全固体電池の仕組みと課題

全固体電池の実用化がEVと車社会の未来を変える

全固体電池の実用化によりEVや車社会の未来は変わる。東京モーターショー2017でトヨタが2020年代前半までに商品化すると発表してから注目度が高まった電池の航続距離が飛躍するなどのメリット、その仕組みと課題についても取り上げ。

全固体電池の実用化がEVと車社会の未来を変える

全固体電池時代がやってくる前にその仕組みと課題を確認

トヨタは2017年10月25日に開催した東京モーターショー2017で、PHV(プラグインハイブリッド車)やEV(電気自動車)用に開発をすすめる全固体電池を2020年代前半までに実用化を目指す方針を明らかにしました。

全固体電池が実用化されるとEVの航続距離は飛躍し、充電時間は大幅に短縮する等のメリット面が大きいため、トヨタ自動車のディディエ・ルロワ副社長は、「全固体電池はEV市場の流れを変えるゲームチェンジャーになりうる技術」であると称しています。

全固体電池の実用化時期を明らかにしているのはトヨタだけではありません。韓国のサムスンSDI社は2025年まで全固体電池を実用化すると明言しています。株式市場においては、全固体電池に携わる企業の銘柄は注目株です。

これからの車社会を語る上でのキーワードの一つである。全固体電池の仕組みや課題、実用化された時の未来予想図を紹介します。

トヨタ自動車と出光興産はバッテリーEVに搭載させる全固体電池に用いる予定の硫化物固体電解質の共同開発を行って2027年~2028年に実用化・量産化を目指すことを発表した

トヨタと出光興産は全固体電池の実用化・量産化に向けて技術開発などの分野で協業体制を結んだ

トヨタ自動車は2023年10月のプレスリリースで、出光興産と自社のバッテリーEV(BEV)に搭載させる、次世代型電池として見据える全固体電池の量産化に向けての要となる、固体電解質の品質を向上させ、生産力をアップさせる為に、両社で協業を開始させた事を発表した。

全固体電池には充電時間の短縮・後続距離の飛躍化を行えるなどのメリットがある

トヨタと出光興産は全固体電池に用いる固体電解質として硫化物系の物質を候補として考える

トヨタと出光興産は、後続距離の飛躍化 / 高出力化 / 短時間充電が可能 / 小型化できる /耐候性が優れるといったメリットを備える全固体電池に、用いる固体電解質の候補として、軟化性を備え、他の材質と密着しやすいという性質を備えているために、電池を量産化させる際に利便性があると判断している硫化物固体電解質を候補として考えて研究を進めていく事を発表した。

全固体電池の克服すべき課題は充放電を繰り返す際に、内部構造に亀裂が生じてしまって、電池としてのポテンシャルが落ちてしまう事

全固体電池と、化学エネルギーを電気エネルギーに変換させる際に、主な役割を担う電解質にリチウム等を用いる液体電池とを比較すれば、充電・放電を繰り返す際に、正極と負極に用いる素材と固体電解質との間に亀裂が出来てしまって、ポテンシャルが落ちてしまう事が課題である。

出光興産は固体電解質の中間原料となる硫化リチウムの製造技術に強みを持っている

石油を精製する過程で得られる副産物を有効利用して、硫化物固体電解質の中間材料となる硫化リチウムを製造する技術力などを誇る出光興産と、電気自動車を開発する構築してきた電池加工・組み立て技術を蓄積しているトヨタは、互いの強みを活かして、2027年~2028年に全固体電池を実用化させて、安定供給を可能とする量産化体制の実現を目指します。

全固体電池の仕組みと特徴 航続可能距離が延び充電時間が短縮する夢のバッテリー

全固体電池の仕組み

全固体電池には、従来のリチウムイオン電池よりも航続可能距離(EVが1回の充電で走行可能な距離)は飛躍、蓄電量は2倍となり充電時間も短縮、電池の寿命も延びる等のメリットがあります。

現在の主流であるリチウムイオン電池の容器には、有機電解液が混入されています。リチウムイオン電池では、有機電解液中に含まれる陰イオンと陽イオンが正極及び負極の物質と化学反応することで、電子のやり取りが行われ、その過程で電流が発生していました。

リチウムイオン電池には、電解液の中に異物が入り込んでしまうとセパレーターが破損してショートすると異常な熱が発生してしまって、発火や破裂が起こってしまうというデメリットがあります。

バッテリーが並ぶ基盤

全固体電池は、容器の内部を有機系電解液で満たすのではなく無機系電解質を埋め込みます
全固体電池では正極材料に硫化物、負極にリチウム合金を用いることで、固体の層を階層化して獲得できる電気量が向上します。
また、リチウムイオン電池に比べると発火や破裂が起こりにくく、容器のサイズがコンパクトであるという特徴もあります。

リチウムイオン電池の航続距離は350km程が限界と言われ、ガソリン車の1回の給油では500kmの走行が可能です。全固体電池では、1回の充電でガソリン車以上の航続距離が可能となります。

全固体電池は将来的にサイズダウンが進むため、電気自動車以外の電力源としても利用の幅が広がっていきます。

全固体電池の課題は電気を発生する時に放出される有毒な硫化水素ガス

プリウスのバッテリー

全固体電池は、電気を発生するために固体の無機電解質を利用します。無機固体電解質の材料には、硫化物系と酸化物系が想定されています。

硫化物系を用いれば、酸化物系よりも1桁程度リチウムイオン導電率を高く出来る等の利点があります。しかし、硫化物系の材料には硫黄が含まれているため、空気中に含まれる水分と反応すると有毒な硫化水素ガスが発生してしまいます。課題の克服には、容器の密閉性を強化すること、発生したガスを吸着することなど何らかの対策が必要です。

その他の課題として生産コストが高いこと、負極側に用いる素材であるリチウム金属の耐還元性なども挙げられます。

全固体電池はEV市場の流れを変えるゲームチェンジャー

トヨタはHVやPHV等の電動車、37車種を90ヶ国以上にラインナップしています。それら車の年間販売台数は150万台近くにも及び、世界の電動車マーケットのシェア率は4割を超えます。各国で培われた販売実績は、確実に訪れるEVの大競争時代にも活かされます。

将来的にEV市場は熾烈な争いを繰り広げます。その際に、全固体電池はEV市場の流れを大きく変えるゲームチェンジャーとなり得る力を持った技術であるとトヨタは考えています。

トヨタは技術者200人以上で開発を進める全固体電池のトップランナー

車に充電する女性

2020年代前半の実用化を目指しているトヨタは、全固体電池のトップランナーです。トヨタは全固体電池に関する特許出願数においてトップをひた走り、その分野の権威である東工大・菅野教授との共同開発を進める、技術者200人以上の体制で開発を急ぐ等の積極投資を行っています。

全固体電池の実用化がEVの流れを劇的に変える

バッテリーで走る車

EVの更なる性能アップには、全固体電池の実用化が鍵を握っています。実用化の課題は、発生する硫化水素ガスをどう巧く処理するか。
日産では2028年度に全個体電池の市場導入を明言しているため、各自動車メーカーも2028年度以降、全個体電池を導入することが予想されます。

全固体電池が実用化されれば、1度の充電走行できる航続距離が飛躍し、ガソリンを満タンにした時の走行可能距離よりも長い距離を運転する事が可能です。現在、主流であるリチウムイオン電池と比較すると全固体電池は蓄電量が2倍となるため、全固体電池を搭載するEVではバッテリーを積むための空間は最小限になるため、車内空間を広くとることが可能です。

全固体電池車

東京モーターショー2017に出展されたトヨタコンセプト-愛iシリーズ等の未来の車に、全固体電池が搭載される可能性は大きいです。

トヨタのディディエ・ルロワ副社長は、東京モーターショー2017でのプレスカンファレンスで「電動化はモビリティの未来を変えていく。電動化の目的は環境負荷を低減すること。真の環境への貢献はクルマが普及してこそ意味がある」とアナウンスしました。

環境に優しいと言われるEVは、全固体電池の実用化でグレードアップします。全固体電池の技術の力で、車社会の流れは大きく変わりクルマと環境が調和する時代がやってきます。