自動運転の説明を厳格化

自動運転と運転支援は別物 過信が招く事故リスクと国や業界が進める表現厳格化の理由

市販車のほとんどは自動運転ではなく「運転支援車」です。衝突被害軽減ブレーキの性能基準や義務化の時期、運転支援システムが作動しにくい条件を紹介し、機能を過信しないための心構えを解説します。

「自動運転」と「運転支援」は別物!表現の厳格化で変わるドライバーの心構え

「自動運転」をうたう車であっても、実際にはドライバーが常に周囲を監視しなければならないケースがほとんどです。国土交通省が事務局を務める「先進安全自動車(ASV)推進検討会」は2018年(平成30年度)、自動運転レベル1・2の車を説明する際には「自動運転」ではなく「運転支援車」という呼び方を用いることで合意し、自動車メーカーや販売店にも協力を求めました。同じ時期には、業界の自主ルールを運用する自動車公正取引協議会も、広告での「自動ブレーキ」「自動運転」という表現を見直しています。

この取り組みの背景にあるのは、言葉への過信が引き起こす事故リスクです。「自動運転」という言葉がドライバーの安全意識にどう影響するのか、国や業界がどのようなルールを設けてきたのか、そして2026年現在も新しい言葉が次々に生まれる中で、ドライバーは何に気を付ければよいのかを解説します。

「自動運転」という表現の厳格化が必要になった背景

高齢化が進む日本では、高齢ドライバーによる交通事故が社会問題となっており、運転を補助する先進技術への期待は年々高まっています。国土交通省の資料によると、死亡事故の約97%は運転者の違反に起因しており、人のミスを補う技術の普及は事故削減の大きな切り札と位置づけられてきました。

しかしその一方で、技術への過信からハンドルから手を離したり、前方から目を離してスマートフォンを操作したりするドライバーが現れることが懸念されるようになりました。自動車メーカーの広告では、「自動運転」「自動ブレーキ」という表現が広く使われてきました。実際にはドライバーの監視を前提とした運転支援機能であるにもかかわらず、車がすべてを自律制御するかのように誤解されるケースが問題となったのです。こうした過信がヒヤリ・ハットや交通事故につながるおそれがあるとして、国と業界が足並みをそろえて表現を見直す流れが生まれました。

国と業界が定めた「呼び方」のルール

表現の見直しは、国土交通省の検討会による「車両の呼称」と、業界団体による「広告表示の運用ルール」という2つの軸で進められました。

ASV推進検討会:レベル1・2の車は「運転支援車」

ASV推進検討会は、先進安全技術の開発や普及の指針を検討するため、産学官の有識者や関係者で構成される会議です。同検討会は2018年度、アクセル・ブレーキ操作やハンドル操作を部分的に自動化したレベル1・2の車を「運転支援車」と呼ぶことを決めました。レベル2までは、運転操作の主体はあくまでドライバーであり、システムは支援を行うにすぎないからです。

この呼称が主に想定しているのは、メーカーが消費者に向けて具体的な車種を宣伝する際に使う資料です。テレビCM、新聞・雑誌の広告、カタログやパンフレットなどが該当します。狙いは、ユーザーが機能やその限界を正しく理解し、適切な運転操作を続けるよう促すことにあります。

自動車公正取引協議会:「自動ブレーキ」「自動運転」の表示を見直し

自動車の広告表示に関する業界の自主ルール(公正競争規約)を運用する自動車公正取引協議会も、2018年11月に運用の考え方を改めました。テレビCMやWebなどでは単独の「自動ブレーキ」という言葉を使わず、「被害軽減ブレーキ」などの表現を用いることにしました。また、レベル2の段階の技術については「自動運転(技術)」という言葉を使わない方針も示しています。

実際、2019年に登場した日産の「プロパイロット2.0」は、高速道路の同一車線でのハンズオフ走行を可能にしながらも、「先進運転支援技術」として紹介されました。各メーカーの広告やカタログから「自動運転」の文字が消えていったのは、こうしたルール変更の結果です。

2020年にはレベル3以上の呼び方も決定

その後、ASV推進検討会はレベル3以上の車両の呼称も取りまとめ、国土交通省が公表しました。ポイントは、同じ「自動運転車」でも、条件付きのものと完全なものを名前ではっきり区別した点です。

引用元:国土交通省

自動運転レベルと車両の呼称(ASV推進検討会)
レベル 概要 運転操作の主体 車両の呼称
レベル0 運転を自動化する機能なし 運転者 -
レベル1 アクセル・ブレーキ操作かハンドル操作のどちらかを部分的に自動化 運転者 運転支援車
レベル2 アクセル・ブレーキ操作とハンドル操作の両方を部分的に自動化 運転者
レベル3 限定された領域でシステムが運転操作の全部を代替。システムから要請があれば運転者が対応 システム(作動継続が困難な場合は運転者) 条件付自動運転車(限定領域)
レベル4 限定された領域でシステムが運転操作の全部を代替 システム 自動運転車(限定領域)
レベル5 場所や条件を問わずシステムが運転操作の全部を代替 システム 完全自動運転車

自動運転はレベル0〜5の6段階に定義されており、現在市販されている乗用車のほとんどはレベル1〜2、つまり「運転支援車」の領域にとどまります。レベル2ではドライバーが常に周囲を監視し、いつでも運転操作を引き継げる状態でいることが求められます。各レベルの詳しい定義や技術の進化については関連ページで詳しく解説しています。

「自動運転」という言葉のイメージと、実際の技術レベルの間には大きなギャップがあります。このギャップを正しく理解しないまま運転することが、過信による事故リスクを高める最大の原因です。

「自動ブレーキ」の正式な名前は「衝突被害軽減ブレーキ」

一般には「自動ブレーキ」と呼ばれることの多い装置ですが、国の基準などで使われる正式な名称は「衝突被害軽減ブレーキ」です。名前が示すとおり、この装置の役割は「必ず止まる」ことではなく、衝突を回避できる場合がある一方で、回避できない場合でも被害を軽くすることにあります。

国が性能を確認する「性能認定制度」

国土交通省は2018年、メーカーの申請に応じて衝突被害軽減ブレーキの性能を国が確認し、結果を公表する性能認定制度を始めました。認定の主な条件は、次のとおりです。

衝突被害軽減ブレーキ性能認定の主な要件
試験の内容 求められる性能
静止している前方車両に50km/hで接近 衝突しない、または衝突時の速度が20km/h以下になる
20km/hで走行する前方車両に50km/hで接近 衝突しない
警報のタイミング ブレーキ制御の少なくとも0.8秒前までに、衝突のおそれを運転者に知らせる

この条件を見ると、静止車両に50km/hで近づいた場合でも「衝突時の速度が20km/h以下」であれば基準を満たすことがわかります。つまり、基準を満たした装置であっても、状況によってはぶつかることが前提になっているのです。「自動ブレーキがあるから大丈夫」という考えがいかに危ういかは、この数字からも読み取れます。

新車への装着は段階的に義務化

国は2020年1月、国連で採択された国際基準を取り入れ、乗用車などへの衝突被害軽減ブレーキの装着を世界に先駆けて義務付けました。対象は、乗車定員10人未満の乗用車と、車両総重量3.5トン以下の貨物車です。

衝突被害軽減ブレーキ装着義務化の適用時期
区分 国産車 輸入車
新型車 2021年11月 2024年7月
継続生産車 2025年12月 2026年7月

軽トラックは2027年9月からの適用です。2026年9月時点では、軽トラックを除き、国内で新たに販売される乗用車のほぼすべてに衝突被害軽減ブレーキが備わっていることになります。装置が当たり前になった今こそ、その限界を知っておくことがより重要になっています。

運転支援システムの限界と「過信」の危険

国土交通省は、全車速追従機能付きのクルーズコントロールや車線維持支援装置などの運転支援システムについて、過信や誤解をしないよう繰り返し注意を呼びかけています。ここでは、特に知っておきたいポイントを整理します。

故障していなくても作動しない・突然止まることがある

運転支援システムは、カメラやレーダーで周囲を監視して制御を行います。そのため、センサーが状況を正しく捉えられない条件では、故障していなくても作動しなかったり、使用中に突然制御が止まったりすることがあります。国土交通省が挙げている代表的な例は、次のような場面です。

運転支援システムが作動しにくい主な状況
状況 起こりうること
他車の急な割り込み 前方車両の検知が遅れ、減速が間に合わない
白線が雪や障害物で見えない 車線を認識できず、車線維持の制御が止まる
雨・雪・霧などの悪天候 カメラやレーダーの認識性能が落ちる

そして最も重要なのは、システムが作動しなかった結果として衝突に至った場合でも、安全運転の責任は運転者にあるという点です。

作動中のスマホ操作やナビ注視は道路交通法違反

運転支援システムの作動中であっても、携帯電話を操作したり、カーナビの画面を注視したりする行為は、通常の運転中と同じく道路交通法違反となります。ハンドルから手を離せるハンズオフ機能付きの車でも、前方から目を離してよいわけではありません。多くのハンズオフ対応車では、ドライバーモニターカメラが視線や顔の向きを監視しており、よそ見を続けると警告が出て機能が解除される仕組みになっています。

使用を想定している道路を確認する

クルーズコントロールや車線維持支援は、多くの車種で高速道路や自動車専用道路での使用を前提に設計されています。国土交通省も、一般道で使うと思わぬ事故につながるおそれがあると注意を促しています。最近は一般道に対応したシステムも登場していますが、自分の車の機能がどの道路を想定しているかは、取扱説明書で必ず確認しておきましょう。

センサーのズレにも注意

運転支援システムの性能は、カメラやレーダーが正しい位置・角度に取り付けられていることが前提です。フロントガラスやバンパーの交換、事故の衝撃、縁石への乗り上げなどでセンサーの向きがずれると、システムが正しく作動しなくなるおそれがあります。センサーの向きを調整する作業は「エーミング」と呼ばれ、2020年からは国の認証を受けた整備工場で行う「特定整備」の対象になっています。修理の際は、エーミングまで実施してもらえるかを確認すると安心です。

海外でも問われる「名前」の責任:テスラの事例

機能の名前がドライバーの誤解を招くという問題は、日本だけのものではありません。象徴的なのが、米カリフォルニア州とテスラの間で起きた問題です。

カリフォルニア州車両管理局(DMV)は2023年、テスラが運転支援機能「オートパイロット」と上位機能「フルセルフドライビング(FSD)」を、実際の性能以上に宣伝していると指摘しました。2025年12月には、行政審判の裁判官がこれらの名称を誤解を招くものと判断します。これを受けてDMVは、テスラが対応しなければ州内での販売ライセンスを一時停止する可能性があると通告しました。

テスラは同州でのマーケティングにおいて「オートパイロット」という言葉の使用をやめ、DMVは2026年2月、販売停止の処分は必要ないと判断しました。その後もテスラは米国向けのソフトウェア更新で「オートパイロット」関連の表示を「オートステア」などへ順次改めています。FSDの名称にも「Supervised(監視付き)」という言葉が添えられました。一方でテスラは、DMVの判断そのものの撤回を求めて提訴しており、名称をめぐる議論は続いています。

世界的に強い影響力を持つメーカーであっても、名前が実態とかけ離れていれば当局から修正を求められる。この一件は、「言葉の正確さ」が安全に直結する問題として、国際的にも重く受け止められていることを示しています。

新しく登場した「レベル2+」「レベル2++」という言葉

一方、技術の進化にともなって、新しい言葉も次々に生まれています。近年よく耳にするのが「レベル2+(プラス)」や「レベル2++(ダブルプラス)」です。

一般に、条件付きでハンドルから手を離せる高度なレベル2を「レベル2+」と呼びます。さらに、AIを使い、ナビで設定したルートに沿って市街地まで自律的に走行できるシステムを「レベル2++」と呼ぶことが多くなっています。ただし、これらはSAEの正式な区分ではない通称です。どれほど高度に見えても分類上はレベル2であり、最終的な運転責任はドライバーにあります。

2026年9月には、日本自動車工業会(自工会)が記者会見の正式な資料で「レベル2++」の普及を進める方針を示しました。あわせて、サポカーのような「L2++優良認定制度」の検討にも言及しています。もっとも、何をもってレベル2++とし、どのような基準で認定するのかは、まだ決まっていません。

「自動運転」という言葉が広告から消えた一方で、「+」や「++」といった記号が新たなイメージを生む可能性もあります。言葉の響きではなく、「ハンドルから手を離せる条件は何か」「最終的な責任は誰にあるか」という中身で判断する姿勢が、これからのドライバーにはいっそう求められます。

自分の車の運転支援機能を正しく知るためのチェックポイント

最後に、愛車の運転支援機能を正しく使いこなすために確認しておきたいポイントをまとめました。納車時や、久しぶりに取扱説明書を開くきっかけとして活用してください。

運転支援機能のチェックポイント
確認すること 確認のポイント
搭載されている機能の名前と内容 衝突被害軽減ブレーキ、全車速追従クルーズコントロール、車線維持支援など、何が付いているかを把握する
作動する速度域と道路 何km/hから何km/hまで作動するか、高速道路専用か一般道でも使えるかを確認する
苦手な条件 悪天候、逆光、白線のかすれ、急な割り込みなど、取扱説明書に記載された作動しにくい状況を知っておく
ハンズオフの可否 ハンドルから手を離せる機能の有無と、その条件(道路・速度・渋滞時のみなど)を確認する
センサーの状態 フロントガラスやバンパー周辺のセンサーを汚れや雪で覆わない。修理後はエーミングの実施を確認する

「運転支援」という言葉の普及でドライバーの安全意識向上を

自動車メーカーは、広告での「自動運転」「自動ブレーキ」という表現を「運転支援」や「被害軽減ブレーキ」へ言い換える取り組みを進めてきました。国が定めた呼称そのものに法的な強制力はありません。しかし、業界の自主ルールとあわせて運用されることで、広告の表現は大きく変わりました。正確な言葉が広まることで、「技術を過信せず、ドライバー自身が責任を持って安全運転を心がける」という意識の向上が期待されています。

海外でもテスラの事例のように、機能の名前が誤解を招くとして当局が是正を求める動きが出ています。技術が進化し、「レベル2++」のような新しい言葉が登場しても、現状の市販車においてはドライバーの判断と操作が不可欠です。言葉の響きに惑わされず、自分が乗る車の機能とその限界を正確に理解したうえで運転することが、事故を防ぐための第一歩です。