答えに収束したと捉えると流れがつかみやすくなります。

レクサスのスピンドルグリルは糸を巻き取る紡錘(ぼうすい)をイメージ

スピンドルグリルの「スピンドル(spindle)」は、紡績機の糸を巻き取る「紡錘(ぼうすい)」を指します。スピンドルグリルは、紡錘と同様に横から見ると中央がくびれ、台形を上下にくっつけたデザインとなっていることが、その名前の意味の由来です。レクサスの資料でも、逆台形のアッパーグリルと台形のロアグリルを組み合わせた形状として説明されています。

噂ではトヨタグループの本家にあたる豊田自動織機との関連性が取り沙汰されていましたが、レクサスは公式に否定しました。開発者からは、「グリルが大きい=高級車のイメージをやめたい」「多くの空気をロワーグリルから取り込むための下側の台形型を発展させた結果」という回答が示されています。紡錘という言葉と紡績業のつながりは偶然の一致で、形そのものは機能を詰めた先に生まれたものです。

間近で見ると、スピンドルグリルは平面を切り抜いた枠ではなく、中央のくびれに向かって面が絞り込まれた立体であることがわかります。上下のグリルが一体でありながら、アッパーとロアで奥行きが変えてあるため、斜めから見たときの陰影が大きく変わる造形です。

デザインだけではない 空力と冷却を担う機能部品としての側面

スピンドルグリルは見た目のインパクトばかりが語られますが、開口部としての役割も背負っています。2012年のGSの時点で、レクサスはスピンドルグリルを空力性能と冷却性能の向上を活かした造形として説明していました。

下側に向かって広がる台形は、走行風を効率よく取り込むための形状です。ラジエーターへの導風に加えて、ブレーキ冷却用のダクトや、前後のタイヤ周辺の気流を整える役割も担います。近年のモデルでは、グリルの奥にミリ波レーダーや前方カメラ、カメラ洗浄用のノズルが収まっており、開口部の大きさは安全装備の配置とも関わってきます。

開口部を大きく取れば冷却には有利ですが、空気抵抗は増えます。逆に絞れば燃費には効いても、高負荷走行での冷却が苦しくなります。大きく見せながら実際の通風量は必要な分に抑えるという調整が、スピンドルグリルの内部で進められてきました。グリル内の桟の角度や厚み、メッシュの目の細かさがモデルごとに違うのは、意匠の問題であると同時に空気の流し方の違いでもあります。

スピンドルグリルのデザインはFスポーツなどのグレードや車種により違う

レクサスのスピンドルグリルには様々なデザインがあり、車種やグレードによって異なる意匠を採用しています。レクサスのフルサイズSUVであるLXなどに採用されているのは、力強さを感じさせる横長の格子を強調したスピンドルグリルです。太い横桟を前後にずらして配置することで、正面から見たときに奥行きのある塊として見えるよう組み立てられています。

レクサスのスポーツグレード「F SPORT」は、よりアグレッシブな印象を与える網目状のメッシュデザインを特徴とするスピンドルグリルを採用しています。このメッシュは単純な網ではなく、グリル内の位置によって目の向きや密度が変化しており、CAD上で線1本、面1つの単位でバランスを取りながら作り込まれています。

SUVのNXには、横長のラインに縦のラインが入ったスピンドルグリルが採用されています。NXやIS500の世代からは、グリルの外周を囲んでいたメッキ枠が廃止されました。輪郭線で形を示すのをやめ、グリル面そのものの立体感でスピンドル形状を感じさせる手法へ切り替わっています。

コンパクトハッチバックのCTもオリジナルのスピンドルグリルを採用していました。小さなボディにグリルの面積を大きく取ることで、遠目でも「レクサス」とわかる存在感を持たせています。CTは2022年に生産を終了し、現在そのポジションはコンパクトSUVのLBXが担っています。同じ「スピンドルグリル」という名前でも、車種とグレードでこれだけ表情が変わるため、見比べると狙いの違いが見えてきます。

他ブランドのアイデンティティグリルと比べて何が違うのか

ブランドを象徴するフロントグリルは、レクサスに限ったものではありません。BMWのキドニーグリル、アウディのシングルフレームグリル、ロールス・ロイスのパルテノングリルが代表例です。国内でも日産のVモーション、スバルのヘキサゴングリル、三菱のダイナミックシールドが同じ役割を担っており、トヨタ自身もかつてのキーンルックから、現在はハンマーヘッドと呼ばれる造形へ軸足を移しています。

  • キドニーグリル:1933年から続く2分割の開口部。大型化と縮小を繰り返しながら、左右に分かれているという一点を守り続けています
  • シングルフレームグリル:2000年代半ばに確立された、ナンバープレート位置まで届く大型の一体フレームです
  • スピンドルグリル:上下に広がるくびれ形状。歴史は最も浅いものの、ブランド全体への浸透速度は際立っています

短期間でここまで浸透した理由の一つは、レクサスに守るべきグリルの伝統がなかったことです。歴史が浅いぶんデザインの自由度が高く、思い切った造形を一気に全車種へ展開できました。一方で、エントリーモデルから上級モデルまで似た顔になり、どのモデルかが判別しにくいという指摘も生まれています。統一デザインの強みと弱みが、そのまま表裏になっている状態です。

スピンドルグリルは廃止されずにレクサスの象徴として「進化」

2013年頃に騒がれた「スピンドルグリル廃止」の噂は、「スピンドルグリルには捕らわれないようにする」というレクサスの公式発表が発端となり、その後自動車メディアが一斉に報じたため、廃止論が広がりました。背景には、アイデンティティグリルに固執するほどの歴史と伝統がない分、デザインに自由度があるという開発側の認識もありました。

これはスピンドルグリルを進化させるため、「現在採用されているスピンドルグリルのデザインにはこだわらない」という意味でした。レクサスは、より存在感があり先進性を感じられるデザインに昇華させるための発言であり、廃止するというようなネガティブな意図は一切ありません。実際、噂が流れた後に登場したNX、RC、RC Fにもスピンドルグリルは備わり、ブランドの顔として定着が進みました。

インターネット上では否定的な言葉が目立つこともありましたが、スピンドルグリルを採用した2012年以降、レクサスは販売台数を伸ばし続けています。2025年の世界販売は88万2231台と3年連続で過去最高を更新し、北米では40万8070台、日本国内でも8万7418台を記録しました。電動車の比率は52%に達しています。

販売台数の実績を見る限り、レクサスのデザインアイコンであるスピンドルグリルは、日本のみならず世界的にも評価されています。もちろんグリルの形だけで車が売れるわけではありませんが、ブランド認知を押し上げる装置としては、狙い通りに機能したと判断できます。

「スピンドルグリルをぶっ壊せ」から生まれたスピンドルボディ

転機になったのは電気自動車です。モーターで走るBEVはエンジンの冷却を必要としないため、前面に大きな開口部を設ける理由がありません。それでもレクサスらしさをどう示すのか、という課題に対して出てきた答えが「スピンドルボディ」でした。

開発の現場では、豊田章男社長(当時)から「スピンドルグリルをぶっ壊せ」という指令が出たことが明かされています。グリルという開口部でブランドを名乗るのをやめ、スピンドル形状をボディ全体の塊として表現する方向へ舵が切られました。

この考え方は2021年のコンセプトカー「LF-Z Electrified」で示され、2022年に発表されたBEVの「RZ」で市販化されます。RZではグリル部分にあえて開口を設けず、写真のネガとポジを反転させるようにスピンドル形状を面で表現しました。輪郭にはフィンを配置し、ボディカラーを塗り分けることで、穴がなくてもスピンドルだとわかる造形になっています。

続いて登場したエンジン車のRXは、ラジエーターを冷やすための開口が必要です。そこでRXでは、スピンドルボディとスピンドルグリルを融合させた「シームレスグリル」が採用されました。フードの前端がわずかに前へ突き出し、グリルからボディへグラデーションのようにつながっていく造形です。2023年の新型LMもスピンドルボディの進化形として、ボディカラーをグリル部分まで連続させています。2026年に発表された3列シートBEVの「TZ」でも、スピンドルボディと幾何学的なグラフィックの組み合わせが採用されました。

実際に触れてみると、RZのスピンドル部分は塗り分けで平面に見える箇所にも微妙な面の起伏があり、手を滑らせると形が変わっていくのがわかります。グリルという部品ではなくボディの造形で形を作っているため、光の当たり方で表情が大きく変わるのも特徴です。

ユニファイドスピンドルが示す次のレクサスの顔

2023年に発表されたコンパクトSUVのLBXでは、「ユニファイドスピンドル」と呼ばれる新しいフロントフェイスが採用されました。これは、低い位置に配置されるラジエーターまでスピンドル形状を上下に圧縮した造形です。

フードとバンパーの間に設けられたスリットが左右のヘッドランプへつながることで、「レゾリュートルック」と呼ばれる表情が構成されます。従来の縦に長いスピンドルグリルと比べると、顔全体が横に広く、低く構えて見えるのが特徴です。グリルの面積そのものは抑えられているにもかかわらず、スピンドルの輪郭は残っています。

整理すると、スピンドルの表現は三段階で変化してきました。

段階 時期と代表モデル 考え方
スピンドルグリル 2012年 GS 冷却開口を大きく取り、グリルの形でブランドを名乗る
スピンドルボディ 2022年 RZ、RX、LM、TZ 開口に頼らず、ボディの塊としてスピンドルを表現
ユニファイドスピンドル 2023年 LBX 上下に圧縮し、ランプとつながるスリットで表情を作る

いずれも「スピンドル」という骨格を共有しながら、冷却の必要量とパワートレインに合わせて表現を変えている点で一貫しています。グリルが消えたのではなく、グリルという部品から離れてもレクサスだとわかる仕組みへ移行した、と捉えるほうが実態に近い変化です。

スピンドルグリルの問題点は「完成されたデザイン」だからこそ変化が難しいこと

フルモデルチェンジのたびにエクステリアの変更は大きな話題となるため、なんらかの変化を加えるのが一般的です。近年はモデルサイクルそのものが長期化しており、1世代を長く売る分、デザインの鮮度をどう保つかという課題は以前より重くなっています。

しかし、フロント中央に位置する大きなスピンドルグリルは、完成されたデザインのため、マイナーチェンジやフルモデルチェンジの際に変化を与えにくいのが難点となっています。デザインを小さくするとスピンドルグリルの持つ迫力が失われ、大きくすると主張し過ぎるデザインとなってしまいます。外形を変えられないため、変更の手段は内部のメッシュパターンやメッキ枠の有無、面の張り方といった細部に限られてきました。

もう一つの課題が、グレードやモデルの違いが伝わりにくいことです。フロントマスクが共通化されるほどブランドの統一感は高まりますが、エントリーモデルと上級モデルの差が遠目で判別しづらくなります。スピンドルボディやユニファイドスピンドルへの展開は、この行き詰まりを外側から解く試みでもあります。グリルの枠内で差を付けるのではなく、ボディの造形まで含めてモデルごとの性格を描き分ける方向です。

スピンドルグリルと長く付き合うために知っておきたいこと

所有する立場から見ると、面積の大きなフロントグリルには固有の気づかいが必要です。高速走行時に飛び石を受けやすいのは、車両前面で最も面積が広く、かつ前方に張り出しているスピンドルグリルの中央部分です。メッシュの奥にはラジエーターやコンデンサーがあり、小石が抜けてフィンを変形させることもあります。

手入れの面では、メッシュの目が細かいモデルほど虫の付着や水垢が内側に残ります。正面から拭くだけでは届かないため、柔らかいブラシを湿らせて格子の奥の汚れを落とすと、フロントの印象が変わります。高圧洗浄機をグリルの至近距離から当てると、裏側のセンサーやエンブレム周辺に水が回り込むため、距離を取って流すのが無難です。

傷や欠けが入った場合に注意したいのが、メッキ加飾された部品の扱いです。メッキ面は部分的なタッチアップが難しく、交換対応になるケースが多くなります。グリルは面積が大きいうえ、レーダーやカメラが組み込まれた世代では交換後に調整が必要になる場合もあり、小さな損傷でも作業範囲が広がりやすい部位です。駐車時に前向きで車止めへ寄せるとき、下側のロアグリルが縁石と干渉しないか確認しておくと、不要な出費を避けられます。

販売台数も絶好調!成長を続けるトヨタの高級ブランド「レクサス」の今後に注目

日本車は海外の自動車メーカーと比較するとデザイン力が弱いと言われていましたが、近年は日産のVモーション、三菱のダイナミックシールドなど、統一デザインを採用しブランド化に力を入れています。レクサスも例外ではなく、一目でレクサス車とわかる「スピンドルグリル」を導入し、ブランドの確立に成功しました。

レクサスは販売台数も好調で、高級自動車市場における存在感を高めています。2011年のLF-Ghから数えて15年、グリルという1つの部品で始まった取り組みは、スピンドルボディやユニファイドスピンドルという形でボディ全体へ広がりました。電動化という大きな変化の中で、レクサスがスピンドルという骨格をどこまで展開していくのか、その今後の動向に注目しましょう。